トーン重めの映画。じわーっとした涙が出ました。

ネタバレ注意⚠️です!









子離れ、親離れできない家族のおはなしとして、後世に語り継ぐべき逸作です。

予告の段階では非常に男臭く、汗臭く、スポ根で熱苦しそうな映画でした。

でも実際には、いや確かに熱苦しいほどのプロレス愛でしたが、その根底をなす家族の絆には、終始胸を打たれました。家族とは、夢とは、と考えさせられる素晴らしい題材であり、映画表現です。

一見の価値は大いにあります。

その意味で今作は、テーマとして

「安全基地」

というキーワードなしでは語れないと感じるのです。

▼演出について
・四男のバイク事故のカメラワーク
遠くから何かが来るのか…?ぶつかるのか…?なんだろう…?という不安を煽る演出。素晴らしい。
・同じく四男の事故後のカメラワーク
いつも通り穏やかに目覚める。本当にこの瞬間、一瞬だけどホッとする。が、背中の傷、松葉杖、、と一段ずつ落とされていく感覚。そしてキッチンカウンターを超えて写った右足…むごいくらい観客の心をえぐる演出。素晴らしい。
・ケビンがひとりぼっちになった後の世界チャンプ戦までのトレーニング
まさしく、プロレスリングに閉じ込められ、抜け出したくとも抜け出せない。ロープがはち切れそうな、床が抜けそうな、そのもがき苦しむようなトレーニングにまた、心をえぐられる。素晴らしい。
・涙の描写
母親も父親も子供達も、みんな涙はタブーとされ、しっかり描写される。
涙には戻ると言う字が入っているが、まさしく安全基地に戻りたい証左として涙が描かれていると思えた。
そしてラストのケビンの子供達の一言に、こちらもジワッと涙した。ケビンが本当の意味での安全基地に戻った瞬間だった。。。


以下はものすごく長いです、すみません。

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▼ストーリーとしての考察
父親をはじめ、四兄弟(本当は五兄弟)のプロレス世界一という夢は、非常に過酷なものです。

過酷でも頑張れる。たくましい。
彼らのモチベーションはすべてと言って良いほど、「家族のため」です。ケビンが妻に問われる「人生で何をしたい?→家族といたいのさ」という問いと答えがすべてだと思いました。

・家族団欒で食事をするシーン
・寝床で安眠から目覚める穏やかなシーン
・兄弟親子で庭で戯れるシーン

これらが要所要所に散りばめられていますが、この家族には「帰ってこれる安心できる場所」としての機能がしっかりとあります。その演出には、羨ましささえ感じるリアリティがありました。素晴らしい。

しかしながら、一見明るい側面でも、このストーリーとしては暗い側面にスポットを当てています。

一言で言うと
「彼らにとって安全基地だったものが、いつのまにか一生抜け出すことのできないプロレスリングになっていた」
ということです。

プロレスの夢は、あくまでも父親の夢です。子供達がそれを引き継ぐのかどうかは、本人に委ねられるはずですが、この家庭では違います。

安全基地として機能しないのは
・プロレス世界一の夢を叶えるための駒として子供を使ってしまったこと
→個人的には、祖父母がいればまた変わったのかな?とも。
・その夢のために、プロレス意外の相談には一切のらないし、子供達で解決するように押し付ける
→文字通り、はしごを外されたようなケビンの表情、父親の首をしめるシーンでは本当に胸が苦しくなりました。

さて、これはただの持論ですが、
安全基地/ 家族と自分の行動範囲の距離感は、年齢に比例するのです。

しかしケビンの家庭では、まったく比例しない。いつの間にか、安全基地に戻ることが義務であるかのように、家族のもとに戻るし、物理的にも精神的にも1人で遠くまで行くことが出来ない。

何より、日本に行き、巡業や移籍で1人になった三男四男が命を落とす場面からは、安全基地と行動範囲のことを考えられずにはいられなかった。

五男に至っては、安全基地から離れることすら許されない。自分で人生のハンドルを握る実感を手早く得たいと言わんばかりに、自ら命を絶ってしまう。

唯一、結婚というかたちで、家の外で安全基地を作るチャンスを得たケビンが、最後に本当の意味での安全基地を作ることに成功する。

・妻に「大切な時にこそ側にいてほしい」と問い正されるところ
・プロレス意外の相談に乗らない親に対して激昂するところ
・父親の会社を売却するところ

これがきっかけとなったのでしょう。

一家の栄光からの転落に見えて、ずっと歯車は狂っていました。

「苦しい時、大切な時にこそ、一緒にいて欲しい」というケビン妻の言葉が、このプロレス家族だけでなく、全家庭を救うと思います。

小さな時から大なり小なり、子供一人で行動させる、旅をさせる。
達成した時に分かち合うのは当たり前ですが、苦しい時ややるせない時に側にいてあげる。そしてまた旅に送り出す。
これをいつも、いつでも、いつまでも親として子供にしてあげられるかが、本当の子育てなんだと、思うのです。

兄弟全員が天国?で再会するところで観客は救われます。何事にも囚われることなく、抱擁し合う姿に涙しました。