Chaotic Journey
Chaotic Journeyというフリーゲームを最近プレイしました。夢現にもレビューを書きましたが、学ぶべきことが多かったのでブログにもまとめます。
【徹底したミニマル化】
このゲームにモンスターのグラフィックはありません。また、ダンジョンマップもありません。その辺りは全てテキストベースで語られます。フィールドらしきマップは、常に自分の周囲9マスがランダム生成されるというものです。アイテム、装備品のストック、従者は全て同じインベントリ内で管理されます。これらが全て一つの画面レイアウトに収まっています。
主な基本操作は以下
①フィールドでの上下左右移動
②1〜6の選択肢ボタン(選択内容はテキスト表示)
③インベントリ、装備品のアイコン選択
ゲーム内で進行するダンジョン探索、イベントや戦闘は全て、画面の大部分を占めるコマンドライン上に文章で表現されます。
【拘りポイントへの注力】
グラフィック・アニメーション周りや画面遷移を極限まで削った代わりに、このゲームには細かい機能がたくさん実装されています。
①多種多様なクラス(職業)
②装備品の製造、強化、ランダムエンチャント
③多様なランダムイベント
④豊富なアイテム
TRPGで体験したくなるようなイベントはほぼ全て実装されており、見た目はシンプルですが奥が深いです。戦闘には士気の要素があり、戦闘で士気が大幅に下がったモンスター集団は撤退します。
【個人制作で完成させる為に】
削減された工程
①固定マップ・シナリオ作成
②グラフィック演出・画面デザイン
代わりに得たもの
①リプレイ性
②拡張性
個人制作は時間もリソースも限られています。全てに手を広げると、完成させるのは困難です。なので、何に注力して何を捨てるのか、選択する必要があります。
ローグライク形式を選択すると、シナリオ作成コストを削減し、自由度の高さ、リプレイ性の高さを得ることができますが、その代償として相当量のプログラム実装が求められます。
フリーゲームに一本道のRPGが多いのは、このランダム要素の実装コストが高いからです。見た目やシナリオを拘りたい創作者は、ランダム要素の実装まで手が回せません。欲張って全部に手を伸ばせば、エターなります。能力の問題ではなく、単純に体力と時間の問題です。
このゲームはローグライクの面白さを追求するため、フィールドマップを完全ランダム生成とし、かつ生成されたマップを記憶しないという大胆な割り切りをしました。普通の発想ではなかなか出来ない英断です。
マインクラフトは探索を進めると、ワールドデータがどんどん膨らみます。生成されたマップデータを記憶して、プレイヤーが戻ってきた時にいつでも読み込めるようにしておくためです。無限大に広がるランダム世界では、膨らむワールドデータをどう管理するかという問題に向き合わねばなりません。
ですが、「生成されたマップは9マス以上記憶しない」としておけば、データの書き込み、読み込み領域を固定化することができます。通り過ぎたマップのデータは捨てて上書きしてしまうことで考慮すべき点が減り、マップ自動生成の実装コストを抑えることが出来ます。
それでいて、プレイヤーが体験できる世界の広さは無限大なのですから、この割り切りは作者プレイヤー双方にとってお得な取引なのです。
どこまで削ってよいか、この線引きのセンスは、どこまでプレイヤー心理を熟知しているかにかかっています。ランダム生成された世界を楽しむローグライクでは、特定の場所に戻れないことは致命的な欠陥ではないと判断できたのです。
「モンスターのグラフィックを無くす」といった割り切りも一般的な制作者心理では怖いものですが、ローグライクの醍醐味を熟知している作者なら「面白くしてみせる!」と踏み込めるのです。実際、バトルは色々な要素が絡んで楽しめる内容になっています。
テキストベースの独特な世界感を支えているのは、実はグラフィックです。レトロ調に統一された画面がその説得力を全て請け負っています。当時はハードウェアの限界で、どうしても世界を記号化せざるを得なかった。でもそれが逆にプレイヤーに想像の余地を与えて、脳内で楽しめるようになっていた。昔はこういうゲームが普通だったんだ。プレイヤーはそのレトロな世界を受け入れ、浸るのです。
最後に作者視点での大きなメリットを挙げて終わります。拡張性です。全体がテキストベースのランダムイベントで成り立っているシステムですから、新しい要素も比較的追加しやすい作りになっています。所謂マイクロサービスに近い作り方が出来ます。
例えば、このゲームにはカジノという独自のサブルーチンを追加して、ランダムイベントの候補として加えることでアップデートが可能です。
グラフィックは不要です。コアなロジックを用意してあげれば、文章表現でスロットゲームも実装できます。プレイヤーの脳内補完を利用したコマンドベースならではの強みです。
ベースを固めてから少しずつ育てられるゲーム基盤は、リプレイ性の高いローグライクの特権であり、一話完結してしまう一本道RPGでは中々こうはいきません。アジャイル的に作れるというのは、体力的にもモチベ的にも、実は個人制作では大事な要素なのではないかと、最近思うようになりました。
この拡張性を可能にする土台作りには相当な労力がいったと思います。リリースにこぎつけられたのは、ひとえに作者さんの情熱があったからだと思います。
このゲームには色んな意味で、刺激と希望を与えられました。私自身、純粋にプレイヤーとして何時間も楽しんでいますが、制作者視点でも得るものが大きい作品です。私がこの作品を知るきっかけとなったYoutube動画のコメントに集約されるのですが、本当に「つくりが美しい」です。
興味を持たれた方はぜひ覗いてみて下さい。