CIOとイノベーション
先日のブログで記載したとおり国際CIO学会に出席しました。
初めての出席だったので要領も良く分からず、おとなしく拝聴
するだけという消極的な出席だったのですが、他の方々の
研究結果や講演などの事例紹介を聞きながら、色々思う
ところがありました。
本日取り上げたいのは、タイトルにありますとおりCIOとイノ
ベーションについてです。たまたまなのか、CIOの役割や責務を
語るときに、いつも「イノベーション」ということが話題に上がります。
それも、様々な役割や責務の内の一つということではなく、その
多くの部分をこの「イノベーション」が占めているかのような取り
上げられ方がされているように感じます。
昨日の学会での研究報告において、神岡太郎 一橋大学教授の
報告では、CIOへのインタビュー結果として、CIOとイノベーションの
関係について、CIOが機能している企業におけるCIOのイノベー
ションに対する位置づけは、従来イネーブラーであった。それが、
徐々に、ドライバー、さらに、ストラテジストへ移行しつつある。ある
いは、CIOがそのように志向しているとの報告がありました。
イネーブラー、ドライバー、ストラテジストというのは、イメージ的に
は、次のような感じだと思います。(言葉の吟味が足りず、適切な
表現になっていないかもしれませんが)
イネーブラー
イノベーションに取り組む他者の支援者
ドライバー
主体的にイノベーションを実現するように活動する人
ストラテジスト
どうすればイノベーションが実現できるか企画し、実現を図る人
つまり、CIOは主体的に自らイノベーションの担い手としての
役割を担うことを志向する傾向があるとのことのようです。
各社の事業状況、CIOの位置づけ、企業内におけるCIOの認知
度等によって、CIOがどのように振舞うことが結果イノベーション
実現への近道なのかは異なるのかもしれません。現在の日本の
企業において、CIOの数は増加してきていますが、明確なミッシ
ョンを持って活動しているCIOはまだ一部で、多くが情報システム
部門の責任者といった肩書きにとどまっていることが、経済産業省
の調査(「平成18年情報処理実態調査結果報告書」)から見て
取れます。このような、まだCIOがCIOとして機能するに至らない
状況、つまり、事業部門側から見て、CIOが何者か分からない状
態において、CIOがドライバーやストラテジストとして機能するこ
とは、非常に難しいと考えています。
拙書では、CIOは、Chief Innovation Officerであるべきで、改革に
対してイネーブラーというよりドライバーとして機能すべきであると
記載しています。(イネーブラー、ドライバーという言葉は使ってい
ませんが) しかし、最近の私の考えとしては、CIOはイネーブラー
として振舞う、あるいは事業側に責任意識を持たせ、CIOがイネー
ブラーに回る状況を作りだす、ということがイノベーションを実現す
るために適しているのではないかと思っています。
ある企業での例ですが
ある事業で商品の普及率が高まり、今後市場の大幅な縮小が
想定されていました。その回避のために、新規販売からリプレー
ス販売、メンテナンスビジネスなどへ大きくビジネスを変える必要
性がありました。問題意識を持った役員が、その改革の指揮を
とりましたが、その一方で他事業の業績が芳しくなかったために、
当該事業にも従来どおりの利益予算を課しました。この結果、予算
達成が第1と考えた事業部は、改革を推進せず、従来通りの販売
手法を継続しました。しかし、その1年後、市場の縮小は予想を
上回って進んだため、結果予算を達成することができませんでした。
また、午後のパネルディスカッションの中で、オムロンの樋口執行
役員常務によると、
経営トップがイノベーションを実現しないと達成しえないような
目標を事業部門に与え、事業部門がその実現に真剣に取り組む
際に、CIOはイノベーションといえるような大きな改革を実現する
ためのよき支援者と成りえた。しかし、その事業での成功事例を
他事業へ横展開することをCIOが役割として担った際、その横展
開の対象となった事業は、非常に大きな抵抗を示し、改革は困難を
極めた、とのこと。
何のためにイノベーションが必要かというと、事業の競争力を高め、
収益力を向上させるためです。イノベーションはそのための手段で
あり、目的は競争力強化や収益力向上にあります。つまり、イノベー
ションが実現できたかどうかが大切なのではなく、なんらかの結果、
収益力が向上したかどうかが大切、言葉を変えれば評価の対象と
なります。
この収益についてだれが責任を持っているか(評価されるか)と
いうと、事業部長などのその事業の責任者です。CIOなどの経営
チームも結果として全社の業績責任を負っているといえますが、
対象事業でみれば、その事業のトップである事業部長などが
直接の責任者です。
いくらすばらしいイノベーションブランであっても、事業責任者が
自らの職責を果たすために必要と考えなければ、その取り組みを
推進することはありません。成功例のあるイノベーションプランで
あってもそれがイノベーションと呼べるほど大きな改革であれば
あるほど、その実行結果(成果)は見えにくいものです。
例えば・・・
今のままでも例年の80%の利益は見えている。努力することで
100%に近づけることは不可能ではない。一方、改革を行う場合
失敗し大きな業績低下を招く可能性がある。あるいはそれなりに
改革が進んでも、今期の業績低下は免れない。
このため、他者がイノベーションの実施を働きかける場合、多くの
場合、その事業の業績責任を持つ責任者の反応は消極的なものに
なりがちです。また、トップダウン的に改革を強制する場合もあり
ますが、多くの場合、業績責任を果たせると事業部門が認識しな
い限り、抵抗勢力化したりということが起こるように思われます。
行政では異なるかもしれませんが、民間企業のような利益獲得を
主たる目的にする組織の場合、その利益責任を負う人員に最終
責任を負わすべきで、その意味で利益獲得策の再構築である
イノベーションについても、ストラテジストやドライバーは事業部門が
担い、CIOはイネーブラーとして機能するほうが、いい結果を生む
ように感じています。
イノベーションは、組織や企業をまたがって新たなビジネスモデルを
生み出すことで起こることが多く、組織や企業を客観的・俯瞰的に
捉えることができるCIOがドライバーやストラテジストとして機能し
やすいという議論もあります。しかし、事業において収益を拡大する
ために、組織・企業をまたがった視点が必要担ってきているので
あれば、事業責任者にもその視点が必要で、その視点がもてない
事業責任者は失格ということになるのではないかという気がします。
この意味からいっても、事業責任者がドライバーやストラテジストと
して機能し、CIOはイネーブラーとして機能するほうがいいのでは
ないかという気がします。
これはどちらが正しいとかいうことではなく、その企業の状態や
その組織におけるCIOの認知度の違いなのかもしれません。
神岡一橋大学教授の研究発表にしろ、米国の調査結果にせよ、
「CIO=このポジション」ではなく、イネーブラー→ドライバー→スト
ラテジストという風により高度な役割への移行が見られる(志向する)
とのこと。その意味からすると、私の周りで見られるCIOの状況は、
まだイネーブラーの状況から抜け出せていないのかも知れません。
CIOのミッションが企業の中で明確になり、その責任を果たすことで
業績に対するインパクトが出るようになったとき、事業部門から見た
CIOの位置づけも現在のイネーブラーからドライバー→ストラテジ
ストに変わるのかもしれません。
「彼(CIO)の意見は、聞くに値する」
「彼(CIO)の意見を是非聞きたい」
「彼(CIO)なしでは、我々の事業の将来像は描けない」
そうなれば、CIOがドライバーやストラテジストとして機能するように
なるのかもしれません。
そんなことを、つらつら考えておりました。
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