10年ひと昔と言うが、
俺の場合は故郷を出て20年近くが経っている。

ならば「ふたむかし」と言う事になるか……

そんな事を頭の片隅に考えながら
ビールを飲むカウンターを挟んで

「今年は帰らないのかい?」と尋ねるマスターも

俺と同郷だという事をつい最近知った。


だが上京して来たのは俺の方が古いらしい。


「帰ったところで、いい歳になって嫁ももらわないで…って
 毎度のことに言われるし、幸い両親とも健康だからね」


人並みに恋愛も経験しては来た、しかし未だ独り身である。


「たまには雪も恋しいんだけどね、
 弟が今年も孫を連れて帰って、たっぷり親孝行するみたいだし、
 孫の前じゃ俺なんて邪魔なだけだよ」

その弟とは去年、故郷で一緒になった時に吸っていたタバコを咎められ、
それ以来、なぜかタバコをやめていた。

「小さな子供には百害どころか千も万も害だ」と、

更に「兄貴もやめないと子供が出来た時に辛いぜ」と言われて、

独身の俺が何故かその言葉どおり禁煙を実行し続けていた。


「じゃあ、気分だけでも帰るか、俺だって方言すら忘れちまったな」と、
マスターがシェーカーを振る。

2つのカクテルグラスに注がれる白い液体。

そのうちの一つを差し出し「おごるよ」と、

一つは自分に、

そしてあとの一つを俺の横に置いた。

「8時だ、そろそろ来るんだろ?」とマスターは時計を見上げて言った。


駅から歩いて5分、いつもの電車ならマスターの言う通りだ。

はたして現れた10歳年下の恋人が、グラスの置かれた席を見て戸惑っている。

「マスターからだよ」

そう言うと彼女はニッコリとマスターに微笑んでスツールを引いて腰掛けた。


「何て言うお酒なの?」

グラスを持ち上げてから、

「雪国っていうカクテルだって、俺とマスターの故郷だよ」


「年が明けて帰省ラッシュが落ち着いてから、二人で帰ったらどうだ? 
 まず今夜はこれで乾杯して」

マスターの言葉に、浮かべた笑みが愛想笑いとは違う彼女の表情を見て、

自分の心の変化を楽しんだ。

「すごい雪だからなあそこは」

二人で真っ白な駅に降り立った光景を想像する事が出来た。


$不思議を売る男
撮影協力:GROVE cafe

ウオッカ   … 3/5
ホワイト・キュラソー … 1/5
ドライベルモット   … 1/5
ライムジュース   … 2tsp
砂糖
ミントチェリー

※ カクテルというのは色々な所でアレンジされるので、
このレシピが当時の受賞作と同じものとは限りませんのでご了承下さい。

1.レモンで濡らしたグラスのふちに砂糖をつけて
  シュガー・リム(塩をつけるとスノースタイル)にしておく。

2. 氷を詰めたシェイカーに、よく冷やしたウオッカ、
  ホワイト・キュラソー、ライムジュースを注いで、
  アイスフレークが出るくらいにシェイクする。

小説『雪国』の作者、川端康成氏がノーベル文学賞を
受賞したのと同時期に発表されたカクテル。