小説版 閣下誕生秘話 | iPadGamer

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冬休み、2chの掲示板にInfinity Bladeの小説版における閣下誕生のパートを訳したものを載せた。しかし、いつの間にか当該スレがDAT落ちして読めなくなっていた。折角なので、同訳を本ブログの方にも掲載しておくこととする。

なお小説版は、メインストーリーの所々に、幕間として閣下誕生までのストーリーが挿入される形式をとっている。しかも、幕間にはキャラについての説明は一切無く、幕間パートで不死者になる少年ジョリーが、実はレイドリーアーと同一人物であることは、メインストーリーの最終章まで読まないと分からない。ガラスに至っては、探求者イコールガラスであることに言及されるのは、ほんの1~2箇所のみである。

以下に記載する閣下誕生秘話は、閣下の最期のシーンと深く結びついている。是非、閣下の最期も併せて読んで欲しい。



続きを読む(PC版)


(これまでのお話)
ガラスの会社に勤める統計分析の専門家ウリエルは、そのデータ分析の知識により、自分の会社が世界中で戦争を起こそうとしていることを知る。不老不死の噂が社員の間でささやかれる中、ウリエルは迫り来る戦争の危機に、愛する息子ジョリーと妻の運命を思い心を痛めていた。
そんな中、帰宅したウリエルは上司のアドラムと妻が不倫していたことを知る。慌てて逃げ出したアドラムの車がジョリーの乗る自転車を轢き、ジョリーは瀕死の重傷を負う。アドラムを自らの手で殺したウリエルは、その足で息子の亡骸を車に乗せガラスのもとに向かう。
ガラスに面会したウリエルは、そのデータ分析の知識でガラスが企んでいることを次々に暴いた。ウリエルの才能を認めたガラスは彼に不死者の一員となるように告げるが、ウリエルは自分の代わりに息子を不死者とするよう申し出るのだった・・・




「君は幸運だな。」
ガラスは、科学者達がジョリーの動かぬ体に刺激を与えるのを見ながら言った。
「彼は完全には死んでいない。彼のQIPはまだ形を保つことができる。」

ウリエルはテーブルの横にひざまずいていた。
「あなたは世界を破壊しようとしているんでしょう。」

「世界は自分で自分を破壊しようとしているのさ。」

ガラスは言った。
「大量絶滅は定期的に起こるものだ。ワシは単にその大波に乗り、その後に生まれるものを形作ろうとしているに過ぎない。」

その部屋はモニターや音を立てる機械、そして金属製の装置で一杯だった。ガラスは彼の秘密基地の一つをウリエルが毎日働いているオフィスの地下につくっていた。
ウリエルは疲労困憊し、精も根も尽き果て、おまけにずぶ濡れだった。
そこに横たわっているのは本当に・・・本当に自分の息子なのか? 真っ青な体。息もしていない。
にもかかわらず、科学者達は彼がまるで生きているかのように話していた。

「御前。」
科学者の一人が言った。
「準備できました。しかし・・・」

ガラスは彼らを一瞥した。
「言いたまえ。」

「子どもを、ですか?」

科学者は言った。
「まだ思春期にもなっていないのに? 本当にこれが我らの王国にとってためになるとお思いですか?」

「子どもこそ」
ガラスは言った。
「何の先入観も持たない純粋な存在だ。もちろん良いことだとも。それにだ、ワシは質問されるのは好まん。」

「はい・・・承知しました。」




「あなたは彼を王としてくれるでしょうね。」
テーブルの横にひざまずきながら、ウリエルが言った。彼の手は息子の腕にかかったままだった。

「これを生き延びたものは誰であれ王となるだろう。」

ガラスは言った。
「いや、それ以上かな。だが、その地位はワシから与えてもらえるものではない。全員、自らの道は自分で見つけなければならないのだ。」
彼は科学者達に向かってうなずいた。

ウリエルはテーブルから離れた。作業が始まった。注射、臓器のスキャン、組織の包埋、放射線。どれも彼には識別することも理解することもできない機械によって行われた。
しかし、これほどまでの驚異の数々にもかかわらず、彼はガラスが作業を見ながらこうつぶやいているのを聞いた。
「なんとも原始的だな・・・」

全てが終わった。科学者達は作業を終え、お互いを称えあった。ガラスも立ち去る支度を始めた。
ジョリーの体は冷たい金属のテーブルに横たわっていた。ウリエルの目には、死んでいるようにしか見えなかった。



「君にこの作業をしてやるつもりはない。」
ガラスはドアのところで言った。
「永遠に生きる父親は子どもの成長に悪影響を与えるだけだ。新世界の神が、パパの周りを走り回るところなど見たくないのでね。」

「構いません。」
ウリエルはつぶやいた。
「プロジェクト・オメガ、あれは只のテレポーテーション装置以上のものなのでしょう?」

「当たり前だ。」

ガラスは言った。
「さて、お別れの時だ。5分以内にこの地下壕から出て行ってもらおうか。」

彼は扉を閉め、室内には二人だけが残された。



ジョリーがかすかに動いた。彼の呼吸を聞きつけて、ウリエルはテーブルに走り寄り息子の手を取った。ジョリーが深く息をするのを見て、彼の目に涙があふれた。

ジョリーが目を開けた。
「父さん?」
少年はつぶやいた。
わずか13歳。こんな小さな子が、どうして神々の世界で生きていけよう?



この子ならきっと大丈夫だ。

ウリエルは思った。

それで十分さ。




「どうして泣いてるの?」
ジョリーがたずねた。
「ぼうや、父さんは・・・お前を栄光の世界へと連れて行くよ。」
少年は混乱した様子を見せた。
「父さん?」

「世界は破壊され、瓦礫の山となる。」
ウリエルは言った。
「お前が救ってやってくれ。奴らが戦うのをやめさせてくれ、息子よ。奴らの手から銃と爆弾を取り上げるんだ。奴らは、自らに与えられた力にふさわしいような連中じゃない。
人類は星々に達することができるほどの力を得たというのに、その力をお互いに殺し合うために使っている。その視線は常に下に向いてばかりで、遙かな高みにある光を見上げようとしない・・・」




「ぼく、怖いよ。」
ジョリーが言った。
「そうだね。」
ウリエルは息子の額に口づけした。
この世界に最後に残された、ただ一つの美しい存在。



ウリエルはデータチップの入った腕時計を外した。
「お前にこれをあげよう。この中の数字をしっかりと見て、理解するんだ。父さんが書き残したものをよく読みなさい。これが私がお前に残してあげられるものの全てだよ。

・・・王となるんだ。息子よ。真の王に。




「父さん!」
腕時計を受け取ったジョリーは、彼にすがろうとした。しかし、彼の体はテーブルに固定されたままだった。
ウリエルは部屋から出た。

「父さーん!」
ジョリーは泣いていた。
ウリエルも泣いていた。



彼は外のホールで科学者の一人と話しているガラスとすれ違った。警備員がドアを開き、ウリエルを外へと連れ出した。
「どこへ行くのかね?」
ガラスが好奇心を見せて後ろから呼びかけた。

ウリエルは後ろを見やった。
「何か関係がおありで?」

「いや。」
ガラスは言った。
「特にないな。」



ウリエルは光沢のあるホールの廊下を通り、エレベータで1階に上がった。警備員が彼を雨の中に追い出した。
彼は歩き出した。



そして、歩き続けた。


(了)



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