小説版 閣下の最期全訳 | iPadGamer

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(これまでのあらすじ)

インフィニティブレードを手に、探求者の城にたった一人で乗り込んだレイドリーアー。死闘の末に不死者アシマールをも倒し、ついに探求者と相対する。しかし、探求者はレイドリーアーを相手にもしなかった。
探求者のコンソールを見たレイドリーアーは、彼が衛星軌道上から地上全体を爆撃し、全ての生命を抹殺しようとしていることを知る。余の民を虐殺することは許さんと憤るレイドリーアーに対し、探求者はお前の許しをもらう必要などないと嘲笑する。
レイドリーアーのインフィニティブレードの一撃が探求者を貫く。しかし、探求者は何事もなかったかのように平然と剣を引き抜き、インフィニティブレードでは自分は殺せないと言い放つのだった・・・。



レイドリーアーは、再び剣を振りかぶった。

「何のつもりなのだ?」

探求者はワークステーションに座りながら言った。
「わしの首をはねるつもりか? オウサーがお前を殺したとき、お前は何と言ったかな? わしの首を記念に飾るつもりか? わしは、お前がわしの首をはねるよりも早く、次の首を生やしてみせるぞ。」
レイドリーアーはためらった。

「今お前は、わしがお前のことを盗聴していたと思っておるな。それは違う。」
探求者は手を休めた。
「今度はお前は、お前が出発した後にオウサーがわしに接触したかと疑っておるな。奴がわしのスパイであったかと。どちらも違うぞ、ジョリー。真実は至って簡単だ。わしはお前のことをよく知っており、お前が何を言うかを正確に分かるのだ。わしは、全てを知っておるのだ。」

「偽りを申すな。」

「強情な奴め。それでは聞こう。お前の隠れ王国の具合はどうだ?」


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奴が知るはずはない・・・

「知っておるな。お前がサウス=アリセニアのどこかに隠しておる場所だ。調べるのも面倒だが、どこかな・・・。エローピマか? お前しか知らない小さな国だ。そこではお前は別の名前で呼ばれておる。お前の部下の誰一人としてその国のことを知らぬ。お前がそこに行くときには転生を使うので、誰かに後をつけられることもない。お前はそこを万が一の時の再起のための場所として取っておいた。そしてこれまで一度も話したり、記録に残したことはなかったであろう。」

レイドリーアーは後じさった。

「続けようか?」
探求者は言った。
「お前はここに来る直前、部下達を三手に分けて送り出したな。一人はお前に万が一のことがあったとき、テレポートしたインフィニティブレードを回収するため。二人目は、囮としてお前の行方を隠し敵を混乱させるため。そして三人目は、わしがお前の王国を治めるために送り込んでおいたお前のクローンを暗殺するためであろう。」




衝撃。驚愕。彼は神だったはずなのに! それほどまで容易に予測されるはずはない、それほどに読まれるはずはない。一体・・・

探求者は続けた。
「わしは全てを知っておるのだよ、ジョリー。お前がほんの小さな子供だった頃、わしはすでに1万回以上生きてきたのだ。」
彼は笑った。
「さあ続けるがよい。何なりと聞くがよい。お前の望むことを何なりとな。」

質問。
「一体・・・。」
レイドリーアーは絶句した。



そのとき、突然それがひらめいた。
「貴様がそれほどに全能であるならば、なぜ千年もの間あの牢獄に閉じ込められていたのだ?




探求者は机上のスクリーンを指でタップした。
次の瞬間、探求者は席を蹴った。インフィニティブレードが彼の手の中に閃光と共に現れた。彼の一撃は危ういところでレイドリーアーに防がれた。


「オウサーのせいなのだな、そうであろう!」
レイドリーアーは下がりながら叫んだ。
「奴は・・・異常なのよ!」
探求者はうめいた。



オウサー。
彼らが回収したデータ・・・。そこでは、探求者はオウサーが不死者の軍隊を作り上げていると予測していた。しかし彼はそうしなかった。
探求者は彼らの隠れ家の場所も知らなかった。もし知っていたらそこも爆撃していただろう。オウサーがその隠れ家を選んだのだ・・・。他のどこでもない、その場所を。



「貴様は何千回も生きたかもしれない。」
レイドリーアーは後ろに下がりながら言った。
「しかし貴様は全てを知っているわけではない。ほとんど全てを知り尽くしていながら、それでも貴様は奴の裏切りに気がつかなかったのだ!」

「奴がいつ裏切るか、そのタイミングが分からなかっただけだ!」
探求者が前に進み出た。

「奴は貴様をおびえさせたのだ! 貴様は、他の者のようには奴の心を読めなかった。だから、奴を捕らえ閉じ込めることも出来なかった。その代わりに貴様は奴の記憶を消し、幼児に変えたのだ。いや、それとも奴が自分自身をそうしたのか?

・・・どちらでもよいわ。転生を繰り返す歳月の中で、奴は変わったぞ。かつての奴よりも遙かに危険な何者かに変貌を遂げたぞ。これまで貴様が出会ったこともないような何かにな!




探求者は襲いかかった。
レイドリーアーは立ち向かった。
しかし、到底敵わなかった。

剣を取っては、探求者は優れていた。あまりにも優れていた。彼の前にあっては、レイドリーアーはついに認めざるを得なかった。彼自身がまるで・・・赤子のようなものだと。

レイドリーアーは敵の周囲を回り込み、台の間を下がりながらも、戦い続けた。彼は生きとし生けるものの中で最強の剣士の一人だった。しかし、探求者ときては・・・。探求者には何の苦労もなかった。

ともあれレイドリーアーは戦った。自らの知る限りの秘術を繰り出して戦った。そしてとどのつまりは・・・どの技も少しも役には立たなかった。探求者の一撃はレイドリーアーの手から武器を跳ね飛ばした。それは宙を飛んで、むなしく地面に転がった。

探求者の肩からの体当たりを受け、レイドリーアーは背後のワークステーションにぶつかった。探求者は彼の兜を鷲掴みにし、引きはがして投げ捨てた。そしてインフィニティブレードをレイドリーアーの鼻先に突きつけた。




「我こそが」
探求者は宣言した。
「真の神だ。我こそ国々の、人々の、そして神々の父だ。この星にいるありとあらゆるものの存在は、全て我が寛容のたまものに過ぎぬ。わしはお前が夢にも思い描けぬ存在。お前にわしを倒すことは出来ぬ!

レイドリーアーはその言葉を信じるしかなかった。この怪物の目の奥底を覗き込み、彼は理解した。彼の行動、彼の企みの全てを、かつてガラスと呼ばれたこの男は、予知することが出来るのだ。


「よし」
探求者は言った。
「よし、分かったようだな。では己の務めに戻るがよい。お前はわしのものだ。今までも、これからも。
我々はこの星を浄化するのだ。そして新世界を創造する。何名かはわしに仕える者が必要だ。お前にその機会を与えよう。きっと気に入るぞ、レイドリーアー。
さあ、我が慈悲を乞え。命乞いするのだ。」




言葉が口元まで込み上げた。しかし、その言葉が発せられることはなかった。あまりにも多くの民が死ぬ・・・。

奴にとって民とは何だ? ウジ虫か? 虫けらか?
このチャンスを逃すべきではなかった。・・・これまでにも好機を逃したことなどなかったように。
生き延びるためのチャンスだ。いつの日か、再び戦うときのために今は生き延びるのだ。きっと彼らの仇を討つことも出来よう・・・









世界は破壊され、瓦礫の山となる・・・

ささやき声が聞こえた。はるか遠い時代、遠い世界からの声だった。

救ってやってくれ、救ってやってくれ・・・



真の王となれ。息子よ。






レイドリーアーは顔を上げ、探求者の目を見据えた。
「なるほど、余には貴様を倒せぬ。」
レイドリーアーは静かに言った。
「また、その必要もない。倒せる者を知っておるからな。

次の瞬間、彼は体をひねり、机上に置いてあったものを掴んだ。データポッドだった。探求者の企みと秘密がその中につまっていた。


探求者が叫び声をあげたときには、彼は台の上を転がり、階段の下へと身を投げ出していた。

しっかりとデータポッドを抱きかかえたまま、彼はうめいた。
体が地面に激突し、骨が砕けた。
探求者は叫びながら台を回り込み、階段へと急いだ。・・・本当は机を跳び越えるべきだったのだが。

レイドリーアーは鎧に仕込まれた通信妨害装置を解除した。






サイラスの船室のテーブルに置いてあったミラーが点灯した。
うずくまり頭を抱えていたサイラスは顔を上げ、跳ね起きた。
レイドリーアーが探求者の基地の冷たく光る床の上に倒れていた。彼の兜は外れ、唇の端から血を流していた。

「オウサー」
レイドリーアーが手の中で何かをいじりながら言った。
「今からそなたにあるものを送る。余はテレポートリングを持っておる。そなたはそれを見つけねばならぬ。」
彼は何かを持っていた。データポッドだった。リングを取り付けようとしていた。

「説明している時間はない。」
レイドリーアーは言った。
「全てが失われようとしている。あらゆるものがだ! そなたは奴を止めねばならぬ。そなたなら止められるのだ。」

サイラスはモニターを持ち上げた。レイドリーアーの背後に、猛然と階段を駆け下りてくる人影があった。探求者だった。インフィニティブレードを握っていた。



データポッドがレイドリーアーの手の中で光を放ち、消えた。
探求者は怒りのあまり絶叫した。




「そなたならあれを見つけられると信じている。」
レイドリーアーは静かに続けた。
「考えよ! そうすればどこにあるか分かるであろう。奴よりも先にそこに行くのだ! あれにはそなたが奴を倒すために必要な情報が入っておる。ひとたびあれを手に入れた暁には、今度は奴を探さねばならぬ。奴は逃げ隠れしようとするであろう。・・・それが奴のやり口なのだ。」



「彼奴とて過ちを犯すことを知るがよい、オウサー。余に対してもだ! 奴は、余が余の民を裏切るであろうと考えた。彼らを見捨て、死にゆくに任せるであろうと考えた。しかしそれは間違いよ。とんだ大間違いよ。余は余のなすべきことをなす。
レイドリーアーは微笑んだ。

「余が王であるからには。」



探求者が吼えながら走り寄った。
レイドリーアーは彼の方に向き直り、笑った。
探求者は怒号とともにレイドリーアーの胸にインフィニティブレードを突き込んだ。


レイドリーアーの心に最後に浮かんだ感情は、満足だった。最後の最後に、この怪物を出し抜いてやることが出来たのだ。



王だ。余は。



レイドリーアーは遙かな高みを見上げ、まばゆい光に向かって微笑みかけた。



剣は、彼を無限の彼方へと運び去っていった。

(了)



・・・こんなところだろうか。英語の本を読んで泣いたのは、生まれて初めてだった。



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