季節感(4)               

     ○   

   風が鳴る。  

   風が光る。 

 風が、街をカタカタ 

 鳴らしている。 

  春一番、 

 いや、春二番か。 

 ヒヤッと冷たい大気。 

 かすかな暖かさの予感。 

 甘酸っぱい空気。 

 ぴゅー、っと風の音。   

 

  45年前も、 

 この風の音を、

 僕は 聞いていた。  

  僕、19才。 

 早稲田に憧れ、

 受験勉強の 追い込みの頃。 

 一通のハガキが届いた。 

春一番の風。  

 最後の踏ん張りどころ。  

 もうじき、桜咲く。  

 志、高く。  

 -シロノ》 

 風が、ぴゅー、っと吹く。 

 街が、カタカタ鳴った。 

 僕は、身震いした。

 泣いた。  

  あれから、 

 僕は、シロノ先生と 

 同じ大学に入り、 

 シロノ先生と同じく、 

 高校の英語の先生になった。  

 そして、30年。  

 先生を辞めた。  

 

 今、僕は、 

 ペンとギターの一平。   

 

  僕が、17才のとき 

 新しい先生が 学校にやってきた。 

 最初の授業に先生が来た時、 

 僕は、惹かれた。 

 好きになった。 

 あこがれた。 

 シロノ先生、25才。 

 僕の担任だった。  

 僕の卒業と同時に 

 先生は、僕の高校を辞め、 

 先生の故郷、佐渡島に 

 帰られた。   

 

 佐渡島からの一通のハガキ。  

 春一番のハガキ。  

 

 今も、あの時と同じだ。 

 春一番が 

 街をカタカタ鳴らしている。    

 先生は、今、70才。 

 佐渡島の先生の母校で 

 今も、現役の先生をしている。 

 先生は、 

 「生涯現役一教師」 

 を貫いておられる。    

 

  45年前、 

 先生は、僕に 

 春一番の風 

 を気ずかせてくれた。 

 都の西北の風。 

 都の西北という「志」の風。

 

  その志を、 

 歩いてきた末にたどり着いた 

 「志」の風が、 

 ペンとギター。  

 

 あの風と 今の風。 

  風が鳴る。  

 (3月21日)      

 

       ○  

 冷暖の空気が肌を刺す。 

 冷たくて、暖かい。 

 冷たくない、が 暖かくもない。 

 冷たさと暖かさが ちょうど半々。 

 冷たさの中に 

 暖かさが宿っている。 

 朝の空気。 

 (3月25日)     

 

      ○  

 カラッと晴れた空に 

 ぽっかり、うっすら 

 白い雲。 

 枯れ木の梢が 

 ピンク色っぽくなった。 

 桜。3分咲きぐらいか。  

 (3月26日)     

 

       ○  

 散歩に出た。 

 桜の花が、ぱっと 

 眼に飛び込んできた。 

 一日で 

 こんなに 花が開くのか。 

 5分咲きぐらい。  

 なんだか 

 止まっていた空気が 

 急に、踊り動き始めた。 

 春が来た。 

 (3月27日)     

 

    ○  

 霞か雲か、臭いぞ出る。  

  かすみか、くもか  

  においぞ、いずる。   

 開けた書斎の窓から 

 眼に飛び込んできた 

 空。 

 うっすら青い空に 

 うっすら白い雲。  

 隣家の屋根越しに 

 桜の花がぱっと開いた。 

 風がにおう。  

 黒いカラスが一羽 

 屋根を横切った。

 

  隣家の桜、8分咲き。

 63年前も、今日は8分咲きだった

 のだろうか・・。

 昭和20年の今日、僕は生まれた。

  八部咲桜生一平。  

   (3月29日)