第 21 章
事 実 と 真 実 5
「そうですね!? 楽に生きるんじゃなくて、可能な限り愉しく生きるんですね!?
快く生きるんですね!? まるで、晶子さんの料理のように潔く生きるんですね!?
愉快な接客を心掛けるですね!? 私も、愚痴を言う前に自分が愉快に成れるようにがんばりますから、これからも宜しくお願いします。 師匠! そして和田さん!」
そう言って微笑む良子には、安堵の表情が浮かんでいた。
「だけど、福部さんが直ぐに帰ったってことは、もしかするといわき市に向かったのかも知れな!?
親父さんの無罪を報告する為に立ち寄ったのかも知れないな!?
もしそうなら、せっかく莉絵さんが覚悟を決めたのに、また振り出しに戻ってしまうかも知れないな!?」
「そうかも知れませんね!? これは、不味いことに成るかも知れませんね!?」
晶子と和田の不安を払拭できる情報は全く無い状態で、2人は無言になっていた。 すると良子が、
「莉絵さんが、真っすぐこっちに向かってきますよ! うち(しののめ)に来るのかな!?」
「えっ、莉絵が…!?」
晶子が慌てて玄関から外の様子を伺うと、慌てる様子もなく、穏やかな歩調でお店(しののめ)に向かってくる莉絵の姿があった。
「和田さん、どうします。」
「どうもこうも、莉絵さんがどんな要件でこっちへ向かってるのか解らない状態じゃ、何も言えないだろうよ!?
何を言いに来たのか解らないうちは、黙って居るしか無いだろうよ!?」
「あぁ、そうですね!? そう言うことですよね!?」
「そんなに慌てるなんて、晶ちゃんらしくないな!? いつも通り、ど~んと構えてればいいんじゃ無いのか!? 俺は、急いでランチを食べておかないと不味いか!?」
和田はそう言うと、急いでランチを食べ切った。
「はい。 ど~んと構えてれば良いんですね!? そうします。」
「晶子さん。 莉絵さんがもう直ぐ来ますよ!」
良子が慌てた様に晶子に言った。
「うん。 解かった、大丈夫! 良子ちゃんは上がって良いよ! 少し長くなるかも知れないから…!?」
「はい。 でも、大丈夫なんですか!? なんか、面倒なことに成りそうな気がしますけど…!?」
晶子が玄関から外の様子を伺うと、不思議なことに落ち着いた絵莉の表情に、焦りのようなものは全く感じられなかった。
「そんなことは、良子ちゃんが心配しなくても良いんじゃないのかな!? 晶ちゃんが何とかしてくれるから心配しなくても良いよ!
晶ちゃんは良子ちゃんの師匠なんだから、安心してれば良いよ!」
「はい。 そうですね! 了解しました。 師匠を信じて今日は上がります。 お疲れ様でした。」
良子が、そう言ってお店(しののめ)を出ようとすると、莉絵と鉢合わせになってしまった。
「あぁっ、莉絵さん、こんにちわ! お先上がらせて頂きます。」
「はい、お疲れさまでした。 気を付けて帰ってね!」
思いの外落ち着いた口調の莉絵に、和田も晶子も驚いていた。
「こんにちは! お疲れ様です。 もう、ランチタイムは終了してる!?」
「あぁ、今日のランチは和田さんが最後だよ! 良子ちゃん、暖簾を入れるのを忘れてたのかな!? ところで、どうしたのこんな時間に!?」
「あっ、暖簾入ってた。 ごめん気が付かなかった。 晶子! 実は、彼のお父さんが無罪に成ったんだって、今福部さんがわざわざ教えに立ち寄ってくれたんだけど…、私どうすれば良いと思う!?」
「えっ、無罪になったの!? 本当に!」
「うん。 そうみたいだよ!? 福部さんがそう言ってた。」
「あぁ、そうなんだ!? でも、それは、莉絵が決めることでしょうよ!?
例え、親父さんが無罪になったとしても、彼奴の罪は消えないんだし…、彼奴の罪を償えるのは彼奴の家族しか居ないんだし…!?」
そう言う晶子は、しどろもどろになっている自分が不思議に感じられていた。
「そうだよね!? 変に仏心を出して、いろいろ言うのはお門違いだよね!?
我関せずで、静観していた方が良いよね!? 和田さんは、どう思われますか!?」
「俺も、その方が良案だと思う!? いわき市時代に関わりのあった女性たちが起こすと言われている裁判は、結果的には無効になるだろうと言う話が出てる。
そんな状況で地裁に申し立てても、裁判に持ち込むことは難しいだろうと俺は思う!? 会社の顧問弁護士さんも同意見だったから!
だから、莉絵さんは我関せずで、静観して措くのがベストだと俺は思う。 福島家に対する恩義も感じなくて良いと思う。
莉絵さんは莉絵さんで、今新しい環境を手に入れられる状況にあるんだから、その真を満喫すれば良いんじゃ無いのかな!?
早々に、海外へ修行に出かける準備を進めて良いんじゃ無いのかな!?
画廊の件は心配しなくても由梨が何とかしてくれるだろうし…、財前の娘も協力してくれると言っているから、早々に画廊から莉絵さんの荷物を部屋に移した方が良い。
もし、福部さんが画廊を訪ねてきたら、莉絵さんは海外へ修行に行ったとでも言って措くから…、その点も心配しなくて良いと思う!? なぁ、晶ちゃん! それが良いんじゃ無いのか!?」
「はい。 それが一番の妙案だと思います。 でも、莉絵はどう思ってるの!?」
「私は、福部さんから話しを聴いた時、心が揺さぶられたことは事実だった。 それが真実だった。
でも、一度破いた自分の過去を遣り直すことは出来ないと感じたの!? 過去に戻っちゃいけないと思ったの!?
私は、彼の母親でも無ければ家族でも無いのに、そこまで関わる必要も無いんじゃないかって!?
確かに、彼のお母さんのように彼を庇い続け…、甘やかし続けた罪は負わなきゃならないとは思うけど…、その罪を生涯背負い続けることは、私には出来ないと思ったの!?
その重い荷物を、一時は持ち上げることは出来たとしても…、生涯背負い続けることは私には出来ないと思ったの!?
一生私が背負い続けるには、重すぎると感じてしまったの!? 晶子や光子だけじゃなくて、彼に弄ばれた娘たちの怒りや憤りを一生背負い続ける覚悟は、私には出来なかった。
昨夜、みんなの話しを聴いてて、私自身も彼に弄ばれた一人だったことを思い出したの!?
私が知らなかった彼の過去を、みんなから聴かされた時、私は自分が間違っていたことに気付けたの!
彼を、変に擁護すべきではないことに気付いたの!?」
奥座敷の入り口で、淡々と話す莉絵に迷いは感じられなかった。