今年もお正月休みは暇してました。

厳密には毎年のことだけど。

そしてこれも毎年の事だけど、オタクの僕はずーっとリビングで映画みたり本読んだりしてました。

決して妻に有罪判決を受け執行猶予中の身分じゃありませんよ。

ましては、妻の監視の目を逃れてベイルートへ逃避行した訳じゃありません。


という訳で、今回は本のプレビュー。



大沢在昌著「漂砂の塔」。

新宿鮫シリーズの大沢作品は、Ⅵくらいまでは読んだかな。

そのうち飽きた。

それでも力のある作家なので、継続的に小説読んでる作家の1人。

そんな大沢在昌作品の中でも、昨今最高傑作の一つに数えられるんじゃないか、と呼べるほどの面白い小説でした。

大沢在昌がミステリー作家に留まらず冒険作家として、アリステア・マクリーンやデズモンド・バクリーに並んだ金字塔と呼べるやも知れない。


血湧き胸踊った!


舞台は、北方領土のとある小さな島。

この島にレアアースが出土することから、ロシア・中国・日本のJVの企業体「オロテック」が発掘に当たる。

その島で日本人技術者が殺害される。

島は、戦前日本人が住んでいた頃、島の男殆どが殺され死体の目がくり抜かれるという事件かあったという。

そして、今回の死体もまた両眼がくり抜かれていた。


ロシア人の祖母を持つクォーターの刑事石上が島に飛び捜査に当たるも、島はロシアの実効支配地。

つまり捜査権も無く武器もないという孤立無援で島の秘密と犯人探しに立ち向かう。

石上のハードボイルドによる冒険の物語になります。

それがメチャ面白い。

登場人物それぞれにクセがあり誰もが怪しい。

元KGBのオルテックの施設長、美貌の女医、ナイトクラブのボス、謎を秘めた中国人警備員。

それに東京で石上と対立し石神の命を狙うロシアンマファアまで利権がらみで島に現れる。


とにかく、舞台の設定が素晴らしい。

北方領土、恐らくは歯舞諸島の一つの島という設定であり、根室からヘリで1時間で到着というのに、ここは日本の法律が一切及ばないロシアの実効支配地。

まさに雪と氷に覆われた漂砂の塔。

島に派遣された石上に対し日本政府と警視庁は、島で働く日本人技術者への安心のための派遣であり、犯人探しすら望んでない。

まさに孤立無援。

それでも石上は自分の使命を全うすべく奮闘する。

主人公石上はタフではあるが、弱音を吐き臆病であることを隠さない。

しかし、サムライでもある。

そこにある多国籍な中での憎悪と友情、愛のある世界観がたまらなく愛おしい。


これをミステリーと言うなかれ。

これは良質の冒険ミステリーです。

アホな恋愛ゴッコのコミックの映画化なんざ辞めて、こういう小説を映画化して欲しい。