中学一年の頃、体育祭で応援団に入ることになった。
一年生から三年生の同じクラスの数名が集まり応援をするかたち。
個人的には全く興味もなくやる気も無かったのだが、
『お前は賑やかしにピッタリだからなぁ』
『目立つ仕事はお前が率先してやった方がいい』
とクラスメイトに言われて渋々やることになった。
毎日放課後、屋上に集まり旗を振ったり手の振り足の振りを練習した。
そうしていくうちに次第と二年、三年の先輩たちから気に入られ始めた。
今はどうか知らないが、私たちの時代は、
『一年生は奴隷』
『二年生は人間』
『三年生は神様』
などという一種の決まりごとがあり、校舎も、一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階という分け方をされていて、一年生が二階に上がったり三階に上がったりすると罵詈雑言とともに速攻で囲まれて”可愛がり”を受けた。
まあ私の進学した中学は地元でもガラの悪い学校のひとつだったので、特にその傾向が強かった。
それもあり、応援団に入るのを嫌がってたと言うのもあった。
しかし実際に応援団に入ってみると先にも記したように上級生たちから気に入られ、「お前は面白いからいつでも教室に遊びに来い」と言われるようになり、その話はある種の噂となって学年中に広がり、
『あいつなんだかすごいヤツだな』
と一目置かれるようになった。
私がタバコを吸い始めたのが中学二年の頃からだが、応援団に入った一年の頃にも先輩たちにすすめられていた。しかし毎回断っていた。
先輩からの誘いを断るなんてことは当時では考えられないことで、だがその事も「お前は変わってる」「お前はやっぱおもろい」と先輩たちから一目置かれる要因の一つになっていた。
応援団の練習終わりにはディスコに連れて行ってもらったり、喫茶店で茶をすすったり、みんなでガヤガヤとバカ話に花を咲かせたりした。
ガラの悪い学校だったので、学校指定の制服を着ている者はほぼゼロに等しい中、私だけは三年間ボンタンも短ランも着ることが無かった。
それもまた珍しがられて気に入られる理由になっていた。
『マジラン着てタバコ吸ってるヤツって他にいないよな』
『○○さんからボンタン譲ってくれるって言ってたのに断るってのが凄い』
とか。色々と囁かれたが無視していた。
その理由のひとつに、
『その時、その場のノリだけで周囲と同化するのは馬鹿馬鹿しい』
と言う思いがあったからだった。
その思いは高校に入っても同じだった。
これまた県内で最もガラの悪い商業高校に進学したのだが、学校指定の制服を着ている生徒はひとりもいなかったし、学校のトイレでタバコを吸うのは当たり前、リーゼントやパンチパーマも当たり前。
校則など、あってなかったような学校だった。
それでも私は中学時代同様、マジランで通った。
そしてひとつの出来事が起こった。
県内ローカルのTV局の深夜番組で、県下の高校に訪問し、生徒に突撃インタビューをして学校紹介をする番組があった。
地元の高校生たちから絶大なる人気のある番組だった。
ある日の放課後、友達三人と連れ添って校門を出ようとしていたら、その番組が私の学校に突撃取材をしていた。
『この流れに乗らないわけにはいかないな』
そう思った私は率先してインタビューをしていた女子アナに向かい、取材を受けるよう仕向け、有る事無い事、あれやこれやとワンマンで喋りまくり、女子アナとスタッフを爆笑の渦に巻き込んでやった。
『放送日は来週!』
てなワケで放送当日。
TVを観ると、いつもなら各学校に出向いて生徒数人にインタビューしている姿を放送しているのだが、この回、私の学校の回だけは違っていた。
30分番組全てが私単独のワンマンショーだった。
流石にこれには驚いたが、それよりも放送後の学校の反応が気になった。
ヤンキー、ヤンネーばかりの学校で、私みたいな一年生のバカが一人だけTVに映り、やんややんやと喋っている姿を観たら・・・キレてるだろうな、と思った。
そして登校。
すると、まあある意味予想はしていたのだが、校門前に先輩たちが十数人ほど立っていて、私を待ち構えていた。
『あー・・・まあボコられても仕方ないよな』
と諦めながらトコトコと校門まで歩くと、「お前スゲーな!」「お前おもしろいな!」と、予想に反するリアクションばかりを受けた。
『お前はおもろいから学校をどこでも歩いていいぞ!』
『なんでマジラン着てるんだ?ボンタンと中ランか短ランをやるからそれを着ろ!』
と言われまくった。
それらをやんわりと断ると、
『それもまたお前のおもしろいところだな!』
『うちの学校で、マジランでトイレでタバコ吸ってるのってお前だけじゃねーの?ウケる!』
てなワケで中学同様、高校も一年生ながらも”奴隷解放”され、更に飛び級うんうんをして二年生の”人間”すら超え、あっという間に三年生同様”神様”待遇を受けることになった。
中学時代同様、高校の三年間もマジランで通した。
卒業式の当日、卒業証書を受け、その後に校長が、
『ひとつ表彰したい生徒がいる』
と言った。
なんだよそれ、と思いながら聴いていると、
『わが校の恥部とも言える構内風紀の悪さを無視し、三年間、学校指定の制服を着続けた生徒がひとりいる。これは驚嘆にも値するので特別に表彰をしたいと思います』
と。
直後、私の名前が呼ばれ、壇上に呼ばれて校長から握手を求められた。
体育館に集まっていた全校生徒と父兄たちは沈黙状態だったのだが、私が校長と握手をし、その場で振り返り、
『学校で指定された制服だったので着続けたまでのことでっす!』
と調子良く叫ぶと、直後体育館が拍手喝采と共に爆笑に包まれた。
てな記憶を思い出したので書いてみた。