【注意喚起】“セクマイ限定”の世田谷区パートナーシップ制度、戸籍変更済み異性愛GIDはノンケ扱い | 女々しい奴

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2015年、渋谷区と並んで日本で初めて自治体パートナシップ制度を導入した、東京都世田谷区。
その内容は、導入後もたびたび見直し・修正が重ねられており、現在では導入当初とはかなり違ったものになっている。

特に目を引くのが「制度の対象者」。

制度導入当初は「同性カップル限定」とされていたところ、2019年には「自認同性も含む」となった。具体的な要綱条文は下記のとおりである。

2015年
第2条 この要綱において「同性カップル」とは、互いをその人生のパートナーとして、生活を共にしている、又は共にすることを約した性を同じくする2人の者をいいます。
2 この要綱において「パートナーシップの宣誓」とは、同性カップルであることを区長に対して宣誓することをいいます。


2019年
第2条 この要綱において「同性カップル」とは、互いをその人生のパートナーとして、生活を共にしている、又は共にすることを約した性(自認する性を含みます。)を同じくする2人の者をいいます。
2 この要綱において「パートナーシップの宣誓」とは、同性カップルであることを区長に対して宣誓することをいいます。


【参考資料】パートナーシップ宣誓制度の改正について(世田谷区公式ホームページ)※アーカイブ
https://web.archive.org/web/20210112120916/https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/002/d00164330_d/fil/15.pdf


そして現在。2022年に変更されたその内容はどうなっているか。

世田谷区ホームページを見ると、こんな風に書いてある。
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/008/007/d00200707.html

対象者を同性パートナーから双方または一方がLGBTQであるパートナーへ拡大しました

宣誓対象者 (1)パートナーシップ宣誓 お二人又はいずれかの方が、LGBTQ(性的マイノリティ)であるお二人

ふむふむ。それじゃ要綱そのものの書きぶりはどうなったんだろう?と思って見てみて驚いた。
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/008/007/d00200707_d/fil/youkou.pdf

パートナーシップ 双方又は一方が、性自認が戸籍上の性別と異なる者又は性的指向が異性のみではない者であって、互いをその人生のパートナーとし、生活を共にし、又は共にすることを約した2人の関係をいう。


…えっ?

「性自認が戸籍上の性別と異なる者」??

この書き方だと「『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』(GID特例法)に基づき戸籍上の性別を変更した性同一性障害者」は対象外となる。
戸籍上の性別と性自認が一致しているからだ。

性的マイノリティカップル限定のパートナーシップ制度を導入している自治体は全国に少なからずあるが、性別違和当事者の扱いについては、「性自認が出生時に判定された性と一致しない者」(東京都条例)等と定義し、戸籍上の性別変更の有無に関わらず全ての性同一性障害者を対象としている例が多い。世田谷区のこの制度設計はかなりユニークなものといえる。

つまり世田谷区的に、戸籍変更済みで異性愛のGID当事者は性的マイノリティではないということ??

不思議に思って世田谷区役所の担当部署である人権・男女共同参画課に問い合わせてみたところ、こんな回答が返ってきた。

戸籍上の性別を変更した性同一性障害者の方については、本人の意思により、性自認と戸籍上の性別を同一にされたと考えております。それゆえ、本宣誓の取組みにおいては、戸籍上の性別を変更されたという本人の意思を尊重し、戸籍上の性別を変更した性同一性障害者の方ではなく、ひとりの男性または女性として対応することとしておりますので、本宣誓の取組みの対象外としているところです。」(原文ママ)


なるほど。
確かに、「戸籍変更までした人たちをいつまでもセクマイ扱いはかえって失礼、セクマイ向けの制度から除外することがむしろ尊重」というのも一理ある。

このあたりに関しては、GID当事者の意見も分かれるところだろう。一概にどちらが正しいと言える話でもないように思う。


しかし。

だとしたら、このHPの説明書き、分かりにくすぎる!!

是非はともかく、戸籍変更の有無に関わらずGID当事者はセクマイ枠、LGBT枠で扱われることが多いわけで、「対象者を同性パートナーから双方または一方がLGBTQであるパートナーへ拡大しました」という説明書きを読んで「あ、じゃあ戸変済みの異性愛GID当事者は対象外だね!」と分かれという方が無理がある。

これを読んで勘違いした戸変済み異性愛GID当事者がノンケのパートナーと世田谷区役所にパートナー証明もらいに行ってしまったら制度の不正利用である。いくら実効性のほぼないパートナー証明とはいえ、コンプライアンスだ何だやかましいこのご時勢、公的制度を不正利用したとなれば大変な話だ。「要綱も様式もHPに載せてるだろ、ちゃんと読まない奴が悪い」というのは、さすがに酷だろう。ハッキリ言ってトラップである。

 

回答にあったような明確な理念をもって意図的にこのような制度設計にしたのであれば、HPや手引きの説明書きにもその旨大きく強調して明記すべきだろう。これではその理念がまったく伝わらないどころか、ひたすら誤解を招き、「悪気なく不正利用」を誘発するような状態になってしまっている。世田谷区にはぜひ、HPの説明書きの見直しをお願いしたい。
 

 


しかしそもそも、「セクマイ限定」のパートナーシップ制度って、一体何なんだろうと、あらためて思うところである。

「法律婚したくてもできない戸籍上同性カップル限定」というのなら分かる。主旨も対象者もハッキリ明確である。

それに加えて、「戸籍上異性だが自認同性のカップルもOK」というのも、まあ分かる。
「近い将来に戸籍上の性別変更を予定しており法律婚するわけにはいかないから」とか「自認上同性カップルなのに異性カップルとして婚姻届を提出することにどうしても耐えられないから」といった性別違和の当事者への配慮、ということで、一応説明はつく。

しかし「セクマイ限定」??
たとえば「バイセクシュアル女性(性別違和なし)と異性愛男性(性別違和なし)」のカップルはOKなのに「ノンケ男女カップル」はNGとする合理的理由ってあるの??

謎である。

「ノンケカップルもOKにするとセクマイ支援の理念がぼやけるから」などと言う人もいるようだが、セクマイ支援というならなおさら、セクマイもノンケも平等・対等に利用できる制度にした方が理に適っているのではないか。ノンケカップルOKにすれば、戸籍上異性のセクマイカップルがカミングアウトを強いられずに制度利用できるようになることも大きなメリットである。

だいたい、2015年の制度開始当初はともかく、現在では2019年の千葉市を皮切りに、ノンケOKのパートナー制度を導入する自治体が全国でどんどん増えている。それらの自治体では「セクマイ支援の理念がぼやけて」いるのだろうか。そうは思えないが。


まあ単に、いつもながらのB無視というだけなのかもしれない。
私も一応Bだが、「B異性カップルOK、ノンケ異性カップルNG」のパートナー制度が嬉しいなんて全く思えないし、これでBが尊重されているなんて全く思えないし、むしろ蔑ろにされているように思う。


いずれにせよ、現在においては「セクマイ限定」のパートナーシップ制度を導入している自治体が少なくないのは事実であり、しかもその具体的内容は世田谷区の事例を見れば分かるようにいろいろバラバラである。HPの説明書きを読んだだけでは確認できない重要事項もあったりするので、制度利用を検討している方はお気をつけいただきたい。