今「卒論でLGBTについて取り上げる」というのがちょっとしたブームのようだ。
田舎者の私のところにも時たま調査依頼が来るのだが，正直かなり失礼というか，悪気なく上から目線というか，なんというか「奪われる」感の強いものが少なくない。なんでそうなってしまうんだろう。
完成した卒論とやらも送ってもらったことはほとんどない。 当事者は実験動物にしか過ぎないということなのだろうか。 実験動物だって供養はするものだが。
当事者を名乗る学生が調査主体である場合もある。しかしこの件に関して「当事者である」ことは何の免罪符にもならないということは肝に銘じていただきたいものだ。
調査対象者に救いというか癒しというか，カウンセラー的役割を求めてくるような調査者も散見される。「尊重する」ことと「勝手な幻想押し付けてもてはやす」ことは明確に異なるのだが。
Twitterの匿名アカウント（氏名はおろか所属大学や連絡先すら不明）で「卒論でLGBT対象のアンケートやってます！回答＆拡散お願いします！」などというのを見かけることもある。しかしそれはアカデミックな調査としてはいろんな意味でダメなんじゃないだろうか。このようなかたちで取ったデータにどれほどの意味があるのかと思う。そしてそういうツイートがけっこうリツイートされていたりするのがまた困りものだ。
こういうケースだと，指導教官に文句を言いたくても言えない。卒論の場合，やっているのは学生だが，しかしバックには研究のプロたる大学教員がついているわけで，それなのにこのていたらくは何だ，というふうに思ってしまうのが正直なところである。研究だ論文だと言いながら，基礎知識すらほとんどないまま当事者に突撃してくる学生のあまりの多さには本当にビックリしてしまう。本人の性格が悪いなどということではなく（むしろ良い子なかんじ），ただお作法を教えられていない＆全然勉強していない（本とか読んでない）という印象を受ける例が私の場合多かった。
しかしこの「LGBT卒論問題」（ていうかもちろん社会人の調査（ビジネス系とか）にもうさんくさいものはいっぱいあるわけだが），もうずっと前からいろいろな人が指摘しているのに，そういう声はなかなか現場には伝わらないものなのだろうか。 生身の人間，生身のマイノリティを扱うからにはそれなりの覚悟と慎重さを持ち，最低限の礼儀と事前勉強は怠らずやっていただきたいものである。
【参考サイト】
CGSジャーナル『ジェンダー&セクシュアリティ』09号クィア領域における調査研究にまつわる倫理や手続きを考える：フィールドワーク経験にもとづくガイドライン試案（溝口彰子，岩橋恒太，大江千束，杉浦郁子，若林苗子）
http://web.icu.ac.jp/cgs/2014/06/cgsjnl009.html
翻訳『調査対象者，回答者，参加者の保護について』：卒論を書いている大学生や，独自調査をしようとしている団体は，ぜひ一度読んでください（マサキチトセ）
http://ja.gimmeaqueereye.org/entry/1758
研究協力者のためのチェックリスト（Rainbow College）
http://rainbowcollege.blog68.fc2.com/blog-entry-101.html
【参考書籍】
調査といえばこの本はすごく勉強になりました。調査者が調査対象者から貴重な資料を借りておいて返さないとか（ドロボーじゃん…）ヒドい事例てんこもり。
調査されるという迷惑―フィールドに出る前に読んでおく本（宮本常一，安渓遊地）
https://www.amazon.co.jp/%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%BF%B7%E6%83%91%E2%80%95%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%81%AB%E5%87%BA%E3%82%8B%E5%89%8D%E3%81%AB%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%8A%E3%81%8F%E6%9C%AC-%E5%AE%AE%E6%9C%AC-%E5%B8%B8%E4%B8%80/dp/4944173547
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※この記事はTwitterに投稿した文章（↓の一連のツイート）をまとめ直したものです。
https://twitter.com/MEMEsendai/status/801768541900787713
https://twitter.com/MEMEsendai/status/902862778821517312