「性的少数者」とは誰か | 女々しい奴

女々しい奴

セクシュアリティ・ジェンダー・防災などなど,仙台に暮らす独り者バイの日々雑感。

同性カップルにパートナーシップ証明を出すということで今話題になっている渋谷区の条例,「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例 」の条文を読んでみて,最も納得いかないのが「性的少数者」の定義だ。


(定義)

2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(中略)
(7)性的少数者 同性愛者、両性愛者及び無性愛者である者並びに性同一性障害を含め性別違和がある者をいう。



(※傍線は引用者による)



 なにその狭さ。

「等」すらつかない,ものすごく狭い定義だ。

「性的少数者」というのは,「同性愛者」と「両性愛者」と「無性愛者」と「性別違和がある者」だけ,他のセクシュアリティは「性的少数者」には一切該当しない,ということだ。

「性的少数者」の定義についてはさまざまな意見があるが,こんな極端なまでに限定したものはなかなかないのではないか。たとえばポリアモリーなどは明確に排除された表現である。
こんなに狭い定義にするのだったら,「性的少数者」などという包括的な言葉は使わず,LGBTAなどの表記にすれば良かったのではないかと思う。



ちなみに「LGBT支援宣言」で有名な大阪市淀川区の「淀川区 LGBT 支援事業 特設ホームページ 」の「LGBTって何?」というページを見ると,



「いろんな性別のあり方を「セクシュアリティ」といいます。セクシュアリティが多くの人に比べて少数派の人達のことを「セクシュアルマイノリティ(性的少数者)」といいます。セクシュアルマイノリティのことを最近では「LGBT」と呼ぶことが増えてきました。LGBTとは、L(レズビアン)女性同性愛者、G(ゲイ)男性同性愛者、B(バイセクシュアル)同性を好きになったり異性を好きになったりするひとや相手の性別にこだわらない人、T(トランスジェンダー)身体の性別とは異なる性別を生きる/生きたいと望む人、の頭文字です。」


(※傍線は引用者による)



という説明がなされており,また,同じページには


「(前略)多様な性のあり方は一人一人のあり方なんだと気付きます。同性を好きになる人もいれば、異性を好きになる人もいる。複数の人と恋愛をする人もいるし、誰もが恋愛をするわけでもありません。自分の性別を決めたくない人もいれば、自分のことを男でも女でもあると感じるひともいます。」


(※傍線は引用者による)

と,ポリアモリーについて否定的でなく言及した表現もある。



同じ公的機関でも,ずいぶん語の使い方が異なるものである。


(※ちなみに私自身は「性的少数者」とは広義では「性にまつわることで社会生活において不利益を受けている者」と考えている。だからたとえば性犯罪被害者やセックスワーカーも含み得る。狭義では「現代社会において多数派とされているモノガミーのシス異性愛者以外の者」の意で使うこともある。)



渋谷区条例の定義を見るにつけ,つい邪推して考えてしまう。


LGBTA以外は性的少数者じゃない,条例で尊重してあげないということなのか?


別の言い方をするなら,尊重すべき性的少数者と尊重しなくて良い性的少数者がいるということなのか?





渋谷区条例でもうひとつ気になるのが,「男女」の語が多用されていること,そしてその「男女」の定義がなされていないことだ。

「性別違和がある者」を差別しない,尊重するなどと謳いながら,条文に大量に「男女」「男女」「男女」と溢れているのには違和感がある。

それに,条例第3条と第4条を見比べてみると,なんだか「男女」と「性的少数者」が別カテゴリで扱われているようにも感じられてしまう。対立概念ではないはずなのに。

また,「男女」の定義がなされていないのも納得いかないところだ。「性的少数者」については非常に狭い,ガチガチの定義をしているのに。


2(8)に「パートナーシップ  男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係をいう。」とあるところを見ると,おそらく戸籍上の「男」と「女」を指しているのではないかと思われるが,それならそうと明記すべきだと思う。


何の断りもなく当たり前のように「男/女=戸籍上の性別が男/女である者」と決めつけているのであれば,それは全然「性別違和がある者」を尊重していない。

「性別違和がある者」を尊重するのなら,「いろいろご意見はあるでしょうがとりあえずこの条例では『男女』をこう定義しますんでヨロシク」くらいの一文は必要なんじゃないだろうかと思う。




「性的少数者」をガチガチに定義しながら「男女」は定義しないって,なんだか思考停止のようにも感じられてしまう。

以前にも書いたが(※ブログ記事「あなたにとって「女/男」とは何ですか?」 ),セクシュアリティ関係なくひとりひとりにもっと,自分にとって「女」「男」とは何か?と,自分ごととして考えてほしいと思う。




※この記事はTwitterに投稿した文章(↓の一連のツイート)をまとめ直したものです。

https://twitter.com/MEMEsendai/status/593768369775489024

https://twitter.com/MEMEsendai/status/593834823262740480



参考サイト

渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例

https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/jorei/jorei/pdf/danjo_tayosei.pdf

淀川区LGBT支援事業 特設ホームページ

http://niji-yodogawa.jimdo.com/