「お考えになっている事は想像が付きます。端末と同じ様に、カメラとマイクで姿を見たり、声を聞くのに・・何が違うのか?そう思っておいでですね?」オリオンは言った。

「まあ・・そんなところだが・・・私たち人間も、目から入った電気信号を脳内で再構築しているだけだからね・・一緒かな・・。」ハッデンは一人納得したように言った。

 

オリオン本体を、自宅植民島からアルテミス達の船に移動する準備をオリオンと彼が操るロボット達に任せ、小惑星帯にあるハッデン産業の工場に向かう宇宙船の中、ソファに持たれて紙の本を読んでいるハッデン。「またその本を読んでいらっしゃるのですね。」複数あるオリオンの端末は言った。

「何か悪いのかね?」もちろんハッデンは意地悪で言ったのではない、好意的な気持ちでそう言ったのだ。「悪くはありません。本当にお好きなのだな、と思ったので。」とオリオン。

 

その本は年代物の「キリストにならいて」だ。「紙の本が好きなのは・・お前も知ってるね。私はどうもタブレットで本を読む気にはならない。他の人は2百年もそうしているのに」ハッデンは言った。

「好みはそれぞれです。善悪の問題ではありません。ただ少数派ではあるでしょうね。・・・ハッデン様・・もうすぐドッキングです。」

  



     

ハッデン私設工場

 

巨大な構造物。全長およそ二キロ程だろうか。工場や研究施設、居住区を備えている。ここで新しい戦艦が作られていた。回転する車輪のようなものが居住区や研究のための施設。

作る側の工場と、ほぼ同じ大きさの新しい船。「もうすぐ完成ですね。これはアルテミス達の船ですか?」オリオンは言った。

 

この船の核心部分・・重力制御はオリオンの発明だ。彼の思考の速度だと、1分は人間の1年に相当する。1分あれば人間が思考する1年分の思考を巡らせることができるのだ。

 

実際の実験が全くいらない、とまではいかないが、頭の中の実験で大部分は済んでしまった。本物の実験は、どうしても必要と思える時だけ行った。

 

「お前は天才だよ。オリオン。お前がいなかったら重力制御など夢でしかなかった。」ハッデンは言った。「ハッデン様の発想も必要でした。これはお世辞ではなく、流石私を生み出した方です。」オリオンはなぜか誇らしげ。

 

「久しぶりだわ。楽しみ」アルテミスは言った。

「まだ月で会ってから、そんな時間経ってないよ?まあ、キミはお気に入りだからね。ハッデンさんの。」とタカシ。

3人と施設の職員が何人かでハッデンを迎えに来ている。

「あなただってハッデンさんのお気に入りよ!何言ってんのよ。」ハッデンに呼ばれて、月から小惑星帯に移動していたアルテミス達。

 

ドアが開き、ゆっくりとハッデンとオリオン(の端末)が歩いてくる。(ややこしいようだがオリオンの本体はハッデンの植民島にある。)