(遅くねえ?)リクトは言葉を使わず二人に語りかけた。金属片をゆっくりとアルテミスたちとの間に移動させる。

(そんなに遅れてないわよ。それにリクト、遊んでたんでしょう?)とアルテミス。

 

「非音声通信で話さないで、私が分からないわ。」これはミンチン博士。無言のまま一定時間佇んでいるのを見て、非音声通信をしているとミンチン博士は気づいたのだ。

 

「そうね。声で話すわ。今日は何をするの? 」アルテミスは言った。念動力の精度を上げるための訓練。三人の精度はかなり高い、だが、動かそうとする物とは違うところに焦点が当たってしまうことが時々ある。それでは兵器としては役に立たない。

 

「さっきリクト凄かったわね。あんなに重いものを持ち上げてた。何キロくらいあるのかしら」とアルテミス。

「分かんねえ。でも2~30キロはあるんじゃねえの?」リクトは何てことはない風で言った。

「そんなに重たいやつを?僕もやってみようかな。」タカシが言った。そしてリクトが持ち上げていた金属片に意識を当てた。ゆっくりと金属片は空中に浮かび上がった。

「かなり・・疲れる・・・でも・・なんとかなる。」とタカシ。

 

「お、できんじゃん。タカシ結構、力が強くなってんな」リクトは言った。この三人の中では一番力が弱いのはタカシだ。でもそんなタカシをリクトは見下すでもない。

 

「まあ凄いわ。タカシの力も強まっているじゃない!」ミンチン博士が言った。

 

ミンチン博士は母親のようだ。この力を自分に向けられたらどうなるのか?そんなことは考えてもいない。他の職員達はどう思っているのだろう?科学にとりつかれて、そんな発想などないのだろうか?

 



小惑星帯にある植民島。巨大なドーナツ型密閉空間の中に数万人が暮らしている。周りの数百万キロには他の植民島はない。火星連邦の為の資源採掘の拠点。大部分がロボットによる採掘だが、主にそのロボットのメンテナスのために人間はいる。一応火星連邦の支配空域だが、地球や火星で落ちぶれた者が一攫千金を夢見てやって来る。しかし大部分は落ちぶれて犯罪に手を染めるか薬物で死んでゆくかである。

 

オリオンのように自意識があるコンピュータは、ハッデン産業、太陽系で最大の大富豪ハッデンをceoに頂く巨大企業、の特許なのだ。使用できるのは地球合衆国政府だけ。今とのところは。

 

火星連邦の弱腰政策に我慢ならない者たちがここにいた。

「俺たちは痛めつけられてきた。あいつらだ。地球の奴らに!」演説をしているのはストルムグレンという男。背が高くがっしりとしている。でも顔つきは理知的に見えた。良い服を着てメガネでもかければ、あのでかいインテリ、と言ってもらえたろう。英語でFの言葉を連呼しているストルムグレン。

 

「今の政府は地球の奴らの靴を舐めて金を得ている。そんな奴らに、いつまでも、いいようにされて君達は本当に良いのか?うんざりしているんじゃないのか?」聴衆の中には頷く者もいる。

「俺は耐えられない。今すぐにでも奴らの頭を吹き飛ばしてやりたい。」ストルムグレンは言った。