モンゴル・南ゴビ地域の開発について/Oyu Tolgoi、Tavan Tolgoi炭田、/



モ ンゴルの南ゴビ地域は、 Ivanhoe Mines社によるTurquoise Hill(Oyu Tolgoi)銅鉱床の発見により、資源ポテンシャルに注目が集まっている。しかし、同地域はゴビ砂漠が広がり、インフラも未整備な地域と言われており、 開発には巨額の資金がかかることが予想される。このような中、本年6月に中国の胡錦濤国家主席がモンゴルを公式訪問した。それまでも、2002年1月にモ ンゴルのエンフバヤル首相の訪中等、中蒙国境付近の開発に関する動きはあったが、胡主席の訪蒙によりこの開発の動きの進展が予想される。本レポートでは、 南ゴビ地域で開発が期待されているTurquoise Hill銅鉱床とTavan Tolgoi炭田の概略を述べ、南ゴビ地域の開発の問題点を考察した。


Turquoise Hill銅鉱床
urquoise Hill銅鉱床は、モンゴルの首都ウランバートルの南方約530km、中国との国境から約80kmに位置する。1996年に豪BHP社が Turquoise Hill鉱床を含む1,350km2の鉱区を取得し調査を開始した。BHP社は1998年までに23本、3,800mのボーリング調査を含む探鉱を実施し たが、探鉱予算の縮小に伴い、調査を中断した。2000年にIvanhoe Mines社がBHP社よりTurquoise Hill鉱床の権益を取得し、探鉱を再開した。同社が積極的に探鉱を実施した結果、周辺への広がりも確認され、ワールドクラスの銅鉱床となった。

Tavan Tolgoi炭田
Turquoise Hill鉱床と並んで南ゴビ地域で開発の期待が高まっているのは、Tavan Tolgoi石炭田である。同炭田は首都ウランバートルの南方540kmのUlaan Nuur盆地に位置する。Ulaan Nuur盆地にはTavan Tolgoi炭田のほか、Uhaahudag炭田、Eastern炭田、Bortolgoi炭田があり、これら埋蔵量の合計は64億t(うち原料炭18億 t、一般炭46億t)と推定されている。
 Tavan Tolgoi炭田に関しては、世界銀行グループの融資によってプレF/Sを終えており、モンゴル政府はTurquoise Hill鉱床に先行して開発を進めたい模様である。

[中蒙関係]
  本年6月、中国の胡錦濤国家主席がモンゴルを公式訪問した。モンゴルへの国別直接投資額は中国がトップである。胡主席は、モンゴル国会でスピーチし、資源 開発と社会基盤整備分野での協力が重要であると述べている。同スピーチでは、モンゴル東部のTumurtin Ovoo亜鉛鉱床の開発に2億元の融資を行ったことにも言及しており2、モンゴルの資源に対する中国の積極姿勢が窺われる。

[中国の石炭事情]
  中国は世界一の石炭生産国であり、2002年には13.9億tの石炭を生産している。また、オーストラリアについで世界第2位の石炭輸出国である。しか し、2002年には8,500万tの石炭を輸出する一方で、1,100万tの石炭を輸入している。これには、炭鉱事故の影響や石炭生産地から消費地への輸 送の問題も考えられるが、経済発展に伴う石炭需要の増加が見込まれており、2005年には石炭の供給量が約2億t不足するとの試算もある。このような背景 もあり、Tavan Tologoi炭田の石炭を中国が欲することも十分考えられる。

[精鉱の輸出先]
 2002年、モンゴルは チリを抜いて中国への銅精鉱輸出先のトップとなった。もっとも、2002年はチリからの輸入量が前年までと比べてかなり減った (2001年69万t→2002年46万t、いずれも精鉱量)ことによるが、モンゴルの銅精鉱、すなわちエルデネット鉱山の銅精鉱のほぼ全量が中国に輸出 されている。では、モンゴルの銅精鉱は中国のどの製錬所に供給されているのだろうか。
 試みとして、モンゴル国境に比較的近い地域の銅溶錬所の溶錬能力と中国における精鉱生産量を比較した。
  モンゴル国境に近い5か所の銅溶錬所の溶錬能力(2002年)は、合計で191千t/年である。一方、2002年にこれら溶錬所周辺の7省・自治区で生産 された銅精鉱は75千t(銅量)であり、約120千tが不足する。しかし、モンゴルからの銅精鉱輸入量は約124千tあり3、表の合計欄に示すように、数 字の上ではモンゴル国境付近の溶錬所でモンゴルからの輸入した精鉱は消費されることになる。

モンゴル周辺の中国の溶錬所及び銅精鉱生産量



で は、Turquoise Hill鉱床が開発された場合、精鉱の需要先はどこになるのだろうか。上述のように、エルデネット鉱山の銅精鉱が中国北部の溶錬所でほぼ消費され、溶錬所 の能力まで生産が行われているならば、Turquoise Hill鉱床あるいはエルデネット鉱山の精鉱をより遠くへ運ばなければならなくなる。ただし、甘粛省の金川製錬所は2006年までに銅地金生産能力を 250千t/年に拡張する計画があるほか、上表に掲げた以外にも中小の溶錬所があるため、輸送距離が比較的少なくてすむモンゴル周辺地域でモンゴルからの 輸入精鉱を全て消費できるかもしれない。
 一方、中国以外への輸出を考えると、Turquoise Hill鉱床から最も近い積出港である天津まで直線距離で約1,000kmある。中国では石炭等の鉄道輸送が発達していることやエルデネット鉱山の精鉱運 搬の実績から、Turquoise Hill鉱床の鉱石を天津まで運搬することは問題ないと考えられる。しかし、国境を二度越えることや現状においてモンゴルから日本へ精鉱が輸出されていな いことを考えると、現段階においては、中国以外への輸出は考えにくいものと見られる。

東アジアの銅溶錬所の分布



[インフラ整備]
 以上から見られるように、南ゴビ地域は資源ポテンシャルが高く、経済発展の起爆剤にしたいモンゴルと資源不足の中国との思惑も一致している。問題は誰がインフラ整備を行うのかということだろう。
  中国側の鉄道は、包頭市からバイヤンオボ鉱山まで敷設されており、ここから中蒙国境を越え、Turquoise Hill鉱床を経由し、Tavan Tolgoi鉱床まで鉄道を敷設するというのが、Ivanhoe Mines社の構想である。4Ivanhoe Mines社は、2003年4月に中国国際信託投資公司(CITIC)とTurquoise Hill鉱床の開発に関して協力することに合意し、Ivanhoe Mines社がモンゴル政府に、CITICが中国政府に鉄道建設を働きかけるとしている。また、Ivanhoe Mines社によれば、内蒙古自治区政府は国境までの高速道路建設を決定し、本年中に完成予定である。この道路はTurquoise Hill鉱床まで80kmのところまで来ることになっており、同社はモンゴル側にも延長するよう中蒙両政府に働きかけている。
 輸送以外のインフラとして、電力があげられる。Tavan Tolgoi炭田の石炭を利用して火力発電所の建設を進めるとの構想があるが、これも誰が資金を出すかということが問題であろう。
  中国側としては、中国側の整備は中国、モンゴル側の整備はモンゴルということだろうが、ある程度の整備ができている中国とほとんど整備されていないモンゴ ルとでは、整備に要する資金には大きな差があるだろう。したがって、南ゴビ地区の開発は「モンゴル側のインフラ整備資金を誰が出すか」ということに懸かっ ていると考えられる。


urquoise Hill銅鉱床・Tavan Tolgoi石炭鉱床位置図(Ivanhoe Mines社の資料を基に作成)