コーランの教えを守り、利子の禁止、そして宗教原理的に好ましくない商品やサービスには融資を行わないことになっている。現在、イスラム金融の最大の市場はマレーシアであるが、これは同国が国策として積極的にイスラム金融を推進してきた結果である。とはいえ、最近では中東湾岸諸国のイスラム金融の増加が著しい。

2010年までにイスラム・ファンドの数は1000を越える?

 2008年のイスラム金融と投資に関する報告書を見ると、湾岸諸国とアジア極東地域へのイスラム金融による投資額は2670億ドルに達している。この報告書はアメリカの大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングがまとめたものであるが、中東湾岸地域とマレーシア、そしてインドネシアに焦点を当てたものである。


 この3地域だけを見ても500を越えるシャリア・ファンドが組成されており、世界的な投資活動を展開している。しかも、そのうち5分の1を越える153のファンドは前年の2007年に誕生したばかりである。このペースでいけば、2010年までにイスラム・ファンドの数は1000を越える数になりそうだ。

 イスラム金融の主体はいわゆる政府系ファンド(SWF)と年金ファンドである。このカテゴリーに入るファンドの資産総額はすでに1兆3000億ドルに達するものと思われる。特に湾岸諸国における政府系ファンドの資産規模は原油高の追い風を受け、刻々と増大する一方である。

イスラム金融方式で膨らむ資金

 この潤沢なオイルマネーをいかにして有効活用するのかが、まさにイスラム金融にとってはこれまでにない腕の見せ所となっている。アメリカ発のサブプライムローン危機によって、ウォールストリート式の金融マネーゲームの危険性が世界的に問題となったこともイスラム金融にとってはプラス効果となっているようだ。

 倫理観を失った短期的なマネーゲームのあり方が問われる中、イスラム教の厳格な教えをベースにリスクを借り手と貸し手が共有する融資のあり方が安心感と支持を広めている。

 マレーシアには 134 のイスラム・ファンドが機能しており、同国の金融資産の10%を占めている。またサウジアラビアでは 120 のイスラム・ファンドが稼動中で、同国の金融資産の55%を占めている。冒頭見た大型の開発プロジェクトに必要な資金もイスラム金融方式にのっとって調達が進められている。2005年から2007年までのイスラム金融のシンジケートローンは毎年ほぼ倍増のペースで膨らんでいる。

 イスラム金融とはいえ、具体的な投資金融手法は売買、リース、出資、信託、いずれも一般の金融と大きく違うわけではない。ただ、形のないものには融資をしないのが原則で、いわゆるヘッジファンドが得意とする空売りやショートは禁止されている。とはいえ「シャリア」の解釈はさまざまである。

 砂漠の民が自らの安全を確保するためさまざまなリスクヘッジを行ってきた歴史やノウハウは現代でも形を変えて脈々と息づいている。かつては駱駝を使って砂漠を横断することに伴うリスクを分散するために、商売人と出資者との間で独特のパートナーシップ契約が結ばれていた。途中で山賊に襲われたり、砂漠の灼熱の太陽の下で駱駝も運搬人も命を落とすなど、高いリスクがあったが、投資リターンは平均すると20%はくだらなかったという。いわば現代のベンチャー投資に近いもので、このリスク分散の契約方法こそがイスラム金融の原点といえるだろう。

欧米の金融機関に取って代わり増大するイスラム銀行の影響力

 このところ、IMF(国際通貨基金)もイスラム銀行のシステムを認め、統一基準作りを進めている。