どうやら俺は、これから遠い国へ行くらしい。

その国へは特別な飛行機に乗らなくてはいけないらしい

飛行機の構造が特殊なのか、その国が遠いのか

片道分の燃料しか積み込むことが出来ない。

 

俺の仲間は次々と覚悟を決めて

各々の飛行機に飛び込んでいく。

 

説明があった。

飛行機に乗ったらもう生きて帰ってくることはできない。

だから銀行の通帳やら、様々なネットのアカウントやら、

今この世に登録しているのはもうすべて解約をしなくてはいけない。

自分の宝物も、手放さなくてはいけない。

 

俺が恐れていたのは、一台のポータブルHDDを手放さないといけないという事だった。

俺の目の前には、退会をして用をなさなくなった大量のメンバーズカードや

口座を解約して、その口座に残されていた現金が札束となっていた。

そして、HDDもこれから手放さなくてはいけない。

HDDには、今まで俺がつけていた日記や、旅行へ行った写真、聞いた音楽などが入っており

自分の人生の生き方をすべて詰め込んだものだった。

 

これを手放して飛行機に乗ったら、自分に待っているのは死のみだ。

この飛行機に乗ったら100%自分は死ぬ。

そして自分の意志で、能動的にこの飛行機に乗らないといけない。

生きてきた証が詰まったHDDを手放さなくてはいけない。

口座のお金が札束としてあっても、何にも使うことはできない。

 

なかなかその勇気が出てこず、足が動かない。手を動かせない。

額や手のひらからじわじわと汗がどんどんにじんでくる。

何とか回避することはできないのかとその場にいた人間に聞くも、その人間から返答はなかった。

 

自分は、この命を投げ出さなくてはいけないのだ。

いつの間にか自分はクシャクシャに泣いているようだった。

そうして、覚悟を決めたというよりかは諦念の末に飛行機に乗り込む

 

 

 

気が付くと俺は起きていた。

…いつもと変わらない日常があったのだが…。

もしかしたら何か俺の深層心理が、俺に強く呼びかけていたのではないか。

そう思ってならないのだ。