人が普段あまりとらない行動に出ると、とても警戒心が働く瞬間があります。
そう、あの日の夜のように…

              犬嫁日記#33:『さらばレミパン』の巻



その日、撮影の仕事で遅くなった僕は、帰りの電車でウトウトしていました。
すると携帯に新着メールが。

嫁さんのメール:「ごはん、あります。」

このメールが僕を夢の世界から現実に引き戻したのは
言うまでもありません。

「ごはん、あります。」

ああ、こんなことは何日ぶりだろう。
嫁さんが夕飯を作るなんて。
きっと、連日僕の帰りが遅いので
少しは気遣ってくれているのだろう。

僕は戸惑いながらも電車を降り、
自宅へと向かいます。

玄関を開けて中に入ると、なにやら異臭が漂っています。

焦げ臭いのです。

でも、もう10年以上も彼女と暮らしている僕は、
そんなことくらいでは驚きません。
なるほど、料理を作ったはいいが、
途中でTVでも観ていて鍋でも焦がしたんだな。
そう思った僕は、

僕:「今日は、何作ったの?」
嫁さん:「すき焼き風…ちょっと焦がしたけど、焦げたところは
取り除いた。」
僕:「何で焦げたの?」
嫁さん:「オリンピックで高橋大輔観てたら、焦げてん…」

やはり思ったとおりです。予想が的中したことに満足した僕は
少し焦げた料理を口に運びます。

嫁さん:「ちょっと焦げてるけど、味は問題ないでしょ?」
僕:「うん、問題ないよ。」
嫁さん:「食べたら、皿を片づけてね。」
僕:「分った。」

言われたとおり、キッチンに皿を運んで行くと
ごみ箱に何かが突き刺さっているのに気づきました。
額に嫌な汗が滲んでくるのを感じながらごみ箱に近づき
おそるおそるその何かを抜き取ってみると
なんとそれは、昔舞台公演の打ち上げで
有名なミュージシャンS.Rさんにもらったレミパンだったのです。

僕:「ああっ!!大事に使ってたレミパンが!!」
嫁さん:「………」
僕:「これ、S.Rさんからもらった大事なレミパンなんだぞ!!」
嫁さん:「レミ…パン?」
僕:「今、レミパンが何か説明している余裕はない!
なんでごみ箱にこれが入ってるのか聞いている!!」
嫁さん:「もう、焦げたからあかんと思って…」
僕:「本来黄色いレミパンが、茶色になってるじゃないか!!どうするんだよ!」
嫁さん:「もともとそんな色だったよ。」
僕:「元は黄色でした!」
嫁さん:「フライパンくらいまた買えばいいじゃん。」
僕:「これは特別なフライパンなんだよ!!」
嫁さん:「レミ…パンとかいうものだから?」
僕:「そうじゃなくて、S.Rさんにもらったからだよ!人の話聞いてないのか?」
嫁さん:「……ウソ~」
僕:「嘘ついてどうすんだよ!もらって来た時、そう言っただろ?」
嫁さん:「全然覚えてない。」
僕:「なんで!?」
嫁さん:「誰にもらったってフライパンはフライパンでしょ?拘りなさんな。」
僕:「はあ?」
嫁さん:「有名人からもらったものを大事にしても仕方ないよ。
早く自分が有名になること考えたら?」
僕:「くそ、それとこれとは話が違うだろ!」
嫁さん:「モノに拘るなんて馬鹿げてるよ。私はそんなものに価値を置いたりはしません。」
僕:「なぜお前の方が今、優位に立っている?」
嫁さん:「こころざしの問題や。仕事するから邪魔せんといて。」
僕:「………」

嫁さん:「エミパンなら私がいくらでも買ったるわ。

                       苦難は次回へ続きます。犬




犬嫁日記-坊っちゃん、焼きたてのパンでございます