森がいちばん、まぶしく輝く季節がやってきました。
春が終わり、新緑の葉っぱたちが太陽の光を浴びて、まるで緑色のあかりを灯したようにキラキラしています。

リスの男の子トトは、お気に入りの麦わら帽子をかぶって、毎日森を駆け回っていました。
「今の季節が、ぼくは一番好きなんだ!」
爽やかな風が吹き抜けるたび、葉っぱたちが「サワサワ」と嬉しそうに歌います。タンポポの綿毛がダンスをして、木々のすき間からは光の粒がこぼれていました。

ある日、トトが大きなクヌギの木の下で涼んでいると、上からパタパタと羽の音がして、物知りなフクロウのじいさんが降りてきました。
「トトや、ずいぶんと楽しそうじゃな。そのあふれるような『いまの幸せ』を、未来の自分にプレゼントしてみんかね?」
「未来のぼくに、プレゼント? どうやってやるの?」
トトは丸い目をパチクリさせました。

じいさんはニッコリ笑って、クヌギの木の根元にある、小さくてうつろな穴を指さしました。
「ここは『どんぐりポスト』じゃ。今、ここで見つけた最高に素敵なものをここに入れてごらん。未来のお前さんが、きっと助けられるはずじゃよ」

「未来のぼくが、元気になるもの……」
トトはワクワクしながら、いまの季節の一番のお気に入りを探しに行きました。
そして、小さなガラスびんを片手に、森の奥の小川へと向かったのです。

そこは、春の雪解け水がまじる、一番つめたくて気持ちのいい場所でした。
トトは優しく流れる川の前にしゃがむと、ガラスびんを近づけて、
「カポッ!」
と、瑞々しい川のせせらぎの音をすくい取り、急いでコルクのフタをしました。

それだけではありません。トトは帰り道、新緑のすき間からこぼれ落ちてきた、ひときわ輝く「木漏れ日のカケラ」を両手でそっとつかまえて、ポケットにしまいました。

トトはどんぐりポストへ戻ると、せせらぎのびんと、キラキラ光る木漏れ日のカケラを、そっと穴の奥へ入れました。
「未来のぼく、お楽しみにね!」


それから、いくつかの月日が流れました。
季節は進み、本格的な夏の終わりがやってきました。

はじめは楽しかった夏ですが、毎日ジリジリと強い太陽が照りつけ、森の草木も少し元気がありません。トトも、すっかり暑さに疲れてしまい、お気に入りの麦わら帽子を机に置いたまま、巣穴でゴロゴロしていました。

「あぁ、なんだかつまらないなぁ。身体も重たいし、どこへ行く元気も出ないや……」
冷たいお水を飲んでも、なんだか心までカラカラに乾いていくようです。あんなに大好きだった森なのに、今はちっともワクワクしません。

その時、トトはふと、あのまぶしかった季節にフクロウのじいさんと交わした約束を思い出しました。
「そうだ、どんぐりポストに、何か入れたっけ……」

トトはのろのろと巣穴を出て、クヌギの木へと向かいました。
あんなに青々と茂っていた葉っぱも、今はすっかり濃い緑色になり、お疲れ気味にだらんと垂れ下がっています。
トトは小さなため息をつきながら、ポストの穴にそっと手を入れました。

指先に、ツルリとしたガラスの感触が当たりました。
取り出してみると、それはあの日に隠した、小さなガラスびんでした。中には、あのときつかまえた「木漏れ日のカケラ」が、今も変わらず優しくまたたいています。

トトがそっとコルクのフタを抜くと――。

「シュワァ…… サラサラサラ……」

びんの中から、あの日の「冷たくて心地いい、川のせせらぎの音」が、涼しい風と一緒にフワッと吹き出してきました。
それと同時に、閉じ込められていた木漏れ日の光が優しく広がり、夏の終わりのどんよりした影を、あたたかく照らし出します。

「あ……」
その音を聴き、その光を浴びた瞬間、トトの胸の中に、あの初夏の爽やかな匂いや、「世界ってなんてきれいなんだろう!」と胸を躍らせたあの瞬間のきらめきが、鮮やかによみがえってきました。

カラカラだったトトの心に、みずみずしいエネルギーが、じわーっと染み込んでいきます。

「そうだ、ぼく、この森が大好きだったんだ。こんなに素敵なところが、たくさんあるんだもんね」
気づけば、トトの心はすっかり軽くなり、顔にはいつもの元気な笑顔が戻っていました。

「ありがとう、あの日のぼく!」

トトはまた、お気に入りの麦わら帽子をしっかりと頭にかぶりました。
そして、これからやってくる実りの秋、白い雪の冬、それぞれの季節のなかで「素敵な瞬間」を見つけては、またポストに入れることに決めたのです。

どんな季節のなかにいても、未来の自分がずっと笑顔でいられるように。

(おしまい)