一、庭に落ちてきた星
夏休みの夜、小学三年生のルノは、自分の部屋のベランダで手作りの望遠鏡をのぞき込んでいました。 「うーん、やっぱり今日も木星の模様までは見えないかぁ……」 ルノはため息をつき、レンズから目を離しました。
そのときです。 シュッ! 夜空を切り裂くように、ひとすじの青い光が落ちてきました。光はルノの家の庭にある大きな柿の木にぶつかり、ぽとんと草むらに転がり落ちました。
「隕石……!?」 ルノは懐中電灯を手に、あわてて庭へ飛び出しました。草を分けて覗き込むと、そこにあったのは石ではありませんでした。 「ピピッ……通信復旧。はじめまして、地球の人間さん」 それは、羽が七色の星雲のようにピカピカと光る、てのひらサイズのフクロウ型のメカでした。
「ぼくはナビィ。宇宙の知識がすべて集まる『銀河図書館』の図書委員だよ。たいへんなことが起きたんだ!」 ナビィの胸のスクリーンに、真っ暗な宇宙の映像が映し出されました。 「宇宙ゴミを集めてイタズラをする『ダスト男爵』が、全宇宙の星の情報が書かれた『銀河図鑑』のページを破り持って逃げちゃったんだ。ページがなくなると、そこに書かれた星は光を失って消えてしまう。お願い、図鑑のページを取り戻すのを手伝って!」
ルノの胸が、ドキンと大きく跳ね上がりました。 「ぼくが、宇宙へ……? 行く、行くよ! 星を助けよう!」
二、土星のリングで大レース
ナビィが合図を出すと、まぶしい光とともに小さなラグビーボール型の宇宙船が現れました。ルノとナビィが乗り込むと、宇宙船はあっという間に地球を飛び出し、静かな宇宙の海へと乗り出しました。
「最初のページは、あそこだ!」 ナビィが指さした先には、大きなしま模様の星――土星がありました。そのまわりには、巨大な氷と岩の輪っかがキラキラと輝いています。
氷の輪の上に降り立つと、そこには氷の結晶に挟まって、パタパタとなびく図鑑の1ページ目がありました。 しかし、そこへゴロゴロと不気味な音が響きます。宇宙ゴミでできた巨大なハサミを持つロボットが現れました。ダスト男爵の手下です!
「ヘッヘッヘ、ページは渡さないぞ!」 「ルノ、氷の上に足をとられないで!」 ルノはとっさに宇宙船に積んであった「宇宙ソリ」に飛び乗りました。 「氷の滑り台なら、スケートと同じだ!」 ルノはソリを巧みにあやつり、土星のリングの上をハイスピードで滑り降ります。襲いかかってくるハサミロボットの攻撃をすれすれでかわすと、一気にジャンプ! 空中で手を伸ばし、見事に最初のページをキャッチしました。
「やったぞ!」 ルノがページを掲げると、土星のリングが一層つよく、美しく輝き始めました。
三、木星の大嵐を突破せよ
「次はあの星だ。太陽系で一番大きな木星!」 宇宙船は木星に近づいていきます。木星の表面には、まるで巨大な目玉のような、赤くて大きな渦模様が見えました。「大赤斑(だいせきはん)」と呼ばれる、何百年も吹き荒れている超巨大な嵐です。
「次のページは、あの大嵐の真ん中に吸い込まれちゃったんだ……」ナビィが心配そうにつぶやきます。 さらに悪いことに、うしろからゴミでできた黒い宇宙船が追いかけてきました。ダスト男爵本人の登場です!
「フハハハ! ページはわが輩のものだ。嵐の中に消えてしまえ!」 ダスト男爵の船がビームを撃ち込んできます。ルノたちの宇宙船はバランスを崩し、大赤斑の猛烈な嵐の中へと巻き込まれてしまいました。
「うわあああ! 船が吹き飛ばされる!」 「ルノ、落ち着いて! 木星の強い重力を利用するんだ!」 ルノは学校の理科や図鑑で読んだことを思い出しました。 (そうだ、重力を使えば、振り子みたいに加速して抜け出せる!)
ルノは操縦桿を強く握りしめました。 「ナビィ、木星のギリギリまで近づいて、ぐるっと回って飛び出すよ!」 宇宙船は木星の凄まじい重力にひっぱられながら急降下し、嵐の渦を勢いよく旋回しました。まるで巨大なパチンコから放たれた石のように、宇宙船は一気に嵐のエネルギーを借りてスピードアップ!
嵐の真ん中に浮いていた2枚目のページを通りざまに奪い取ると、追いかけてきたダスト男爵の船を置き去りにして、嵐の外へと飛び出しました。
四、ブラックホールのひみつ
「残るページはあと1枚……でも、あそこは……」 ナビィの声が震えています。宇宙船のモニターに映ったのは、なにも見えない真っ暗な「穴」――ブラックホールでした。あまりの重力の強さに、光さえも逃げ出せない宇宙の底です。
ブラックホールのすぐそばに、ダスト男爵の要塞が浮かんでいました。 「フハハ、もう遅い! 最後のページをこのブラックホールに投げ込んで、宇宙の星の記憶をぜんぶ消してやる!」 ダスト男爵が最後のページを手に、ニヤリと笑いました。
「そんなこと、絶対にさせない!」 ルノは宇宙船の外へ飛び出しました。宇宙服の背中にある噴射ノズルを使い、無重力の世界をダスト男爵に向かって突き進みます。
「来ても無駄だ、お前も吸い込まれるぞ!」 ダスト男爵がページをブラックホールへ投げ捨てました。ページは吸い寄せられるように、真っ暗な穴へと落ちていきます。
「届いて……ぼくの星への思い!」 ルノは恐怖を振り払い、足の噴射を思い切り強めました。吸い込まれるギリギリのところで、ルノの手がページの端をつかみました。
「捕まえた!」 ルノはポケットから、土星で拾った「一番硬い氷の結晶」を取り出すと、ダスト男爵のメカの関節に向かって思い切り投げつけました。カキン! と音がして氷がはまり込み、ダスト男爵の船は動かなくなってしまいました。
「ナビィ、今だ! 牽引光線でひっぱって!」 「了解!」 ナビィの宇宙船から放たれた光のロープがルノを捉え、ブラックホールの強力な引きつける力から間一髪で救い出しました。

五、また会う日まで
ルノは集めた3枚のページを、ナビィが差し出した大きな『銀河図鑑』に重ねました。 すると――。
ジーーーン……! 図鑑から、黄金色のまばゆい光が溢れ出しました。光は波のように宇宙全体へ広がっていきます。 消えかかっていた小さな星たちが一斉に輝き出し、暗かった宇宙がまるで宝石箱をひっくり返したような美しさで満たされました。
ダスト男爵の集めていた宇宙ゴミも、光を浴びてキラキラと輝く星くずの砂へと姿を変えていきます。 「うわあ……キレイだなぁ……」ダスト男爵も思わず見とれて、イタズラをするのを忘れてしまいました。
「ありがとう、ルノ! 君の勇気と知恵のおかげで、宇宙の星たちが救われたよ」 ナビィがルノの肩に止まり、うれしそうに羽を羽ばたかせました。
「ルノ、そろそろ朝が来る。地球へ帰ろう」
六、エピローグ
「ルノ、起きてー! 朝ごはんよー!」 お母さんの呼ぶ声で、ルノは目を覚ましました。 気がつくと、ルノは自分の部屋のベッドの上にいました。窓からは、やわらかな朝の光が差し込んでいます。
「……あれ? 夢だったのかな……?」 ルノはぼんやりと頭をかきながら、ベランダの望遠鏡を見つめました。
そのとき、パジャマのポケットに何か固いものが入っているのに気づきました。 取り出してみると、それは手のひらで青く輝く、小さな小さな「氷のような結晶」でした。冷たくないのに、まるで星のようにやさしく光っています。
ルノは結晶をぎゅっと握りしめ、青空に向かってニッコリと笑いました。 「ナビィ、ぼく、もっともっと宇宙のこと、勉強するよ。またいつか、銀河図書館で会おうね!」
(おわり)