音楽の国「メロディア」には、空高くそびえる不思議な「七段の階段」がありました。下から「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」と名付けられたその階段は、一番下の「ド」から順番に踏んで駆け上がると、最後にまばゆい光が溢れ、世界に新しい朝を連れてくるという伝説がありました。

ある晩のことです。一番高い場所にいる「シ」の精が、ふいになみだをこぼしました。
「私は、一番端っこで、なんだか中途半端な音。どっしり構えた『ド』のようにみんなを支えることもできないし、『ソ』のように明るく響くこともできない。私なんて、いなくてもいいんじゃないかしら」
 そうつぶやくと、「シ」の精は階段を降り、夜の森の奥深くへ隠れてしまいました。

翌朝、メロディアの住人たちが階段を登ろうとすると、大変なことが起こりました。
「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ……」
 そこまで行くと、次の段が消えていたのです。「シ」がいないので、どうしても一番上の「ド」へ飛び移ることができません。
 メロディはプツリと途切れ、空はどんよりとした灰色のまま。世界から活気が失われてしまいました。

困り果てた「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」の精たちは、森へ「シ」を探しに行きました。ようやく見つけた「シ」は、切り株に座って、うつむいていました。
「戻ってきておくれ。「シ」ちゃんがいないと朝が来ないんだ」
「ド」の精が呼びかけますが、「シ」は首を振ります。
「私がいなくても、あなたたちが立派に鳴ればいいじゃない」

そこで「ド」の精は、仲間たちに合図を送りました。
「いいかい、僕たちはバラバラに鳴るだけじゃないんだ。力を合わせてみよう」

まず、「ド」がどっしりと力強く歌い始めました。
 次に、「ミ」が明るく柔らかな声を重ねました。
 最後に、「ソ」がキラキラと輝くような声を響かせました。

「ドー、ミー、ソー――」

三つの音が重なった瞬間、森の中に、一人では決して出せない、ふくよかで温かい「和音(ハーモニー)」が生まれました。その響きは、まるで「シ」を優しく抱きしめるような安心感に満ちていました。

「聞いて「シ」ちゃん、僕たちがこうして支え合って安心を作れるのは、君が『次へ進もう』という勇気をくれるからなんだよ。君の音は、僕たちの安心を、新しい未来の『ド』へと繋げる特別な鍵なんだ」

「シ」の精は、その美しい和音の中に自分の居場所を見つけました。
「私の音は、みんなを繋ぐための音だったのね……」



「シ」が階段に戻り、精いっぱいの声で鳴り響きました。
 「ラ」から「シ」へ、そして「シ」から一番高い「ド」へ。
 音がスムーズに繋がった瞬間、階段は七色の虹のように輝き、世界には今までで一番まばゆい、黄金色の朝が訪れたのでした。

 

(おしまい)