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 http://youtu.be/01iXE4Ic_vs
  
 陸奥の  しのぶもぢすり  たれゆえに

     乱れそめにし  われならなくに    


『陽成院の歌が、「叶う恋」であり、結婚の成立したおめでたい恋の歌なら、この河原左大臣の歌は、「しのぶ恋」、叶わぬ恋、秘めた恋心がテーマの歌です。』


『まず「陸奥」というのは、いまの東北地方です。
「しのぶもぢずり」は、その東北地方のなかの、福島市あたりのことを、昔は信夫(しのぶ)地方と呼ばれ、その信夫地方の特産品が、乱れ模様に染めあげた「信夫摺り(しのぶずり)」と呼ばれる染め物だったのです。
その見事な「乱れ模様」に、「忍ぶ想い」を掛けています。

「誰ゆえに」は、単純に「誰のせいで?」という意味です。

そして下の句は、「乱れそめにし われならなくに」です。
「乱れそめにし」の「そめ」は、信夫摺りの染め物の「染め」と、はじめてのという意味の「初め」の二つの意味に掛けられています。
「われならなくに」は、「私のせいでは無く、あなたのせいですよ」といった意味になります。

ですので、通解すれば、
「陸奥の国の信夫摺り染め物の模様のように、私の心が乱れ初めたのは、私のせいでは無く、あなたのせいですよ」です。

「信夫(しのぶ)摺り」の染め物の乱れ模様のように千々に乱れる恋心。
それはあなたのせいだ、というのです。

実はこの歌には、元歌があって、それが在原業平(ありわらのなりひら)の
 春日野の 若紫の 摺り衣
 しのぶの乱れ 限り知られず

です。業平(なりひら)のこの歌は「伊勢物語」の最初の段に出てくる歌です。
元服直後の若い男性が、奈良の春日で偶然に出会った若くて美しい姉妹に、思わず着ていた信夫摺りの狩衣(かりぎぬ)の裾を切り、そこにこの歌をとっさに書いて贈ったというのです。

この業平の物語の恋も、実らぬ恋がテーマです。

このように実らないとわかっていながら、つのる思いが、「しのぶ恋」です。

世の中には、陽成院のように、明るくさわやかに、しかも直球勝負で見事に結ばれる恋もあれば、つのる想いを誰にも打ち明けられず、結ばれぬ恋もたくさんあります。
天皇の皇子であり、役職は左大臣という、高い身分にあっても実らぬ恋、しのぶ恋というのですから、やはりここでも、権力にものをいわせて、女性を我が物にするような非道とは、全然異なる世界が象徴されています。』


『つまり、何をいいたいかというと、女性から見たら、おそらくこれ以上はないという良縁であり、しかも一夫一婦制ではなかった時代であり、養う財力があれば、ある程度複数の女性を妻にできた時代にあり、それだけの財力、資力、権力があって、しかもこの上ない家柄で、最高のDNAを持った男性であっても、「しのぶ恋」、「実らぬ恋」に身を焦がした、ということです。

しかもこの源融、のちには、侍従、右衛門督、大納言などを歴任しています。まさに超のつく大物です。
なんでも手に入れることができそうな大物さんです。
それでも、しのぶ恋に心乱れることがある。

前の段にも書きましたが、それだけの権力者であっても、思いを遂げられないということは、古来日本では、女性の気持ちがとても大切にされてきたということですし、それは、女性が「人として」たいせつにされてきたということでもあります。

男女の仲というのは、不思議なものです。
晴れて実る恋もあれば、道ならぬ恋に心が乱れることもあります。
そして不思議なことに、そうした道ならぬ恋、不実な恋、しのぶ恋の方が、心を強く乱したりします。』


http://app.f.m-cocolog.jp/t/typecast/1960883/1969016/93152856






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