彼の名は「賢者」(サヴァン)

正確にはその呼び名も通称…本名は全く以って不詳…

私が初めて彼と出会ったのは…ある春の日の黄昏…

寂れた郊外の公園だった…


今晩和(ボンソワール) マドモワゼル

そんな浮かない顔をして何事かお悩みかな?

先程から君がその噴水の周りを廻った回数は11回…

歩数にして凡そ704歩…距離にして実に337メートル…

愚かな提案があるのだがどうだろう

私で良ければ君の話相手になりたい


まずは誰もいない → 其れが零(ぜろ)だ

其処に私(モア)が現れた → 其れが壱(アン)だ

そして君(トワ)が現れた → 其れが弐(ドゥー)だ

単純な数式(しき)にこそ ← 真理が宿る


そんな容易な事にさえ自らを閉ざして

気付けない時もあるのだ…


やぁ(サリュー)御機嫌よう(マドモワゼル)

先日の悩み事に対する回答は出たのかな?

君と別れてから今日で丁度1週間…時間にして168時間…

分にして10080分…秒にして604800秒…と言ってる間にも

23秒が過ぎてしまった…今日も君の話相手になりたい


朝と夜との地平線(オリゾン) → 其れは弐(ドゥー)だ

時の王(ロア)が眠る墓所 → 其れは参(トロワ)だ

煌く永遠(とわ)の星屑 → 其れは伍(サンク)だ

単純な素数(かず)にさえ ← 真理は宿る


どんな容易な事にさえ自らを閉ざして

気付けない事もあるのだ…


君の哀しみを因数分解(ばら)してみようか?

幸福(しあわせ)の最大公約数(かず)を求めてみようか?

涙を拭って…さあ…お立ちなさい

君の途はまだ続くのだから…


なるほど(アンエッフェ)

産むべきか ←→ 産まざるべきか…

其れが最大の…謂わば問題だ…


歓びの朝も哀しみの夜も 全ては君の物

未だ見ぬ者へ繋がる歌物語(ものがたり)詩を灯す物語(ロマン)


風車が廻り続ける度に 美しき幻想は静かに紡がれ

焔の揺らめきの外に 腕を伸ばす愚かな者達は

宝石をより多く掴もうと 朝と夜の狭間を彷徨い続ける

星屑の砂の煌きにも 葡萄酒は仄甘い陶酔(ゆめ)を魅せ

賢者が忌避する檻の中から 伝言の真意を彼等に問うだろう

天使が別れを告げし時 地平線は第五の物語を識る

(ロマン…)

繰り返される歴史は 死と喪失、楽園と奈落を廻り

少年が去った後 其処にどんなロマンを描くのだろうか

傷付くことが恐いかね?喪う事が恐いかね?信じる事が恐いかね?

だからこそ私はそんな君の話相手になりたい


君が来た朝を後悔するなら 更なる痛みを産むべきではない

君が行く夜を肯定するなら その子もまた人生(せい)を愛すだろう


お嬢さん(クロエ)

君の哀しみを因数分解(ばら)してみようか?

幸福(しあわせ)の最大公約数(かず)を求めてみようか?

埃を払って…さあ…お発ちなさい

君の旅はまだ続くのだから


さようなら(オルヴォワール)マドモワゼル

もう心は決まったようだね?

ならば、さぁ…胸を張ってお行きなさい

君は、君の地平線を目指して…


(メルスィー…ムッシュ サヴァン…)


(捜したぞ…クリストファー…)