あんまりタイトルのグレートデンは関係ないのだが・・・・

遺伝とはナンだろうか?
かのウィキペディアによれば、生殖によって親から子へと形質が伝わるという現象とある。
すべての遺伝の基本は1886年に発表されたメンデルの法則によって判明された。両親から一つずつ受け継いだ1対1組の遺伝子から成り立っている。

1対の遺伝子が入る一つの遺伝子座に二つの対立する遺伝子がある場合、現れるのは1対のうち片方の遺伝子であることがある。その形質が現れた方の遺伝子型を「優性」現れなかったほうを「劣性」と呼ぶ。

通常、優性を「A」劣性を「a」と表現する。
この組み合わせから「AA」「Aa」「aa」の3通りが考えられ、「AA」と「Aa]は優性形質が現れ、「aa」は劣性形質が現れる。これを優劣の法則というのは学生の理科の授業で習ったと思う。

その当時、私はブリーダーになろうなんて思ってなかったから理科の教本に何でえんどう豆の絵が描かれているのか分からなかった。興味なかったし、いたずら書きして本はボロボロだった。
しかし生き物を扱っていると、自ずと遺伝、メンデルの法則は必要になってくる。
私は遅ればせながら学生を卒業してから勉強したものだ。

さて、AAの父親とaaの母親の間に生まれた子供の場合を考えてみよう。
遺伝子は両親から一つずつ受け継ぐんだったよね?だから生まれる子供はすべて優性遺伝子と劣性遺伝子と劣性遺伝子のヘテロ接合型Aaを持つことになる。これを一代(F1)とする。
このF1同士を交配させた場合どうなるか?
今度はAaとAaの組み合わせになるから二代目(F2)の遺伝子型はAA,Aa、aaが1対2対1の比率で分かれることになる。AAとAaはこの場合でも優性形質型だが、ここで現れたaaは劣性の形質の遺伝形質が現れることになる。親の持つ遺伝子座の二つの遺伝子が性格に配分されることを「分離の法則」という。

優性、劣性遺伝子の形質がどうやって現れるか解っただろうか?簡単に下図に書き記すので参考まで。


AA(♂)-aa(♀)
   ↓
    Aa(♂)- Aa(♀)
     ↓
AA(♀)Aa(♂)Aa(♀)     aa(♂)
↑-------------------↑
    (優性遺伝形質)      (劣性遺伝形質)

遺伝子型AAとaaの組み合わせからAaの子のみが生まれる。Aa同士の組み合わせでではAA,Aa、aaの遺伝子型の子が1:2:1で生まれる。Aが優性、aが劣性の場合、生き物の特徴として現れる優性形質と劣性形質の出現する比は3:1になる。劣性形質は親が共に持っていない場合でも子供に見られることもある。



さて、遺伝とくれば遺伝病は外せない。
遺伝病には新生児に見られる先天的奇形と出生時には以上が認められず、成長と共に異常がはっきりとしてくる後天的奇形がある。先天的奇形は必ずしも遺伝によるものばかりではない。例えばチェルノブイリ然り、ストレス然り。。。

遺伝病の多くは劣性遺伝子によるものである。数は少ないが、中には優性遺伝する病気もあるにはある。
優性、劣性というと、優劣、つまり優秀か劣っているかと間違う人もいるが、遺伝子用語の場合は遺伝子の表現の現れ方の強さを意味しているのだ。また劣性遺伝イコール遺伝病でもない。

純血種に見られる遺伝病は原因がハッキリしてないが遺伝が病気の素因と考えられているものとがあるからどっちも相当な数になる。先天性白内障、口蓋裂、PRA(進行性網膜萎縮症)、水頭症、HD(股関節形成不全)などはその代表的な疾患の一つであろう。

犬種によって疾患に偏りがあるのも特徴である。
純血種は様々な遺伝病があり、それを無視した繁殖は生まれた子犬やその飼い主たちを苦しめることになる。我々ブリーダーの仕事は犬を繁殖することに他ならない。しかし根底にあるものは、自分が繁殖した犬を苦労と引き換えにお金で納得し譲渡したときから相手は商品からペット、家族、伴侶となるわけで、楽しむために飼うわけで、わざわざ悲しむため、苦しむために散財したのではないということだ。
どんな弱小ブリーダーでも、ショーで勝ちあがれないブリーダーでも、その信念だけは曲げずに頑張ってほしいと思う。最後は真面目に頑張った者が笑うのだ。



さて、何故純血種には遺伝病が多いのだろうか?
人間や野生動物では生殖する相手は自分で選ぶ自由恋愛が原則であるが、純血種の繁殖は人為的に行ったものだからである。生物界から見て犬という生き物は実におかしな生き物集団で、純血種として固定されるまで長い近親交配の年月を経て今に至るわけだ。劣性遺伝形質が出やすい不自然なカテゴリーの生き物であることは間違いない。


犬の遺伝子を考えるとき・・・そんなことはないか。繁殖を考えるとき、特に注意するべき点は色素の問題である。幸いにして私の主とする犬種はグレートデンであり、フォーン、ブリンドル、ブラック、ハルクイン、ボストン(マントル)ブルーぐらいしかないので、組み合わせさえ間違えなければ特に大きな問題が出ることはまずない。

しかし、犬種によっては昨今のレアカラーブームにより、様々なカラーが工場のように製造され、病気の一途を辿る不幸な犬も絶たない。色素の異常は身体の様々な部分に弊害を及ぼす。
原因はメラノサイト(メラニン合成細胞)という細胞によるものだが、特に耳と目に大きく関与している。だからアルビノやマール遺伝子を持った犬は難聴や盲目の個体が多い。メラノサイトが決失することで失明、難聴がおこるのだ。

マールやダップルの危険性について考えてみよう。
薄い毛色やマール系、ダップル系などの珍しい毛色の犬を交配させる時には特に注意が必要である。
薄い毛色は異常な遺伝子の関連する場合が多いからで、それらの犬を何でもかんでも繁殖に使うと本来隠れてるはずの劣性の遺伝子に関わる異常な子犬が産まれる危険性が高くなるからである。
遺伝病はすぐにその系列の血統に瞬く間に広がってしまうところが恐ろしいのである。

さて、グレートデンにも時折見られるブルーマールについて考えてみよう。
確か2007年だったと思う、そのメカニズムが発表された。マウスの毛の色を希釈する「シルブ」という遺伝子があり、犬も同じような遺伝子を持っているのだという。
シルブ遺伝子の一部には他の遺伝子が一部入ることによってシルブ遺伝子の機能を狂わせて、結果マールが起こるという。

マール遺伝子を持った個体と正常な個体との組み合わせでブルーマールが、マール同士でダブルマールが生まれる可能性がある。そしてダブルマールの場合、難聴や失明といった疾患が出てしまう可能性が極めて高くなるわけである。ダップルも同じようなメカニズムと考えられている。
知識も経験もあるからそのような疾患を出さない!と豪語するブリーダーはいるだろう。
しかし相手は手作りの焼き物や染物ではない。賭けをして出た色が気に入らなかったから割ったり破ったりして廃棄するようなものではない。命を持った動物なのだ。
私はどんなに病気を発症させないレアカラー作りのブリーダーであっても尊敬はしない。
危険と知っていて敢えてする行為は命のお遊びであると私は思っている。
町で見かけるレアカラーの犬たち。これら犬や飼い主には罪はないと思う。罪を背負うのはそれが売れるからと繁殖させたブリーダーである。


ブルーマールMm(♂)-ブルーマールMm(♀)
          ↓
ダブルマールMM(♂)ブルーマールMm(♂♀) 通常の毛色(♀)

マールの遺伝子を一つ持つとブルーマールになる。
マール遺伝子を二つ持つ場合はダブルマールとなり、耳や目に疾患を持って生まれることがある。ブルーマール同士の交配はダブルマールが25%の比率で生まれることがあり、通常真面目なブリーダーはリスクを背負ってまでブリードしない。




遺伝的に悪いところばかり話すと純血種は不健康というイメージがつきそうだが、親子、兄妹の極めて濃い血縁関係を約20代繰り返すと遺伝的均一な集団になる。しかしその過程では多くの劣性遺伝形質が生まれるのは言うまでもないが、飽くまで繁殖のテクニックということで言っただけで、やろうとか、お勧めしますとかいったことではない。

遺伝病を減らす、または根絶させる方法は、発症した犬、キャリアが判明してる犬をどんなに構成が良くとも、キャラクターが良くとも繁殖に用いないことである。
ボーダーコリーはCL(セロイドリポフスチン症)という劣性遺伝の病気があるが、オーストラリアのブリードクラブでは情報をインターネット上に公開してその遺伝子を蔓延させないよう尽力を尽くしている。


私もかつてアメリカで数百万円をはたいて輸入したメスのハルクインはとても素晴らしい犬だったが、反応の悪さに病院に行ったところ、難聴であることが発覚した。
あなたならどうするか?大枚はたいて購入したのだからリスクを背負って繁殖させるか?それとも留まるか?

私は後者を選択した。それがファンシャーというものであり、その犬種に魅せられた者の責任、宿命であると思っている。

しかし自分の愛する犬種だけが健全であっても仕方ないことである。全ての犬種が健全で家族に愛されることを願って止まない。