あるとき、
私と妹を前に
「将来 あなたたちが女の子を産んだなら、
みんなで魔女になる練習を始めようと思う」
と、母が言ったのです。


たびたび登場する 我が母ですが
その発言を こうして文書化すると
なかなかパンチが効いています。
我々にとっては いつものことなので
「エッ!魔女の練習!?楽しみ!」
なのですが
友達に話すと
「アンタのうち、変わってるね」
と言われてしまう。
まぁ 確かに、 変ですね。

母の野望は
揃いの黒いワンピースに
黒い三角帽子をあつらえ、
揃いの箒を作り、
土手を走りおり
空を飛ぶ練習をしたいというもの。
自分、娘たち、孫たち そろって
暗くなってから
(そこは やはり恥ずかしいらしい)
土手へ行き、箒にまたがり
空を飛ぶ練習をしたいのだそうです。
「箒なんて作れるの?」と聞けば
「できるわよ!材料さえ そろえば」と
多少の不安要素を残しつつ
ポジティブなことを言うのです。

昔から こんなドリーミングな人なので
魔女の宅急便を観たときには
「私が求めていたのは これだ~‼」と
心底 喜んでいたのでした。


母の野望は 叶っていません。
うまれた孫は 男の子で
「魔法使いにならないかい?」と
勧誘してみましたが
「YouTuberになる」そうです。

今や ばぁばとなった母ですが
歳を重ねるごとに カンが冴え、
「あ、電話がくるよ」と
着信音が鳴る前に気付いてしまう、
些細な気配に敏感に。
そんな母を見て、
夫である私の父は
「魔女力 ついてきたねぇ」と
ニコニコ 褒めており
なんだか それなりに 幸せそうなので
魔女には  なれませんでしたが
これはこれで良しということで
大団円を迎えました。


9月に入り、もう あちらこちらに
ハロウィンの飾りが並んでいます。
もしもハロウィンに仮装するのなら
絶対に魔女になろうと決めている私たち。
その時なら
紛れてしまえば 大丈夫。

野望は いまなお
奥底で 燻っているのです。