今だって そう、
手紙を書くことが好きだ。
仕事でお世話になった方や お客さま、
友人、離れた場所に住む家族、
夫の仕事に関係してくださる方々。
お元気ですか?と尋ねる手紙から
ありがとうのお礼状、
おめでとうのお祝いのカードまで
一年を通して
いったい何通くらいになるのだろう。

メールするより、電話するより、
断然 手紙派。
便箋やハガキや、切手にもこだわっている。
流行も季節感も 取り入れてみる。
相手が気付いてくれなくても良い。
私の方が
目一杯 楽しんでいるから それでいいのだ。
最近では
きれいな字で書けたなら
なお 良いことじゃないかと
字の練習も始めている。


学生の頃、
親友が恋をした。
想いは つのるばかり。
どうにか想いが届けばいいのにと
私にできることは応援するくらいのこと。
ある日、親友は
ラブレターを渡したいの と
心をきめた。
しかし、その手紙を
私に書いてほしいと言うではないか。
作文が得意で、いつもなにかしら
書いていたからだろうか。
彼女から
可愛らしいレターセットが手渡された。
私はいちばん近くで
今までの彼女の努力を知っている。
それなりに仕掛けてはいるものの
どこまでいっても平行線で。
奥手な私たちは
既に 万策つきて
この手紙にかけるしかなかったのだ。

一矢報いる、ラブレターである。
私がゴーストライター。
正当な手段ではないけれど
私はこの依頼を受けることにした。
親友がどんなに彼のことを好きでいるのか、
彼への深い想いを巡らせる。
私は 彼女になりきって ラブレターを書いた。


そして
親友に恋人ができた。
ラブレターは無事に彼に渡すことができて
彼女の想いは
彼に届いたのだった。
幸せな親友の笑顔が
今も忘れられない。

それから 数日後。
どこから聞きつけたのか
私に また依頼がやってきた。
ラブレターを代筆してほしいの、という。
親友の恋の成就も縁起よく、
私が書けば きっと恋が叶うと
依頼してきたようだった。
私は 彼女達の恋の話を聞きながら
何通ものラブレターを書くこととなる。
ゴーストライターの報酬は
彼女達の手作りお菓子で
彼へのプレゼントの練習もかねていた。

まるで擬似恋愛。
私自身は、好きな人に
一度も
ラブレターを書いたことはなかったのに。
何組か、カップルができた。
恋愛成就の神通力があるような
秘密の
ゴーストライターはいっそう多忙になった。

それから 1年後。
私は いよいよ
私として ラブレターを書くこととなる。
1週間もかけて 書いた手紙は
便箋 五枚分にもなり
いかにあなたを好きでいるのか
壮大な物語を語り尽くす
分厚い手紙になってしまった。

当然、フラれた。
ゴーストライターの神通力は
本人には およぶことなく、
ただただ 恥ずかしいだけの
熱すぎる想いの ラブレターが
あの人の手元に渡ってしまったという現実。
自分のこととなると
バランスがつかめず、暴走してしまった。



今だってそう、
手紙を書くことが好きだ。

手書きの手紙でしか
載せられない想いを、
手書きの手紙にしか
届けられない想いが、
きっと あるのだと
そう 信じているのです。