【日本学術会議任命拒否・日本版台湾関係法・日本のファイブアイズ加盟・日本への中距離ミサイル配備について】


[2019年8月、アメリカが実施した地上発射型中距離ミサイル発射実験]


1. 菅政権による日本学術会議任命拒否と日本の軍国化

菅政権は、日本学術会議が推薦した新会員のうち6名の任命を拒否しました。

この点に関し、日本のメディアやコメンテーター、野党政治家は、憲法が保障する学問の自由の侵害の問題ととらえているようです。

しかしながら、任命拒否は、単に学問の自由に対する侵害としてだけでなく、より大きな流れの中でとらえる必要があります。

任命を拒否された6名は、いずれも「安全保障関連法に反対する学者の会」の呼び掛け人や賛同者のみなさんです。[1]

そのため、今回の任命拒否は、安倍政権下で強行的に成立された安保法制、特定秘密保護法(スパイ防止法)、共謀罪法、さらに、安倍・菅政権で進められている憲法改定という一連の流れの中でとらえられるべきです。

言い換えますと、今回の任命拒否は、日本を対外的に軍事力を行使する国にさせる、さらに、日本を中国との軍事紛争に向かわせるという中長期的なアメリカの戦略の下で起こるべくして起こった事件といえます。[2]


[アメリカのポンペオ国務長官と日本の菅首相]

菅首相は、異例なことに官房長官当時の2019年5月に訪米し、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官と会談しています。ペンス副大統領は各国の首脳級とのみ会談するとされており、この当時から安倍の次は菅というのがアメリカの規定路線だったと思われます。


[2019年5月、訪米した菅官房長官とペンス副大統領との会談]

アメリカは菅首相の官僚統制能力を高く評価しており、今回、菅首相は、官僚に続き、学者の統制に乗り出したと考えられます。

任命拒否の目的は、日本の軍国化に反対する学者の排除です。平和主義の学者が排除されれば、国民は好戦派の学者の言うことを聞くしかないことになります。今後、好戦派の学者たちは、中国に対抗する外交の推進、対外的軍事力行使の必要性、そして軍事力の増強を説くことになるでしょう。

かつて日本が戦争にのめり込んで行く過程において、1933年、文部大臣は京都大学法学部教授瀧川幸辰の刑法学説をマルクス主義的であるとして休職処分を発令、著書を発禁にしました(滝川事件)。

また、1935年、それまで通説的学説であった天皇機関説の代表的学者である美濃部達吉の著書が発売禁止処分とされ、天皇機関説の教授も禁止されました(天皇機関説事件)。今回の任命拒否は、軍国化と思想統制につながるという点において、これらの事件に比すべきものと思われます。


2. 日本版台湾関係法と日本のファイブ・アイズ加盟

アメリカは、すでに台湾の安全保障にアメリカが責任を持つとする台湾関係法を成立させています。間もなく日本の好戦派の学者たちは、中国に対抗する外交として日本版台湾関係法の必要性を主張するようになるでしょう。

菅内閣の防衛大臣は安倍前首相の弟の岸信夫です。岸信夫は台湾との関係強化を目指す超党派議員連盟「日華議員懇談会」の幹事長を務めており、台湾と日本の安全保障面での協力を推進する政界有数の親台湾派です。[3]

このため、今後、防衛省が主導して、日本が台湾の安全保障に責任を持つとする日本版台湾関係法が内閣提出法案として国会に提出されるものと思われます。


[台湾の蔡英文総統が総統選挙で再選された際に、祝意を伝えるため訪台した岸信夫と蔡英文総統]

仮に台湾関係法が成立すれば、安保法制とセットで運用されることになります。すなわち、安保法制で抽象的に定められていた集団的自衛権行使の具体的内容として台湾防衛が位置付けられ、憲法違反の集団的自衛権が実際に行使される危険性が非常に高まることになります。


そして、好戦派の学者たちは、日本がファイブ・アイズに加盟することを主張するでしょう。

ファイブ・アイズとは、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによって構成される信号情報(SIGINT)収集のための協力体制のことです。電話や通信、インターネットでやり取りされる情報を盗聴し、収集します。

イギリス・アメリカが日本をファイブ・アイズに加盟させる目的は2つあります。ひとつは、日本を中国に対する情報収集体制に組み込むことです。

もうひとつは、日本政府、とくに首相や防衛大臣など政府中枢に虚偽の情報を伝え、日本を対中軍事紛争に参戦させることです。

かつて、第2次大戦中、イギリス情報部は、アメリカを対独参戦させるため、偽の地図を作成しました。地図には、ドイツが南アメリカ全土を占領した後、南アメリカ合衆国を建国し、各地を航空路線で結ぶ計画が示されていました。

地図を見せられたアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領は、ドイツが南アメリカへ侵攻する計画を持っていると信じ込み、対独参戦に大きく傾きました。[4]


[Luftverkehrsnetz der Vereinigten Staaten von Südamerika Hauptstrecken (Air transport network of the United States of South America main lines)
イギリス情報部が作成した偽の地図:
ドイツによる占領後建国される南アメリカ合衆国の各地を結ぶ主要航空路線図]

日本には、ファイブ・アイズから提供された情報の真偽を検証する能力がありません。首相や防衛大臣は、提供された情報を鵜呑みにするしかありません。


3. 日本への中距離ミサイル配備と台湾危機

また、アメリカは、かねてより日本への中距離ミサイル配備を計画しています。好戦派の学者たちは、中国の軍事的脅威に対抗するため、日本に中距離ミサイルを配備することを主張するでしょう。

日本政府はアメリカの要請を受け入れ、日本に中距離ミサイルが配備されることになります。


[2019年8月、アメリカが実施した地上発射型中距離ミサイル発射実験]


その上で、仮に台湾が独立宣言を行い、台湾危機が生ずれば、中国と台湾・アメリカの間で軍事衝突が発生します。さらに、日本版台湾関係法と集団的自衛権の適用により日本も中国への攻撃に参加することになります。
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その場合、日本に配備された中距離ミサイルが中国への攻撃に使われます。


[九州・琉球列島・奄美諸島から中国本土に対する中距離弾道ミサイル攻撃(出典: Tightening The Chain)]


これに対し、中国は反撃を行います。日本は戦場となり、日本は中国の容赦ないミサイル攻撃にさらされることになるでしょう。

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[中国の移動式中距離弾道ミサイル「東風21」]


ちなみに、台湾危機が生じても、アメリカ・イギリスは遠距離から海上封鎖を行うのみでしょう。東アジアでは、実質的に日本だけが中国と戦うことになります。

また、同時にインドが国境地帯で中国と交戦するでしょう。

アメリカ・イギリスは、情報提供と海上封鎖のみを行い、実質的には、日本とインドが中国と戦うことになります。

かつて第2次大戦で、イギリス・アメリカが西ヨーロッパへの上陸作戦を出来るだけ遅らせ、ドイツとソ連を死力を尽くして戦わせたのと同様の手法がとられることになるわけです。


4. 自由と権利のための闘いについて

日本国民のみなさんは、誰かに従うことによって安寧を得るのでなく、闘うことによって自由と権利を獲得する必要があります。

自由や権利は憲法に書いてあるから保障されるものではありません。自由や権利は不断に闘うことによって得られるものです。

日本の民主勢力は、任命拒否問題を契機に反転攻勢に出るべきです。日本の民主勢力は、任命拒否問題を起点に反転攻勢に出るべきです。


[「安全保障関連法に反対する学者の会」のみなさんによる任命拒否に対する抗議の記者会見]

具体的には、以下のような行動が考えられます。


【日本学術会議任命拒否問題に関する提言】

日本学術会議は任命拒否された6名を正式の会員として扱うべきです。
日本学術会議は6名の論文を学術会議の冊子に載せ、6名を会議の共同研究に参加させるべきです。
日本学術会議は学術会議会員や一般市民から寄付を集め、6名に会員同様の資金を提供するべきです。
日本学術会議は6名を幹事会特別役員に選出するべきです。
日本学術会議は学問の自由に関する答申・報告を政府に提出するべきです。
日本学術会議は学問の自由に関するイベントを開催するべきです。
日本学術会議は6名の地位確認を求め憲法訴訟を提起するべきです。
日本学術会議は海外の学術機関と連携して学問の自由に関する声明を発表するべきです。
地方議会は6名を支持する決議を行うべきです。
地方首長は6名を支持するべきです。
公立私立を問わず各大学は6名を支持するべきです。
労働組合団体、市民団体は6名を支持するべきです。
一般市民はSNSで6名を支持するべきです。


日本国民のみなさんは、メディアが流す目先の断片的情報に惑わされず、事実に基づき問題の本質をとらえるべきです。

これまでの歴史的事実から、アメリカの意図・狙いを理解することが大切です。

また、日本語情報だけでなく、英語で各国の情報を集めることが大切です。インターネットを通じ、英語で中国の主張や中国のニュースも読むことも可能です。

日本国民のみなさんは、政治を政治家や官僚任せにせず、自ら情報を集め、自らの判断で決定し、行動する必要があります。それのみが、真に平和で豊かな生活を可能にします。


参照資料:
(1) 「任命拒否は学問への冒瀆 安保法に反対する学者の会が抗議の会見」、2020年10月15日、東京新聞

(2) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue

(3) 「岸新防衛相は親台派 『日米台の安全保障対話』必要性主張」、2020年9月16日、フォーカス台湾

(4) "The Astounding Counterfeit Nazi Invasion Map You’ve Never Heard Of", February 18th 2015, Mental Flooss


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。