【日韓対立の激化の背景には、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、日本、アメリカのそれぞれ異なった利害・思惑があることについて】

1. 日韓対立とその背景

韓国と日本の間の対立が先鋭化しています。きっかけは、韓国で提訴された徴用工訴訟に関し韓国の最高裁判所が原告勝訴の判決を出し、被告日本企業の在韓資産差押えが可能となったことです。

これに対し、日本政府は、韓国に対する輸出規制という対抗手段に出ました。韓国の半導体産業に必要な素材の輸出を規制し、韓国の経済を窮地に陥らせようとしています。



今回の日韓対立は、単に韓国と日本の二国間にとどまらず、中国・ロシアや北朝鮮、アメリカを含む様々な国々の利害や思惑がその背景にあります。





したがって、今後、日韓対立がどのような方向に進むかを判断するには、関係する各国がどのような利害と思惑を持ち、どのような方向に事態を誘導しようとしているのかを理解する必要があります。


2. 日韓対立における関係各国の利害・思惑

【韓国】
韓国の文政権は、北朝鮮との統一を目指しています。そのため、韓国は、日本の輸出規制を経済的侵略とみなし、日本による植民地支配の歴史と結び付け、北朝鮮と共闘態勢を組みながら、日本批判を行なっています。その結果、韓国は、経済分野だけでなく、安全保障の分野でも、日本との協力を見直す動きに出ています。日本の輸出規制に対抗し、日韓軍事情報協定を破棄することを示唆しています。

韓国は、すでに中国・ロシアを中心とするユーラシア経済圏との結び付きを強めています。今回の日本の輸出規制は、韓国がよりいっそうユーラシア経済圏と結び付くことにつながります。さらに、もし南北統一が実現すれば、韓国が、中国の進める一帯一路を通じ、ユーラシア経済と直結し、韓国経済が大きく成長・発展することになります。

韓国は、日韓対立をテコにして北朝鮮との統一を促進しようと考えています。

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【北朝鮮】
北朝鮮は、日韓対立が進むことが、日韓の離反につながり、安全保障における米韓日の協力体制の毀損につながることを期待しています。そのため、北朝鮮は、韓国に対し、日本の輸出規制に対抗して、日韓軍事情報協定を破棄するよう繰り返し求めています。


【中国】
中国も、日韓対立が進むことが、日韓の離反につながり、安全保障における米韓日の協力体制の毀損につながることを期待しています。

中国は、韓国がユーラシア経済圏に組み込まれ、さらに将来、南北統一が実現した際は、在韓米軍が撤収することを期待していると思われます。




【ロシア】
ロシアも、日韓対立が進むことが、日韓の離反につながり、安全保障における米韓日の協力体制の毀損につながることを期待しています。

ロシアは、日本が韓国に対する輸出規制の対象としたフッ化水素に関し、日本製よりも高純度のフッ化水素を提供する準備があると、韓国に提案しました。ロシアは、エネルギー分野を含め、韓国との経済協力関係がより深化することを望んでいます。




【日本】
日本の韓国に対する輸出規制は、当初は韓国の徴用工判決に対する対抗措置という位置付けであったと思います。同様の訴訟が続発し、アジア各国に拡大するのを防ぎたいという思惑があったものと思われます。

しかしながら、その後の輸出規制の拡大を見ると、日本には、単に徴用工訴訟への対抗にとどまらない、さらに大きな意図・狙いがあるように思われます。そもそも輸出規制発動も、日本だけの判断によるものではなく、アメリカの指示・アメリカとの共謀に基づくものと思われます。ユーラシア経済圏に取り込まれつつある韓国に対し、事実上の経済制裁をかけることで、米日経済圏にとどまらせようという思惑です。

ただ、ホワイト国除外を含む日韓対立の急激な先鋭化を見ると、アメリカと日本は、すでに韓国がユーラシア経済圏に取り込まれることが不可避であると判断し、それを前提にして、外交・安全保障政策を組み立てているのかも知れません。

すなわち、どうせ韓国を米日経済圏にとどまらせることが出来ないのであれば、むしろ対立を激化させ、それをテコにして日本の憲法改定と核武装を実現しようという思惑です。



日本保守派は、長年、憲法改定と核武装を目指して来ました。韓国・北朝鮮との対立を利用することで、国民世論を煽りながら、その宿願を実現させようとしている可能性はあると思われます。世論調査によると、なんと日本国民の8割が輸出規制に賛成しているそうです。[1]

韓国に対する輸出規制は事実上経済的威嚇です。間もなく、経済的威嚇で言うことをきかせることが出来ない相手には、軍事的威嚇で言うことを聞かせるべきだと言う論調が、メディアから盛んに喧伝されるようになるでしょう。その世論誘導が、憲法改定につながります。



さらに、今後、仮に北朝鮮の核兵器が維持されたまま、北朝鮮と韓国が統一を実現すれば、核を保有した統一朝鮮に対抗して、日本も核武装すべきだという論調が日本を支配することになるでしょう。

日本にすれば、韓国・北朝鮮との対立を口実にすることで、当面、中国との対立を避けるという思惑があると思われます。ただし、日本の憲法改定と核武装の本当の狙いは、中国に対する威嚇・対抗です。


【アメリカ】
アメリカは、ユーラシア経済圏に取り込まれつつある韓国に対し、事実上の経済制裁をかけることで、韓国を米日経済圏にとどまらせようとしているものと思われます。その際、アメリカは、自ら経済制裁をかけるのでなく、日本を使って経済制裁をかけたわけです。

ただ、ホワイト国除外を含む日韓対立の急激な先鋭化を見ると、アメリカは、すでに韓国がユーラシア経済圏に取り込まれることが不可避と判断し、それを前提にして、外交・安全保障政策を組み立てているのかも知れません。

すなわち、どうせ韓国を米日経済圏にとどまらせることが出来ないのであれば、むしろ対立を激化させ、それをテコにして日本の憲法改定と核武装を実現させようという思惑です。日本の憲法改定と核武装が実現すれば、経済的・軍事的に拡大する中国に対するカウンターバランスになります。

ここまでは、アメリカ保守派と日本保守派の思惑は一致しています。しかしながら、アメリカ保守派は、さらにより深い思惑を持っているものと推察されます。それは、憲法改定と核武装した日本を、単に中国に対するカウンターバランスとして位置付けるだけでなく、実際に、日中間で地域的核戦争を起こさせ、中国の経済力・政治力・軍事力を破壊してしまおうという狙いです。

アメリカは、現在、オフショア・バランシング戦略を採っています。アメリカが敵対国と直接戦うのでなく、地域の同盟国を敵対国と戦わせるという戦略です。アメリカとすれば、中国と直接戦いたくありません。中国本土とアメリカ本土で、互いに核弾道ミサイルを撃ち込み合う事態に発展してしまうからです。これに対し、日中間で地域的核戦争を起こさせれば、壊滅するのは中国と日本です。[2]

仮に北朝鮮の核兵器が維持されたまま、北朝鮮と韓国が統一を実現すれば、核を保有した統一朝鮮に対抗して、日本も核武装すべきだという論調が日本を支配することになるでしょう。日本は核兵器を国産し、あるいは、アメリカから核兵器の貸与を受け、核武装を実現することになるでしょう。琉球列島・奄美諸島の自衛隊ミサイル基地に中距離核ミサイルが配備されることになるでしょう。

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奄美大島・大熊地区において建設中の自衛隊ミサイル基地

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宮古島において建設中の自衛隊ミサイル基地

そして、そのあと、アメリカの工作により、何らかの不測の事態が発生し、日中間で軍事的衝突が発生するでしょう。小規模な軍事的衝突が、またたく間に全面的な軍事的紛争にエスカレートし、追い詰められた日本は、核ミサイルの使用に踏み切るでしょう。





当然、中国は、核ミサイルで日本に対し報復攻撃を行ないます。これらの結果、中国の広大な地域および日本全土が焦土と化します。日本では、先の大戦を遥かに上回る国民が命を失うことになるでしょう。



日中間で地域的核戦争が起これば、壊滅するのは中国と日本です。アメリカは無傷で生き残ります。中国と日本が焦土となったあと、アメリカは、唯一のスーパーパワーとして君臨することになります。


3. アジアにおける集団安全保障体制構築の必要性

以上のような各国の思惑を考えると、今後、日韓対立は、よりいっそう激化して行く可能性が高いと思われます。なぜなら、全ての関係国が、日韓対立が激化することを望んでいるからです。

仮に一定の沈静期間をはさむにせよ、今後、韓国が、よりいっそう中国・ロシアを中心とするユーラシア経済圏との結び付きを強めて行くに従い、必然的に、韓国・北朝鮮・中国・ロシアとアメリカ・日本との対立は深まることになります。

その対立が、経済的対立から軍事的対立・軍事的紛争に進むことを防ぐためには、冷戦時代に結ばれた日米軍事同盟や日韓軍事同盟に代わり、アジア諸国が参加する集団安全保障体制により、地域の安全と安定を実現して行くことが必要であると思われます。

たとえば、中国やロシアを含むアジア諸国により構成されるCICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)をベースに、そこにASEAN地域フォーラムを合体させ、アジアの集団安全保障機構を整備するということが考えられます。韓国は、すでにCICAの正式参加国です。日本、アメリカは、CICAのオブザーバー参加国です。日本、アメリカも、CICAの正式参加国となることが考えられます。


[CICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)第5回会議]

日本国民のみなさんは、国家安全保障の問題を政治家や官僚任せにせず、ひとりひとりが、アジア各国の利害と思惑を理解し、アジアの平和と安定を維持するには、どのような安全保障枠組みを構築すべきかを、真剣に考える必要があります。

さもなければ、アメリカ保守派と日本保守派がコントロールするメディアに煽動され、日本が憲法改定から核武装に進むことになります。その結果は、日中間の地域的核戦争です。日本が再び焦土となり、先の大戦を遥かに超える多くの国民が命を失うことになるでしょう。


参照資料:
(1) 「韓国向け輸出規制 「賛成」が80%越え。その理由は?」、2019年7月13日、文春オンライン

(2) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。