【人類運命共同体 VS アメリカファースト】
4月25日から27日、中国の北京で、第2回一帯一路フォーラムが開催されました。一帯一路は、中国がユーラシア諸国と共同で進める巨大プロジェクトです。鉄道、港湾施設、空港、道路などのインフラ整備を通じ、ユーラシア諸国が貿易・経済でより緊密に協力し、共に発展して行くことが目指されています。
今回の第2回一帯一路フォーラムには、世界150ヵ国の代表(そのうち37か国は首脳)および国連やIMFなど90以上の国際組織の代表が参加しました。そして、フォーラムでは、「人類運命共同体」という観点、そして、一帯一路が再生可能エネルギーの普及拡大をも目指すということが強調されました。[1]

「人類運命共同体」という観点から見れば、我々人類は、現在、化石燃料・原子力エネルギーから再生可能エネルギーへの転換という歴史的段階にあるといえます。限りある資源に依拠する化石燃料エネルギーや放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの限界を乗り越え、全ての人類がより豊かで持続的な発展をして行くためには、再生可能エネルギーへの転換が必要不可欠です。
そのため、第2回一帯一路フォーラムにおいては、人類運命共同体という観点から、再生可能エネルギー普及拡大の必要性が強調されました。
これと対照的なのが、現在の日本やアメリカ、イギリスの姿勢であると思います。日本では、原子力ムラが政府を私物化し、高コストで危険な原子力発電を維持し拡大しようとしています。アメリカでは、トランプ大統領のアメリカ・ファーストの政策の下、中国・ロシアとの対立が強調され、同盟国の利害よりもアメリカの利害が優先されています。また、イギリスは、EUから離脱し、自国の利益を極大化することを図っています。
日本やアメリカ、イギリスでは、私的利益の追求が「神の見えざる手」を通じ全体の利益にもつながるというアダム・スミスの古典派経済学的発想が根強いようです。それが、現代においては、新自由主義として正当化され、政策として追求されています。
確かに短期的には、私的利益の追求が一部特定利益の利益を最大化することは事実です。しかしながら、それが他の利益の犠牲の上に成り立つものであったり、より長期的な利益を害することにつながります。


大切なことは、個々人の利益、個々の企業の利益、国家の利益、複数の国家を含む地域の利益、さらに人類の利益を考え、それぞれのバランスを図りながら、理性的・計画的に利害を調整して行くことであると思います。
特定の利益のみを追求するのでなく、対立する利益とのバランスを考え、それぞれの利益が共に実現されるような仕組みを構想し、構築して行くことが大切であると思います。それが「妥協」という言葉の意味です。
その発想は、「正」「反」から「合」への「止揚」を目指すドイツ観念論のいわゆる弁証法の発想につながります。また、ドイツ観念論の弁証法の発想は、マルクスの唯物弁証法を経て、中国の共産主義思想にも引き継がれていると思われます。
現在、国家間の協力と地域主義を大切にし、再生可能エネルギーの普及拡大を進めているのが、ドイツと中国であるということの思想的背景には、弁証法の発想があるのかも知れません。
ドイツがフランスとの協力で進めているEU統合においても、中国がユーラシア諸国と協力して進めている「一帯一路」においても、対立する利益当事者の間で共通する利害を見出し、より高い次元での協力を目指して行く姿勢が存在します。


妥協策の例として、たとえば、次の例があげられると思います。一帯一路の一環として、中国がマレーシア東岸に鉄道を建設することが計画されていたところ、昨年、マレーシアが計画の中止を申し入れました。建設にともなう巨額の債務負担への懸念が理由でした。建設するか、しないかという対立軸だけで考えていたら、計画は消滅していたでしょう。しかしながら、その後、中国とマレーシアは粘り強く交渉を続け、建設費を3分の2に圧縮することで合意が成立、計画が復活することとなりました。対立する利害が妥協策を通じて合意へ達する好例だと思います。[2]
ちなみに、中国は、雲南省の昆明からラオスの首都ビエンチャン、タイの首都バンコク、さらにマレーシアの首都クアラルンプールを経て、シンガポールに至る高速鉄道を建設しています。鉄道が完成すれば、沿線の物流、貿易、経済の拡大に大きな効果があると思われます。とくに、内陸国ラオスの経済浮揚への効果が期待されます。[3]


これに対し、イギリスの古典派経済学的な「神の見えざる手」の発想においては、徹底的に私的利益を追求することが強調され、物事を対立的に考え、仮想敵を見出し、いかに敵を出し抜き、騙し、打ち破るかが追求されます。
古典派経済学的な発想から見れば、ドイツが進めるEU統合はイギリスの自由を縛る全体主義的策謀であり、中国が進める「一帯一路」は、唯一のスーパーパワーであるアメリカの地位を脅かす危険な陰謀ということになるでしょう。
かつては、アメリカにおいても、妥協が尊重されていました。そもそも、アメリカ建国の際、大きな州と小さな州の利害が対立し、憲法制定会議が決裂寸前までいったとき、上院は各州2名ずつの代表、下院は人口に比例して代表を選出するという妥協(いわゆる「大いなる妥協」)が成立し、合衆国憲法が制定され、アメリカ合衆国が生まれたという歴史があります。

アメリカが、再び建国以来の妥協の精神を思い出し、人類運命共同体の観点から、中国・ロシアやEUとの間で妥協を成立させ、多極主義に基づく、新しい世界秩序を構築して行くことが必要であると思います。
また、日本も、対米盲従から脱却して、「一帯一路」に参加し、東アジアのために、さらに人類のために何が出来るのかを追求して行くべきであると思います。
参照資料:
(1) "Xi tells summit that China's 'Belt and Road' initiative must be green and sustainable", April 26th 2019, The Japan Times
(2) "Malaysia to go ahead with China-backed East Coast Rail link", April 12th 2019, South China Morning Post
(3) "In Laos, A Chinese-Funded Railway Sparks Hope For Growth — And Fears Of Debt", April 26th 2019, NPR
註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。
4月25日から27日、中国の北京で、第2回一帯一路フォーラムが開催されました。一帯一路は、中国がユーラシア諸国と共同で進める巨大プロジェクトです。鉄道、港湾施設、空港、道路などのインフラ整備を通じ、ユーラシア諸国が貿易・経済でより緊密に協力し、共に発展して行くことが目指されています。
今回の第2回一帯一路フォーラムには、世界150ヵ国の代表(そのうち37か国は首脳)および国連やIMFなど90以上の国際組織の代表が参加しました。そして、フォーラムでは、「人類運命共同体」という観点、そして、一帯一路が再生可能エネルギーの普及拡大をも目指すということが強調されました。[1]

「人類運命共同体」という観点から見れば、我々人類は、現在、化石燃料・原子力エネルギーから再生可能エネルギーへの転換という歴史的段階にあるといえます。限りある資源に依拠する化石燃料エネルギーや放射性廃棄物を生み出す原子力エネルギーの限界を乗り越え、全ての人類がより豊かで持続的な発展をして行くためには、再生可能エネルギーへの転換が必要不可欠です。
そのため、第2回一帯一路フォーラムにおいては、人類運命共同体という観点から、再生可能エネルギー普及拡大の必要性が強調されました。
これと対照的なのが、現在の日本やアメリカ、イギリスの姿勢であると思います。日本では、原子力ムラが政府を私物化し、高コストで危険な原子力発電を維持し拡大しようとしています。アメリカでは、トランプ大統領のアメリカ・ファーストの政策の下、中国・ロシアとの対立が強調され、同盟国の利害よりもアメリカの利害が優先されています。また、イギリスは、EUから離脱し、自国の利益を極大化することを図っています。
日本やアメリカ、イギリスでは、私的利益の追求が「神の見えざる手」を通じ全体の利益にもつながるというアダム・スミスの古典派経済学的発想が根強いようです。それが、現代においては、新自由主義として正当化され、政策として追求されています。
確かに短期的には、私的利益の追求が一部特定利益の利益を最大化することは事実です。しかしながら、それが他の利益の犠牲の上に成り立つものであったり、より長期的な利益を害することにつながります。


大切なことは、個々人の利益、個々の企業の利益、国家の利益、複数の国家を含む地域の利益、さらに人類の利益を考え、それぞれのバランスを図りながら、理性的・計画的に利害を調整して行くことであると思います。
特定の利益のみを追求するのでなく、対立する利益とのバランスを考え、それぞれの利益が共に実現されるような仕組みを構想し、構築して行くことが大切であると思います。それが「妥協」という言葉の意味です。
その発想は、「正」「反」から「合」への「止揚」を目指すドイツ観念論のいわゆる弁証法の発想につながります。また、ドイツ観念論の弁証法の発想は、マルクスの唯物弁証法を経て、中国の共産主義思想にも引き継がれていると思われます。
現在、国家間の協力と地域主義を大切にし、再生可能エネルギーの普及拡大を進めているのが、ドイツと中国であるということの思想的背景には、弁証法の発想があるのかも知れません。
ドイツがフランスとの協力で進めているEU統合においても、中国がユーラシア諸国と協力して進めている「一帯一路」においても、対立する利益当事者の間で共通する利害を見出し、より高い次元での協力を目指して行く姿勢が存在します。


妥協策の例として、たとえば、次の例があげられると思います。一帯一路の一環として、中国がマレーシア東岸に鉄道を建設することが計画されていたところ、昨年、マレーシアが計画の中止を申し入れました。建設にともなう巨額の債務負担への懸念が理由でした。建設するか、しないかという対立軸だけで考えていたら、計画は消滅していたでしょう。しかしながら、その後、中国とマレーシアは粘り強く交渉を続け、建設費を3分の2に圧縮することで合意が成立、計画が復活することとなりました。対立する利害が妥協策を通じて合意へ達する好例だと思います。[2]
ちなみに、中国は、雲南省の昆明からラオスの首都ビエンチャン、タイの首都バンコク、さらにマレーシアの首都クアラルンプールを経て、シンガポールに至る高速鉄道を建設しています。鉄道が完成すれば、沿線の物流、貿易、経済の拡大に大きな効果があると思われます。とくに、内陸国ラオスの経済浮揚への効果が期待されます。[3]


これに対し、イギリスの古典派経済学的な「神の見えざる手」の発想においては、徹底的に私的利益を追求することが強調され、物事を対立的に考え、仮想敵を見出し、いかに敵を出し抜き、騙し、打ち破るかが追求されます。
古典派経済学的な発想から見れば、ドイツが進めるEU統合はイギリスの自由を縛る全体主義的策謀であり、中国が進める「一帯一路」は、唯一のスーパーパワーであるアメリカの地位を脅かす危険な陰謀ということになるでしょう。
かつては、アメリカにおいても、妥協が尊重されていました。そもそも、アメリカ建国の際、大きな州と小さな州の利害が対立し、憲法制定会議が決裂寸前までいったとき、上院は各州2名ずつの代表、下院は人口に比例して代表を選出するという妥協(いわゆる「大いなる妥協」)が成立し、合衆国憲法が制定され、アメリカ合衆国が生まれたという歴史があります。

アメリカが、再び建国以来の妥協の精神を思い出し、人類運命共同体の観点から、中国・ロシアやEUとの間で妥協を成立させ、多極主義に基づく、新しい世界秩序を構築して行くことが必要であると思います。
また、日本も、対米盲従から脱却して、「一帯一路」に参加し、東アジアのために、さらに人類のために何が出来るのかを追求して行くべきであると思います。
参照資料:
(1) "Xi tells summit that China's 'Belt and Road' initiative must be green and sustainable", April 26th 2019, The Japan Times
(2) "Malaysia to go ahead with China-backed East Coast Rail link", April 12th 2019, South China Morning Post
(3) "In Laos, A Chinese-Funded Railway Sparks Hope For Growth — And Fears Of Debt", April 26th 2019, NPR
註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。