【日本のF-35が、アメリカ本土防衛のため、中国・ロシアの極超音速飛翔体や弾道ミサイル迎撃に利用される可能性について】

現在、中国、ロシア、アメリカの3大国は、次世代兵器である極超音速飛翔体(HGV: HYPERSONIC GLIDE VEHICLE)の開発競争を行っています。極超音速飛翔体は、ロケットで打ち上げられ、宇宙空間近くでロケットから切り離されたのち、マッハ10~20の超高速で滑空し、目標に着弾します。



従来の大陸間弾道ミサイルが予測可能な放物線軌道を飛行するのに対し、極超音速飛翔体は、滑空時に超高速で自在な運動をするため、現在のミサイル防衛システムでは迎撃が不可能と言われています。[1]

弾頭に核兵器を搭載することも可能ですが、核を使用せず運動エネルギー自体で目標を破壊することも可能です。これまでのところ、中国とロシアは、すでに実験に成功していますが、アメリカは実験に成功していません。アメリカは、極超音速飛翔体の開発競争で遅れをとっています。



このような状況の下、中国、ロシアの極超音速飛翔体に対処するため、アメリカのトランプ大統領は、1月17日、新しい「ミサイル防衛戦略」を発表し、ミサイル防衛システムの高度化を進めることを明らかにしました。具体的には、(1)宇宙空間に探知システム・迎撃システムを配備することの研究、および、(2)極超音速飛翔体を打ち上げ直後のブーストフェーズで迎撃することの検討を行うとしています。[2]

極超音速飛翔体は、中間飛行段階および最終飛行段階では、マッハ10~20の超高速で複雑な飛行をしますので、迎撃が不可能です。そのため、アメリカは、打ち上げ直後のブーストフェーズ(上昇過程)で極超音速飛翔体を撃ち落すことを検討しています。打ち上げ直後のブーストフェーズであれば、極超音速飛翔体は、比較的ゆっくりと上昇し、放物線軌道を取るからです。



ブーストフェーズでの迎撃を行うため、レーダーによる捕捉が困難なステルス攻撃機F-35を中国やロシアの打ち上げ基地の近くに侵入させ、F-35から発射する長距離空対空ミサイルで極超音速飛翔体を撃ち落すという計画です。



ここで思い起こされるのが、安倍政権がアメリカからF-35を100機追加購入し、すでに購入決定済みの47機とあわせて、合計147機購入するという計画です。追加100機の購入が発表されたとき、安倍首相がトランプ大統領を喜ばせるためであるとか、各国がF-35の性能に疑問があるとして購入を控えている中での追加購入はアメリカの軍産複合体を助けるためであるとかいう報道が行われました。

しかしながら、今回のアメリカの新しい「ミサイル防衛戦略」に照らして考えてみると、安倍政権による合計147機にもおよぶF-35の調達には、重要な軍事的・実質的意味があるのかも知れません。日本がF-35を大量調達する目的は、アメリカへ向かって発射される中国、ロシアの極超音速飛翔体や北朝鮮の弾道ミサイルを日本がブーストフェーズで迎撃するというところにあるのかも知れません。

安倍政権が強硬採決した安保法制では、集団的自衛権が認められています。日本はアメリカを守る義務を負うことになります。したがって、アメリカに対して中国あるいはロシアが極超音速飛翔体を発射するとき、または、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを発射するとき、アメリカの要請に基づき、日本の自衛隊のF-35が、中国あるいはロシアまたは北朝鮮の打ち上げ基地の近くに侵入し、ブーストフェーズでの迎撃の役割を担うことになるのかも知れません。日本がアメリカの盾になるわけです。



一昨年、アメリカと北朝鮮の間の軍事的緊張が高まり、グアム島に向かって北朝鮮の弾道ミサイルが発射される可能性が高まった際、集団的自衛権に基づき、日本の自衛隊は、グアム島に向かって発射される弾道ミサイルを迎撃するため、パトリオット・ミサイルを四国に展開しました。それと同じ論理で、今度は、アメリカ本土に向かって発射される極超音速飛翔体を撃墜するため、日本のF-35が動員されることになりそうです。

現在、アメリカは、アメリカ自らが中国やロシアと戦うのでなく、地域の同盟国を中国やロシアと戦わせ、自らは後方から指令を出す、いわゆるオフショア・バランシング戦略を進めています。自衛隊のF-35による中国・ロシアの極超音速飛翔体の迎撃は、まさにオフショア・バランシング戦略の具体化になります。日本がアメリカ本土防衛のために組み込まれることになります。[3]

しかしながら、この構想には大きな問題点があります。F-35のステルス性能が言われているほどではないのではないかという指摘があるからです。

2017年10月、イスラエルのF-35がシリアに侵入した際、シリア軍のS-200地対空ミサイルによって迎撃されたという報道もあります。S-200は、ロシア製の比較的旧式の地対空ミサイルです。[4]



中国は、ロシアから輸入した、さらに高性能のS-400を保有しています。ロシアは、S-400よりもさらに高性能のS-500を保有しています。中国あるいはロシアのミサイル打ち上げ基地近くに侵入した日本のF-35は次々と撃墜される可能性があります。

また、もし日本の自衛隊のF-35がブーストフェーズでの迎撃を行うということが分かっていれば、中国もロシアも、アメリカに対し極超音速飛翔体を発射する前に、まず日本の自衛隊基地を攻撃するでしょう。

いずれにせよ、極超音速飛翔体開発競争であれ、ミサイル防衛であれ、軍拡競争にはきりがありません。辞任したマティス国防長官に代わり、現在、国防長官代行を務めているのは、元ボーイング社幹部のパトリック・シャナハンです。軍拡競争は、軍産複合体を富ませるだけです。国家予算は、ベーシックインカム導入や再生可能エネルギー普及に使うべきです。

photo.JPG




[提言] : 冷戦型の軍事的対立に代わり集団安全保障による平和の実現へ

現在、日本では、与党はもちろん、野党の立憲民主党でさえ、日米安保条約体制の堅持をうたっています。

しかしながら、日米安保条約は、冷戦時代に締結された軍事同盟です。今後、アメリカが中国との対立を深め、オフショア・バランシング戦略を進めれば、日本は米中対立の最前線に立たされ、まさに日本が戦場となる危険性が高まることになります。

そのため、日本国民は、日米安保条約体制に代わる新しい安全保障体制を構想・構築すべきです。日米安保条約体制に代わり、中国およびアメリカとアジア諸国が構成する集団安全保障体制により地域の平和と安定を維持していくべきです。[5]

photo.JPG

集団安全保障の具体例としては、国際連合やOSCE(欧州安全保障協力機構)、ASEAN地域フォーラムなどをあげることが出来ます。集団安全保障においては、「加盟国の中に」地域の安全を脅かす国が現れた場合、他の加盟国が協力して、その対処にあたることになります。

そのような集団安全保障の仕組みが、中国、アメリカ、アジア諸国の協力により、アジアにおいて構築された場合、集団安全保障機構の総会あるいは理事会における決議に基づき、たとえば、域内のテロ組織や海賊を撲滅するために、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して対処することになります。

また、域内で地震や津波などの災害が発生した場合、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して災害救助活動を行うことになります。

さらに、域内に、核保有を進めようという独裁国が現れた場合、その抑制のため、中国、日本、アメリカが協力することになります。

アジアの平和を維持するため、新しい、あるべき安全保障体制に関し、広範な国民的議論を開始すべきです。男性・女性、全ての年齢層の国民が参加し、新しい、あるべき安全保障体制について議論を開始すべきです。

まず尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、中国との正常な友好関係を回復すべきです。

日本国民のみなさんが、自由と権利、平和と独立を得たいのであれば、民主主義を進化させ、国民のみなさんが決定権を持つ必要があります。そのためには、ドイツのように、労働組合の活動を活発化させ、各地域に多様で活力のある中小企業を成立させ、地方政府の権限を強めるとともに、再生可能エネルギーを通じた、分散型の経済成長を実現させて行く必要があります。

民主主義は、共同行動です。自分ひとりが得をしようとするのでなく、みんなで協力して権利と自由を獲得して行く。それが、民主主義です。

国民が、自ら真実の情報を集め、自ら議論し、自ら決定する。それが、民主主義です。

日本国民のみなさんが民主主義を進化させ、決定権を持たない限り、たとえ政権交代が起こっても、今後も、独裁的政治家であれ、官僚であれ、外国勢力であれ、国民のみなさん自身以外の勢力が決定権を持ち続けることになるでしょう。


参照資料:
(1) "Hypersonic Weapons Could Transform Warfare. The U.S. Is Behind.", October 5th 2018, Forbes

(2) "Factbox: U.S. eyes lasers, F-35s, 'Star Wars' tech for missile defense", January 18th 2019, Reuters

(3) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue

(4) "Did a Russian Missile Really Hit an Israeli F-35?", October 26th 2018, The National Interest

(5) "Collective Security Is America's Only Hope", David Santoro, October 15th 2017, The National Interest


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。