【日中間に対立と敵意を持ち込むアーミテージ・ナイ・レポートに対し、日本は独自の民主的な外交・安全保障政策を持つべきであることについて】

1. 国家間に対立と敵意を持ち込むレポート

10月3日、アメリカのシンクタンクCSISから「アーミテージ・ナイ・レポート」が発表されました。同レポートは、国家間に対立と敵意を持ち込み、一部特定利益に富を集中させ、一般庶民を収奪するという発想に基づいた文書であると思います。

レポートは、基本的に古いイギリス帝国主義の発想に基づいています。イギリスが伝統的に敵視してきたロシアと中国を敵視し、ロシアと中国にいかに対抗するかという発想に貫かれています。

レポートは、ロシアと中国に対抗するため、アメリカのインド太平洋軍が中心になって、アメリカの同盟諸国が共同部隊を創設することを提案しています。そして、その共同部隊に日本を主要メンバーとして参加させ、台湾危機や南シナ海、東シナ海の緊急事態に対応させるとしています。共同部隊には、アメリカ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポールなどを参加させ、将来的にはアジア版NATOを創設することが想定されているのかも知れません。

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レポートは、日本に米軍基地と自衛隊基地が並存することは無駄であるとし、将来的に自衛隊基地を米軍が共同使用する形にして行くことを提案しています。その結果、基地維持費など米軍の駐留経費は100%日本側が負担することになります。

レポートは、日本の自衛隊が陸自・海自・空自を統合する統合司令部を設けることを提案しています。これは、琉球列島および奄美諸島における中国との戦闘を念頭においたものと思われます。島嶼部における戦闘では、陸海空共同の作戦行動が必要となるからです。たとえアメリカとの共同部隊が創設されても、最前線の島嶼部で戦うのは自衛隊です。アメリカは、後方から指令を出し、情報と物資の提供をするのみです。すでに2015年の日米新ガイドラインにおいて、自衛隊は島嶼攻撃を阻止する第一義的な責任を有する、と定められています。

さらに、レポートは、イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドで構成する「FIVE-EYES」と呼ばれる世界的な情報収集システムに日本を参加させることを提案しています。衛星写真や潜水艦のモニタリング情報、さらにECHELONで傍受した信号情報(SIGINT)の共有が行われることになると思われます。

ただし、かつてイギリスのブレア政権がアメリカのブッシュ政権にイラクが核兵器を保有しているという虚偽情報を提供してイラク戦争を開始させたように、日本に対し虚偽情報が提供され、日本が中国との軍事衝突に向かうよう誘導される可能性があります。日本には提供された情報の真偽を検証する手段がありません。

また、レポートは、中国の「一帯一路」政策に対抗し、アメリカと日本がアジアのインフラ整備のためのファンドを創設すべきだと提案しています。ただし、アメリカも、日本も、財政難にあるため、民間企業に頼るということだそうです。

そして、レポートは、アメリカと日本の間の兵器の共同開発、防衛産業の協力も提唱しています。


2. エネルギー転換とグローバリズム進化の必要性

世界は、現在、化石燃料・原子力エネルギーから再生可能エネルギーへのエネルギー転換の途上にあります。まさに世界が協力して地球温暖化問題を克服するとともに、グローバリズムを進化させ、より豊かな生活を実現するため、国家間の経済協力を進めるべき状況にあります。

その再生可能エネルギーへの転換と電気自動車普及の先頭に立っているのが中国です。先頃、中国と日本の間で、電気自動車用の急速充電プラグの標準化も合意されました。また、中国は、「一帯一路」政策を通じ、ヨーロッパ、中央アジア、中東、東アフリカとの経済協力も進めています。

そこに、あえて対立と敵意を持ち込もうというのが、「アーミテージ・ナイ・レポート」です。エネルギー転換とグローバリズムの流れを力ずくで阻止するため、安倍政権のようなファシズム体制の国家を作り、中国を敵視し、攻撃するという帝国主義的発想に基づいたレポートです。

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本来、中国とアメリカが協力すれば、エネルギー転換が急速に進み、地球温暖化問題の克服も促進されることになります。中国とアメリカが協力して共に繁栄すれば良いわけです。多極化に合わせて国際的な通貨制度や貿易のルールも進化させれば良いわけです。

今後、再生可能エネルギーの普及が進めば、エネルギー・コストが限りなくゼロに近づきます。ベーシック・インカムの導入も可能となります。

世界の諸国民が協力し、再生可能エネルギーへのエネルギー転換を進め、グローバリズムを進化させることが必要です。


3. 日本独自の外交・安全保障の立場を確立することの重要性 ー アメリカの利害、中国の利害、日本の利害

その後、アーミテージ・ナイ・レポートが発表されてから、2週間が経ちました。しかしながら、驚くべきことに、アーミテージ・ナイ・レポートを批判し、日本独自の外交・安全保障の立場を主張する人が、日本には一人もいません。

政治家も、官僚も、有識者も、アメリカの意向、上司の意向に従いますという人ばかりです。日本の独自外交を主張した政治家がスキャンダルで何人も失脚し、各省内で自殺者が発生し、政府に批判的なコメンテーターがメディアから全て消えたことから、政治家も、官僚も、有識者も、すっかり臆病者の集まりとなってしまったようです。

また、韓国と違い、日本国民の間からも民主的な自立した動きが全く出てきません。


伝統的に日本では戦前から今日に至るまで、外交・安全保障に関し、自国の都合しか考えない傾向があります。さらに、現在は、政治家も、官僚も、アメリカの意向がどこにあるかを忖度し、それをいかに実現するかという状態にあるようです。それでは、日本の外交・安全保障政策を考えることは不可能です。

日本を含むアジアの外交・安全保障問題を考える際には、どうアメリカの利害、中国の利害、日本の利害を調整するか、という観点が必要となります。

まず、アメリカは、財政難から世界の基地を整理統合したいという状況にあります。ソ連との冷戦に勝利したあと、一時的にアメリカが世界で唯一のスーパーパワーであるという時期がありました。そのときアメリカは、世界を6つの軍管区に分割し、アメリカが全世界を軍事的に管理するというシステムを構築しました。たとえば、日本を含むアジアは、アメリカのインド太平洋軍が管轄しています。

しかしながら、イラク戦争、アフガン戦争での膨大な戦費の支出とロシアの復活、中国の台頭という状況の下、アメリカが世界各地に800を超える軍事基地と軍事施設を保有し続けることは財政的に不可能となっています。

そこで、アメリカは、同盟国に財政的・軍事的負担を分担させることにしました。いわゆるオフショア・バランシング戦略です。

近い将来、アメリカは、在日米軍基地の多くを日本へ返還し、自衛隊基地にした上で、日米共同使用を求めることになると思います。その結果、名目上自衛隊基地ではあるものの、事実上、アメリカ軍が米軍基地として使用することになります。

さらに、アメリカは、東シナ海有事、南シナ海有事、台湾危機において、まず日本が軍事的に対処して欲しい、日本に責任を肩代わりして欲しいと考えています。

そして、アメリカは、日本に、アメリカのアジアにおける権益を守って欲しい、台湾と中国との統一を阻止して欲しい、と考えています。

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一方、中国は、アメリカ軍にアジアから撤収して欲しいと考えています。中国は、アメリカに代わり、中国が、アジア、西太平洋、南太平洋の安全保障に責任を持つべきだと考えているようです。そして、南米との貿易ルートの安全を確保するため、オーストラリア、ニュージーランドとの友好関係を樹立し、将来的には南太平洋のトラック諸島(チューク諸島)に海軍基地を設けることも考えているようです。もちろん、中国は、台湾との平和的統一も実現したいと考えています。

また、中国は、日本に民間レベルでの戦時補償を尽くして欲しいと考えていると思います。日本の旧財閥系企業やゼネコンが戦時中に中国の国民に与えた損害を補償して欲しい、さらに国家間についても、日本政府が追加補償するなら歓迎するという立場であると思います。今後、北朝鮮、韓国、中国が一体となって請求を行ってくる可能性もあります。

さらに、中国は、安倍・麻生らに代表される旧満州国政府につながる人脈を政治から放逐して欲しいと考えていると思います。歴史問題、慰安婦問題は、あくまでも表面的な問題であり、中国侵略を推進した旧満州国政府につながる人脈がいまだに日本の政治・経済に大きな影響を持っている状況を改めて欲しいと考えていると思います。


これに対して、日本では、旧財閥系企業・ゼネコンが、中国に報復されることを恐れています。NHKに二代続けて財閥系企業の代表を経営委員会委員長として送り込み、世論をコントロールしながら、アメリカにすり寄り、アメリカと一心同体となることで、中国に対抗し、自分たちの利益を守ろうとしています。彼らにとっては、アメリカ軍が頼りです。


4. 民主的な外交・安全保障政策確立の必要性

このような状況の下で、日本を含むアジアの平和と安全を実現して行くためには、まず何よりも日本国民自身が民主的になることが必要であると思います。安全保障の問題を人任せにせず、日本国民自身が、どのような安全保障体制を作るべきかについて、意見を持つことが大切であると思います。

そのために、まず民主的な文民統制を確立することが大切です。言い換えますと、外交・安全保障に関し、主権者である国民が最終的な決定権を持つ仕組みを作り、それを国民が運営して行くということです。外交・安全保障に関する徹底的な情報開示が前提となります。そして、国会を中心として、外交・安全保障に関しオープンな議論を行うことが必要です。

上記の通り、アメリカ軍がアジアから徐々に撤収することは、財政的に見て必然的な流れです。その際、日本が、その穴を埋めるために自主防衛力を強めるのでなく、何よりも外交を通じて、中国との友好関係を回復することが大切です。まず尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、中国との正常な友好関係を回復すべきです。そして、日本は、中国が進める一帯一路政策に参加し、AIIBへも参加すべきです。

さらに、日本は中国と協力し、再生可能エネルギーと電気自動車の普及拡大を推進して行くべきです。そして、中国とアメリカが共に繁栄する道を提案して行くべきです。本来、中国とアメリカが協力すれば、エネルギー転換が急速に進み、地球温暖化問題の克服も促進されることになります。中国とアメリカが協力して共に繁栄すれば良いわけです。多極化に合わせて国際的な通貨制度や貿易のルールも進化させれば良いわけです。

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その上で、アジアの安全保障については、冷戦時代に結ばれた日米安保条約という軍事同盟に代わり、中国、アメリカ、アジア諸国が参加する集団安全保障体制を構築すべきです。

集団安全保障の具体例としては、国際連合やOSCE(欧州安全保障協力機構)、ASEAN地域フォーラムなどをあげることが出来ます。集団安全保障においては、「加盟国の中に」地域の安全を脅かす国が現れた場合、他の加盟国が協力して、その対処にあたることになります。

そのような集団安全保障の仕組みが、中国、アメリカ、アジア諸国の協力により、アジアにおいて構築された場合、集団安全保障機構の総会あるいは理事会における決議に基づき、たとえば、域内のテロ組織や海賊を撲滅するために、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して対処することになります。

また、域内で地震や津波などの災害が発生した場合、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して災害救助活動を行うことになります。

さらに、域内に、核保有を進めようという独裁国が現れた場合、その抑制のため、中国、日本、アメリカが協力することになります。

また、日本は、旧財閥系企業・ゼネコンの戦時補償の実施にも応じるべきです。安倍・麻生ら中国侵略を推進した旧満州国政府につながる人脈も政界から放逐すべきです。

そして、沖縄が中国と台湾の平和的統一の橋渡しとなるべきです。


日本国民のみなさんが、自由と権利、平和と独立を得たいのであれば、民主主義を進化させ、国民のみなさんが決定権を持つ必要があります。そのためには、ドイツのように、労働組合の活動を活発化させ、各地域に多様で活力のある中小企業を成立させ、地方政府の権限を強めるとともに、再生可能エネルギーを通じた、分散型の経済成長を実現させて行く必要があります。

民主主義は、共同行動です。自分ひとりが得をしようとするのでなく、みんなで協力して権利と自由を獲得して行く。それが、民主主義です。

国民が、自ら真実の情報を集め、自ら議論し、自ら決定する。それが、民主主義です。


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。


参照資料:
More Important than Ever ー Renewing the U.S.-Japan Alliance for the 21st Century, October 3rd 2018, CSIS