【アメリカのオフショア・バランシング戦略の下、日本のイージス・アショアは、中国およびロシアに対する攻撃用兵器へ転用される可能性があることについて】

1. イージス・アショアの攻撃的兵器への転用可能性

安倍政権は、イージス・アショアの導入を、自衛隊の助言に基づかず、政治主導で決定しました。政治主導・官邸主導ということは、言い換えると、アメリカ保守派の意向に従ったということです。

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1つのイージス・アショア・サイトは陸上型SPY-1レーダーと24基のSM3ミサイルを備えるVLS(垂直発射システム)から構成されます。VLSはイージス艦で用いられているVLSを基に移動可能なものが開発されるそうです。基地周辺にトンネルを掘り、移動式VLSを格納することになるのかも知れません。

イージス・アショアについては、様々な問題点が指摘されています。

まず日本が支払う価格がきわめて高額なことです。当初の見積額が1基約800億円、2基で1600億円程度と言われていたものが、維持費などを入れると4660億円で当初の見積額の2.9倍になります。ここに、1発約40億円とされる迎撃ミサイル「SM3ブロックIIA」24発ずつ2ヵ所(計約2000億円)や一部の用地の取得、整地、隊員の宿舎、教育訓練費などが上乗せされます。ちなみに、ルーマニアとポーランドに設置されるイージス・アショアは、1基約800億円で、こちらは全額アメリカが負担します。[1]

また、設置が予定されている秋田市と萩市は、北朝鮮とハワイおよびグアム島を結ぶ直線上に位置していることから、日本の首都圏や関西圏防衛のためでなく、ハワイとグアム島防衛のための導入ではないかという疑惑が持たれています。[2]

さらに、イージス・アショアのレーダーから照射される強力な電磁波が周辺住民の健康を害するのではないかという懸念もあります。

しかしながら、私は、個人的に、イージス・アショアの最大の問題点は、それが、将来、中国とロシアに対する攻撃用兵器へ転用される可能性があることだと思っています。

というのも、イージス・アショアに装備されるSM3ミサイル(スタンダード・ミサイル3ブロックIIA)は、射程距離が2500kmで、設置が予定されている萩市と秋田市から、中国の上海も、天津も、北京も、また、ロシアのウラジオストックも、射程に収めることになるからです。

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(図出典: 長周新聞2017年12月16日号)[3]

ちなみに、水平線の彼方へはレーダー波が届きませんが、目標地点の近くに味方の航空機を飛来させ、目標情報をイージス・アショア・サイトへ伝え、ミサイルを誘導する、いわゆるNIFC-CA (NAVAL INTEGRATED FIRE CONTROL-COUNTER AIR) という方法を用いて、攻撃することが可能となります。これには、自衛隊が導入を予定しているステルス戦闘機のF-35が使われる予定です。[4]

F-35をヘリコプター空母の「いずも」に艦載し、予め目標地点近くまで移動しておくことも可能です。

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また、固定目標であれば、NIFC-CAを使わなくとも、あらかじめ目標地点の座標を指定すれば、正確に着弾させることが出来ます。

イージス・アショアに装備されるSM3ミサイルの弾頭には、飛来する弾道ミサイルに体当たりして迎撃するための飛翔体が装着されており、あくまでも防衛のための兵器として運用すると説明されています。

しかしながら、もし自民党の改憲案通りに憲法が改定され、攻撃的兵器の導入が可能となれば、イージス・アショアは、すぐに攻撃用兵器へ転用が可能です。弾頭を通常爆薬に変えれば良いだけだからです。さらに、戦術核搭載の可能性もあります。

現在、アメリカは、アメリカ自らが中国やロシアと戦うのでなく、地域の同盟国を中国やロシアと戦わせ、自らは後方から指令を出す、いわゆるオフショア・バランシング戦略を進めています。もし憲法が改定され、イージス・アショアが攻撃的兵器へ転用されれば、まさにオフショア・バランシング戦略の具体化になります。[5]

中国も、ロシアも、日本が、イージス・アショアを攻撃的兵器へ転用し、上海、天津、北京、ウラジオストックを射程に収めるとなれば、攻撃される前に、日本本土を攻撃する可能性が高まります。偶発的に戦争が勃発する危険性も高まります。


2. 冷戦型の軍事的対立に代わり集団安全保障による平和の実現へ

現在、日本では、与党はもちろん、野党の立憲民主党でさえ、日米安保条約体制の堅持をうたっています。

しかしながら、日米安保条約は、冷戦時代に締結された軍事同盟です。今後、アメリカが中国との対立を深め、オフショア・バランシング戦略を進めれば、日本は米中対立の最前線に立たされ、まさに日本が戦場となる危険性が高まることになります。

そのため、日本国民は、日米安保条約体制に代わる新しい安全保障体制を構想・構築すべきです。日米安保条約体制に代わり、中国およびアメリカとアジア諸国が構成する集団安全保障体制により地域の平和と安定を維持していくべきです。[6]

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集団安全保障の具体例としては、国際連合やOSCE(欧州安全保障協力機構)、ASEAN地域フォーラムなどをあげることが出来ます。集団安全保障においては、「加盟国の中に」地域の安全を脅かす国が現れた場合、他の加盟国が協力して、その対処にあたることになります。

そのような集団安全保障の仕組みが、中国、アメリカ、アジア諸国の協力により、アジアにおいて構築された場合、集団安全保障機構の総会あるいは理事会における決議に基づき、たとえば、域内のテロ組織や海賊を撲滅するために、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して対処することになります。

また、域内で地震や津波などの災害が発生した場合、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して災害救助活動を行うことになります。

さらに、域内に、核保有を進めようという独裁国が現れた場合、その抑制のため、中国、日本、アメリカが協力することになります。

アジアの平和を維持するため、新しい、あるべき安全保障体制に関し、広範な国民的議論を開始すべきです。男性・女性、全ての年齢層の国民が参加し、新しい、あるべき安全保障体制について議論を開始すべきです。

まず尖閣諸島の領有権問題を棚上げし、中国との正常な友好関係を回復すべきです。


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。


参照資料:
(1) 「イージス・アショアが吹っかけられた「高い買い物」に終わる理由」、田岡俊次、2018年8月9日、Diamond Online

(2) 「陸上イージスの説明は誇大広告とまやかしの連発だ」、田岡俊次、2018年9月13日、Diamond Online

(3) 「防衛隠れ蓑にした攻撃拠点化 イージス・アショア配備の意味」、2018年12月16日、長周新聞

(4) "Navy to Integrate F-35 With Beyond-the-Horizon Technology", January 22ned 2015, Military.com

(5) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue

(6) "Collective Security Is America's Only Hope", David Santoro, October 15th 2017, The National Interest