【第2回「友愛政治とコミュニタリアニズム研究会」ー 新しい政治理念の確立を目指して (善き政治とは何か)】

6月30日、都内ホテルの会議室を会場として、第2回「友愛政治とコミュニタリアニズム研究会」が開催されました。

研究会は、東アジア共同体研究所理事長・元内閣総理大臣の鳩山友紀夫(由紀夫)さんと、市民政治バンド代表・元衆議院議員の首藤信彦さんが主宰し、千葉大学教授の小林正弥さんが講師を務められます。

研究会の目的は、混迷を深める日本政治、国際政治を打開するべく、日本の個人、社会、地域、アジアと世界を包含する新しい政治の理念と運動を作り出すことです。

その際、参考になるのが1990年代からアメリカで、混迷するリベラリズムに対して出現したコミュニタリアニズムです。これは、古い共同体への回帰を目指すものではなく、国家を超えた共同体の構成員として、「善い生き方」の実現も含めて正義を考え、新しい政治の理念を創り出す思想だそうです。

研究会では、講師の講義、そして、参加者の議論を通じ、新しい友愛政治を創建し、現実の状況の中から新たな活路を切り開いて行くことを目指しています。


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(写真出典: 首藤信彦さんの6月30日付FACEBOOK記事)


第2回の研究会でも、冒頭、鳩山さんから当日の研究会のテーマに関連してスピーチがありました。

鳩山さんは、AIIB(アジアインフラ投資銀行)顧問として、インドのムンバイで開催されたAIIB年次総会に出席し、数日前に帰国されたとのことでした。

そのAIIB年次総会で各国のみなさんとお話されて、ますます感じるのは、いかに日本の政治・外交が周回遅れかということだそうです。安倍政治がいかに時代に逆行しているかということだそうです。

鳩山さんは、国家は目的ではなく、国家は手段であるという、ヨーロッパ統合の先駆者クーデンホフ・カレルギーの言葉を引用し、安倍政権の国家主義的傾向を批判しました。

また、人間が市場の手段になっているという、社会学者アミタイ・エツィオーニの言葉を引用し、小泉政権以来、安倍政権においても続く、市場経済万能の新自由主義的傾向を批判しました。

その上で、鳩山さんは、この研究会を通じ、安倍政治に対置する新しい政治理念を打ち立てて行きたいとおっしゃいました。

研究会では、小林教授から、友愛と公共、コミュニタリアニズム的な「善き政治」について講義があり、公共と共和主義、対話、ネクスト(善き社会、善き政治)、民主主義、ナショナリズム、政党、憲法と憲政、熟議との関係について説明がありました。


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(首藤信彦さんと鳩山友紀夫(由紀夫)さん)


講義のあと、参加者との質疑応答の時間が設けられました。参加者から、質問やコメントが行われました。

私からは、下記の質問・コメントをさせていただきました。

「今回、この研究会を開催いただきまして、ありがとうございます。この研究会を通じて、新しい政治理念が生み出され、新しい運動につながることを期待しております。

小林先生が、お話の初めの方で触れられたんですが、会話と対話の違い、すなわち、対話は価値観の違う者の間での話し合いであって、民主主義では最終的に多数決で決めることになるという点に関してなんですが、民主主義の下においては、必然的に多数派と少数派が生まれるわけですけれども、ただ、その場合、必ずしも多数決の原則だけで物事を決めるべきではないような気がいたします。

と言いますのも、現在の与党政権を見ていますと、あまりにも多数決の原則を使い過ぎている、多数決の濫用になっていると思うんですね。

民主主義は多数決の原則だけではない。本来、民主主義の下においては、「多数決の原則と少数者の権利の保護」なんですね。多数派の利害だけでなく、少数派の利害も加わるような形で、妥協策を追求することが必要であると思います。多数派の利害と少数派の利害が両立するような、新しい「仕組み」を考えることが大切であると思います。

現在の与党政権は、少数派の利害を全く考慮せず、ひたすら数の論理で押し切る、多数決で押し切るという姿勢です。これは多数の横暴であり、民主主義の否定、民主主義の破壊です。

たとえば、アメリカで憲法が制定される際、小さな州は各州同じ数の代表が選出されることを求めたのに対し、大きな州は人口数に応じて代表が選出されることを求めて、対立したときに、最終的に上院は各州から同じ数の代表を選出し、下院は人口数に応じて代表者を選出することで妥協が成立しました。「GREAT COMPROMISE」、大いなる妥協と呼ばれるそうなんですが、それがなければ憲法制定会議は決裂していたそうです。アメリカでは、憲法制定の際にも妥協が大きな役割を果たしました。

これに対し、日本では、妥協という言葉にネガティブなイメージがあって、妥協するなとか、一歩も引くな、妥協せずに頑張れとか言われるんですが、実は、民主主義においては妥協こそが大切であって、古代ローマ時代から、妥協こそが政治の知恵なんですね。妥協と言っても、足して二で割るのではない。多数派の利害と少数派の利害が両立するような、新しい「仕組み」を考えることが大切であると思います。

多数派と少数派は敵ではないんですね。同じ共同体の構成員です。コミュニタニアリズムの精神に基づき、多数の横暴を続ける安倍政権に対抗する、新しい政治理念、すなわち妥協を追求する政治理念を生み出していただければと思います。小林先生からコメントをいただけましたら、幸いです。ありがとうございます。」

私の発言の直後、首藤信彦さんから、「全く同感です。」というご感想をいただきました。また、小林教授から、熟慮民主主義についてのご説明がありました。

小林教授の講義のあと、鳩山さんから総括のスピーチがあり、鳩山さんの祖父である故鳩山一郎首相が、友愛という言葉の意味を説明する際に、友愛とは、すばわち「相互尊重、相互信頼、相互扶助」である、と話されていたというご紹介がありました。

また、鳩山ご自身さんは、友愛という言葉の意味として、「自立と共生」ととらえ、自分を愛するように他者を愛することである、とおっしゃられていました。

次回研究会は、7月中旬に開催されるそうです。

日本政治だけでなく、国際政治の混迷をも打開する、新しい政治理念と運動が、この研究会から生まれることが期待されます。


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P.S. ちなみに、今回、私は、研究会の会場である会議室に、研究会の開始時刻より1時間早く到着したのですが、その際、鳩山事務所の方は階下のロビーで待機し、鳩山さんがお一人で会議室で準備作業をされていました。そこで、鳩山さんとご一緒に準備作業をさせていただいたのち、鳩山さんがロビーに向かうためにご一緒に廊下に出た際、私から、「鳩山さんが理事長を務める東アジア共同体研究所について、ふたつご提案があるのですが、今あるいは研究会のあとで、お伝えさせていただいてもよろしいでしょうか。」とお尋ねいたしました。すると、鳩山さんが、「じゃあ、今。」とおっしゃってくださり、会議室に戻り、椅子に座り、光栄なことに、二人きりで、じっくりお話をさせていただく機会をいただきました。

初めに、私から、研究会を開催していただいたことに対して感謝の気持ちをお伝えしたあと、東アジア共同体研究所に関して、以下の通り、ふたつのご提案をさせていただきました。

「まず第一に、東アジア共同体研究所は沖縄事務所をお持ちだと思うんですが、沖縄事務所を、ぜひ文民統制研究のセンターにしていただければ、と思っております。

沖縄県民のみなさんほど、軍隊に裏切られ続けたみなさんはいないと思います。先の大戦中、沖縄の日本軍は、本土決戦の時間稼ぎのために、降伏を遅らせ、その結果、沖縄戦で亡くなった19万人の半数が、軍人でなく、沖縄県民のみなさんという事態を生んでしまいました。さらに、戦後はアメリカ軍が駐留し続け、現在、地元の反対にもかかわらず、辺野古に新しい基地が建設されようとしています。

そのため、軍隊が一体誰のためのものなのか、本当に国民のための軍隊なのか、という矛盾・憤りを沖縄県民のみなさんは、強く感じられていると思います。であるからこそ、文民統制研究の拠点として沖縄が相応しいと思います。基地の建設に反対するだけでなく、軍隊を国民がコントロールするために、何をするべきなのか、どうすれば軍隊を民主的にコントロール出来るのか、という研究を行う拠点として沖縄が相応しいと思います。

さらに、沖縄はアジア諸国に距離的に近いため、アジア諸国から文民統制の専門家のみなさんをお招きし、文民統制に関する研究や情報交換をしていただくことも可能です。ぜひご検討いただけましたら、と思っております。」

日本では、文民統制に関する文献もほとんどありません、とお伝えしたとき、鳩山さんは、「そうなんですか。」と印象的に感じていらっしゃるようでした。

東アジア共同体研究所の沖縄事務所を文民統制研究のセンターにするというご提案に関し、鳩山さんからご同意をいただき、「東アジア共同体研究所に言っておきます。」というお言葉をいただきました。

引き続き、ふたつ目のご提案をいたしました。

「第二に、東アジア共同体研究所は、東アジア共同体の構築が目的であると思うんですが、その要素として、あるいは、その過程において、東アジア共同体研究所から、新しいアジアの安全保障の枠組みをご提言いただければと思っております。日米安保条約体制に代わる、中国、アメリカ、アジア諸国による集団安全保障の枠組みをご提言いただければと思っております。

日米安保条約体制は、冷戦時代の枠組みです。もう耐用年数を過ぎています。中国を敵視するのでなく、中国の影響力を認め、中国にもアジアの安全保障に責任を持ってもらう、責任を分担してもらうということが必要であると思います。すなわち、中国、アメリカ、アジア諸国による集団安全保障の枠組みが必要であると思います。アメリカの安全保障の専門家の間でも、そのような議論があるそうです。

しかしながら、日本では、与党はもちろん、野党も立憲民主党に至るまで、日米安保条約体制維持の立場です。民間のシンクタンクでも、日米安保条約体制に代わる枠組みを提案しているところはありません。そのため、ぜひ東アジア共同体研究所から、中国、アメリカ、アジア諸国による集団安全保障の枠組みをご提言いただければ、と思っております。」

これに対し、鳩山さんから、「国連の集団安全保障では国連軍が創設されることが想定されているが、まだ実現されていない。」というコメントがありました。それに対し、私から、「であるからこそ、アジアという地域において、実効性のある集団安全保障を構築することが大切だと思います。」とお伝えしました。

また、鳩山さんから、「EUでは共同軍がありますよね。」というコメントがありました。それに対し、私から、「アジアで、中国、アメリカ、アジア諸国による集団安全保障が実現すれば、たとえば、津波や地震の災害救助の際、中国の人民解放軍、アメリカ軍、自衛隊が、共同で対処することが出来ます。」とお伝えしました。

これに関し、鳩山さんから、「アメリカが残る形、アメリカが加わる形で、アジアの安全保障が維持されることが理想である。」というコメントがありました。それに対し、私から、「アメリカを排除するのでなく、中国、アメリカ、アジア諸国による集団安全保障が望ましい。」とお伝えいたしました。

今後も引き続き、そして、より具体的に、上記ふたつのご提案を、鳩山さん、そして、東アジア共同体研究所に対し、働きかけて行こうと思っています。