【南北会談において北朝鮮側から朝鮮半島非核化の条件が提示されることが中国・アメリカを加えた本格協議への移行の鍵となることについて ーー 南北間対話の進展と6カ国協議、「一帯一路」と朝鮮統一】

1. 平昌オリンピックと南北会談の開始

北朝鮮の金正恩委員長が、1月1日の年頭演説で、韓国で開催される平昌オリンピックに代表選手を派遣することを発表、それを受け、両国間で閣僚級会談が行われ、南北間の対話ムードが拡大しています。すでに平昌オリンピックへの北朝鮮代表団の参加、開会式での北朝鮮・韓国合同の行進などが決定されています。

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今回、北朝鮮が、アメリカに対する強硬姿勢から一転して韓国に対する対話姿勢へ変化した理由は、北朝鮮がアメリカ本土を攻撃出来る核兵器と弾道ミサイルの開発を完了したからです。

北朝鮮の移動式弾道ミサイルは、地下トンネルと山岳地帯に隠されており、アメリカは、軍事力を使って、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルを取り除くことは出来ません。そのため、もしアメリカが北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮は、アメリカ本土に対して核ミサイルによる報復攻撃を行うことになります。報復を恐れるアメリカは、北朝鮮を攻撃出来ません。

北朝鮮が大気圏再突入の技術を得ているかは不明ですが、もし得ていないとしても、北朝鮮は、アメリカ上空の大気圏外で核兵器を起爆し、「電磁パルス攻撃」を行うことが可能です。電磁パルスによりアメリカの電力網・通信網・経済システムが破壊され、最悪の場合、アメリカの全人口の90%が餓死すると予想されています。[1]

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一方、アメリカは、カナダのバンクーバーで、国際会議をカナダと共同開催し、北朝鮮に対する制裁強化の必要性を強調しました。会議には朝鮮戦争 (1950年〜1953年) に参加・支援した20カ国が招集され、海上阻止行動を含む制裁強化を話し合いました。

ただ、会議に招集された国々の中には、ギリシャやコロンビアなど、およそ朝鮮半島情勢とは関係のない国が含まれており、アメリカ外交の手詰まり感が示されました。中国およびロシアは、会議に参加しませんでした。

南北間対話の開始を受け、アメリカは、平昌オリンピックおよび南北間対話の間は、米韓合同軍事演習を行わないと発表しました。今後、もしアメリカが米韓合同軍事演習を再開すれば、対抗上、北朝鮮も、核実験と弾道ミサイル実験を再開することになるでしょう。その場合、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの開発がさらに進むことになります。その結果、北朝鮮は、核ミサイルの多弾頭化や大気圏再突入の技術を得ることになるでしょう。


2. アメリカと中国を加えた本格協議への移行の見通し

いずれにせよ、3月のパラリンピック終了までは、米韓合同軍事演習は実施されません。また、3月以降においても、韓国がアメリカに対し、合同軍事演習の延期を要請すれば、合同軍事演習は、さらに延期されることになります。

そのため、その期間内に、どれだけ南北会談が進展するかが、きわめて重要となってきます。その期間内に、どれだけ南北会談が進展するかが北朝鮮問題の外交的解決の鍵となります。

当面、南北間で、スポーツ交流、文化交流、人道支援、経済協力などについての話し合いが行われるものと思われます。南北離散家族の再会についても話し合いが行われるでしょう。

そして、南北会談の過程で、もし北朝鮮から、朝鮮半島非核化の条件として、北朝鮮とアメリカの間の平和条約の締結、在韓米軍の撤収、アメリカの北朝鮮への不可侵の保証、朝鮮半島全体の非核兵器地帯化などの提案があれば、アメリカや中国を加えた本格的な協議へ移行することが考えられます。

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その際、本格的な協議は、6カ国協議となるかも知れません。あるいは、中国、北朝鮮、韓国、アメリカの4カ国の協議になるかも知れません。

本格協議の内容として、北朝鮮側からは、アメリカが北朝鮮と平和条約を締結すること、在韓米軍を撤収すること、アメリカが北朝鮮への不可侵を保証することなどが要求されることになると思われます。アメリカ側からは、北朝鮮が核兵器を放棄すること、北朝鮮国内における基本的人権の尊重を含む民主的措置の実施などが要求されることになると思われます。また、韓国から朝鮮半島の非核兵器地帯化の提案が行われるかも知れません。中国から北朝鮮に対し経済支援と「一帯一路」への参加の提案が行われるかも知れません。[2]

ただ、問題となるのは、現在、トランプ政権には、優秀な外交官がいないことです。アメリカ国内の国際協調派の優秀な人材は、トランプ政権への協力を拒否しています。そのため、トランプ大統領がアメリカ国内の国際協調派と和解し、優秀な人材を政権に迎い入れるか、あるいは、異例ですが、中間選挙以降、上院の外交委員会が、北朝鮮との協議を実質的に監督・主導することになるかも知れません。

トランプ政権での決着が難しい場合、本格協議が断続的に継続され、アメリカの次の政権で最終合意に到達することになるかも知れません。

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なお、平和条約の締結、在韓米軍の撤収となれば、その後の朝鮮統一へのロードマップも必要となってくると思われます。

東西ドイツの統一、南北ベトナムの統一が、ある程度参考になるかも知れません。東西ドイツの統一においては、冷戦にアメリカが勝利し、ソ連軍が東ドイツから撤収したあと、西ドイツの政治システムで統一が実現しました。南北ベトナムの統一においては、ベトナム戦争に北ベトナムが勝利し、アメリカ軍が南ベトナムから撤収したあと、北ベトナムの政治システムで統一が実現しました。

これに対し、朝鮮半島情勢においては、いずれかの側が勝利したという状況にありません。そのため、南北朝鮮統一においては、北朝鮮あるいは韓国のいずれかの国家制度で統一するのでなく、ゆるやかな連邦制を採用し、当面、北朝鮮および韓国のそれぞれの政治システムを維持したままでの統一を行うことが望ましいと思われます。中国およびアメリカが、それぞれ、韓国の民主制度の維持の保証・北朝鮮の政権の維持の保証を行うことが必要です。

その上で、北朝鮮が市場経済を徐々に導入し、韓国の民主主義制度が維持されれば、北朝鮮の平和経済への移行と南北間の交流を通じ、少しずつ北朝鮮に民主主義の諸制度が浸透して行くことになると思われます。

ちなみに、現在、中国の「一帯一路」政策は、北東アジアにも及び、中国、モンゴル、ロシアの間で、道路や鉄道網の整備が進み、経済的協力関係が進んでいます。北東アジアは、経済成長の大きな可能性を秘めています。[3]

韓国の文在寅大統領は、すでに中国の「一帯一路」政策を支持し、積極的に参加することを望むと表明しています。

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もし北朝鮮も「一帯一路」に参加し、経済復興が進めば、南北朝鮮統一へのハードルも下がることとなります。というのも、統一に反対する韓国国民があげる理由のひとつは、統一が実現した場合の経済的負担だからです。

そして、仮に南北朝鮮が統一すれば、「一帯一路」が、韓国南端の釜山にまで及ぶことになり、釜山から平壌、ウランバートルを経由してモスクワ、さらにヨーロッパまで陸路および鉄路でつながることになります。それは、通商・交易・金融を通じ、統一朝鮮に大きな経済的繁栄をもたらすことになるでしょう。逆に、それが、南北朝鮮統一への大きな経済的誘引となるでしょう。


3. 本格協議が決裂した場合

なお、もしアメリカがどうしても話し合いを拒否する場合あるいは本格協議が決裂した場合、事態は、アメリカの意向にかかわらず、中国、ロシア、北朝鮮、韓国の間で進展して行くことになると思われます。

中国とロシアも、朝鮮半島の非核化を目標としています。しかしながら、非核化の時期については明確にしていません。むしろ核保有国である中国とロシアは、北朝鮮が、これ以上核兵器と弾道ミサイルの開発を進め、核ミサイルの多弾頭化や大気圏再突入の技術を確立する事態だけは避けたいと考えていると思われます。

そのため、中国とロシアは、もしアメリカが対話を拒む場合には、北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発を「無期限停止」することを条件に、北朝鮮に対する制裁を解除し、北朝鮮に対する経済援助と経済交流の再開に動く可能性があると思います。

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もし北朝鮮が条件をのめば、中国とロシアは、北朝鮮の核兵器および弾道ミサイルの開発を「無期限停止」させるとともに、北朝鮮を「一帯一路」に巻き込むことが可能となります。それは、「一帯一路」の進展と北朝鮮の経済復興につながります。

上述したように、もし北朝鮮が「一帯一路」に参加し、経済復興が進めば、南北朝鮮統一へのハードルも下がることとなります。というのも、統一に反対する韓国国民があげる理由のひとつは、統一が実現した場合の経済的負担だからです。

そして、仮に南北朝鮮が統一すれば、「一帯一路」が、韓国南端の釜山にまで及ぶことになり、釜山から平壌、ウランバートルを経由してモスクワ、さらにヨーロッパまで陸路および鉄路でつながることになります。それは、通商・交易・金融を通じ、統一朝鮮に大きな経済的繁栄をもたらすことになるでしょう。逆に、それが、南北朝鮮統一への大きな経済的誘引となるでしょう。


参照資料:
(1) US Congressional Report "North Korea Nuclear EMP Attack: An Existential Threat", October 12th 2017

(2) "Understanding the North Korea threat" by Joseph S. Nye, The Strategist, December 7th 2017

(3) "North Korea and Beyond: An Alternative Vision of Northeast Asia" by Lyle J. Goldstein, The National Interest, December 28th 2017