【北朝鮮危機とアメリカ・ファーストおよび問題の外交的解決について】

北朝鮮の核兵器およびミサイル開発問題については、今後、軍事紛争が起こるケースと話し合いが行われるケースが考えられると思われます。

1. 朝鮮半島で軍事紛争が起こるケース

4月11日のブログ記事でお伝えしたように、アメリカが北朝鮮に対し先制攻撃を行うことは、軍事的に非常に困難を伴います。韓国の首都ソウルは、北朝鮮との国境からわずか40キロの距離に位置し、北朝鮮が長距離砲を使い、化学兵器や生物兵器で反撃すれば、数十万人の韓国市民が死傷すると見込まれるからです。さらに、日本にも北朝鮮の攻撃がおよび、多数の日本国民が死傷すると考えられます。

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しかしながら、もしアメリカのトランプ政権が、アメリカの国益のみを優先させ、アメリカ・ファーストを徹底するならば、たとえ韓国市民や日本国民に多くの死傷者が出ると分かっていても、あえて軍事力の行使を決断するかも知れません。主に3つの理由が考えられます。

(1) アメリカ本土、アメリカ国民を守るために北朝鮮に対し軍事力の行使を行うということが考えられます。北朝鮮の核兵器およびミサイルの開発が進めば、アメリカ本土が北朝鮮の核ミサイルの射程に入ります。世論調査によると、アメリカ国民の過半数が北朝鮮に対する軍事力の行使に賛成しています。[1]

(2) 核の拡散を防ぐために北朝鮮に対し軍事力の行使を行うということが考えられます。北朝鮮の核兵器およびミサイル開発を放置すると、核兵器を保有すればアメリカは攻撃出来ないという北朝鮮の主張が証明され、他の国々も核兵器の保有へ向かうことになります。また、北朝鮮から他の国々に核兵器およびミサイルの技術が流出することも考えられます。

(3) 副次的な理由として、朝鮮半島で軍事紛争が起これば、多数の難民が中国に流入し、中国の東北部を中心に社会的・経済的混乱が拡がり、中国共産党政権の政治的不安定性につながるということが考えられます。

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ただし、たとえアメリカが北朝鮮に対する軍事力行使を決断した場合でも、軍事紛争は、まず北朝鮮がアメリカを攻撃し、アメリカがそれに応戦する形で始まると思われます。北朝鮮が攻撃を始めたのであれば、韓国も、日本も、アメリカの応戦を受け入れざるを得ないからです。

たとえば、もし仮に北朝鮮がミサイル実験を行い、自爆装置が何らかの理由で作動しなかった場合、ミサイルがアメリカの空母打撃群の展開している海域に着弾すれば、それが紛争の引き金になるかも知れません。

また、アメリカ軍の艦艇(または米艦防護を行っている自衛艦)が原因不明の爆発を起こし、沈没した場合、アメリカは、これを北朝鮮の攻撃によるものと断定するかも知れません。

あるいは、北朝鮮に対する経済制裁・金融制裁が進み、北朝鮮が国際的に孤立し、石油の供給も事実上ストップした場合、北朝鮮が攻撃に追い込まれるかも知れません。

いずれにせよ、北朝鮮が攻撃した場合、アメリカは、韓国市民に退避の要請をし、海上勢力・航空勢力の増派をした上で、北朝鮮に対し、大規模な攻撃をかけることになるでしょう。

朝鮮半島で大規模な戦争が起これば、韓国はもちろん、日本においても、多数の死傷者が生じることになります。また、中国も、政治的・経済的に大きな負担を強いられることになります。

東京に北朝鮮の核ミサイルが着弾すれば、42万人が死亡し、生物兵器(炭疽菌)を搭載したミサイルが着弾すれば、186万人が死亡するというシュミレーションもあります。[2]


2. 話し合いが行われるケース

上記のような軍事紛争を避けるため、北朝鮮の核兵器およびミサイル開発問題は、外交を通じ、話し合いによって解決されるべきです。

報道によると、ノルウェーで行われた北朝鮮高官とアメリカ有識者との非公式協議のあと、北朝鮮の高官は、条件が整えば、北朝鮮は対話を行うと発言したそうです。[3][4]

韓国では、北朝鮮との対話に前向きな文在寅大統領が就任しました。[5]

トランプ大統領も、条件が整えば、北朝鮮の金正恩委員長と会談すると発言しています。[6]

中国は、今後3年間、北朝鮮が核実験とミサイル実験を停止する一方、アメリカと韓国は大規模な軍事演習を行わないとする、いわゆる「DUAL SUSPENSION」を提案しました。ロシアは、この中国の提案に賛成しています。[8]

さらに、中国は、「一帯一路」フォーラムに北朝鮮の代表を招待しました。先軍政治路線から並進路線に転換した北朝鮮にとって、「一帯一路」政策に参加することは、経済成長と国民生活の安定を実現させる可能性につながります。[9]

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アメリカと北朝鮮の2国間協議であれ、中国を含めた3国間協議であれ、あるいは、アメリカ、北朝鮮、中国、韓国、日本、ロシアによる6カ国協議であれ、話し合いを通じて、問題の解決をすべきです。北朝鮮とアメリカとの間の戦争状態を終結させ、両国間の平和友好条約の締結を実現させるべきです。

ただし、仮に話し合いが行われても、北朝鮮は核兵器の放棄を固辞すると思われます。もし北朝鮮が核兵器を保有し続けた場合、韓国や日本で核武装の議論が起こる恐れがあります。

そこで、北朝鮮に核兵器の放棄を認めさせるため、「北東アジア非核兵器地帯」を創設することが考えられます。

単に北朝鮮に対し核開発の中止を求めるのでなく、韓国や日本を含む、北東アジア全体を非核兵器地帯とすることを通じて、北朝鮮に核兵器を放棄させ、東アジアの平和と安定を実現して行くことが大切であると思います。

日本は、東アジアにおける経済大国です。朝鮮半島で軍事的衝突が起これば、日本は直接的な影響を受けます。そのため、日本政府、そして、日本国民は、軍事力の行使ではなく、外交による平和の実現を求める声を発信すべきです。


参照資料:
(1) "Fox News Poll: 53 percent favor military action to stop North Korea nukes program", April 27th 2017, Fox News

(2)「金正恩ミサイルに日本の死者186万人のシミュレーション エスカレートする挑発行動」、週刊新潮2017年4月20日号

(3) "US, N. Korea holding unofficial talks reportedly in Norway", May 8th 2017, The Korea Times

(4) "Senior North Korean diplomat says country is open to dialogue with U.S. under right conditions", May 13th 2017, The Japan Times

(5) "South Korea Elects Moon Jae-in, Who Backs Talks With North, as President", May 9th 2017, The New York Times

(6) "Trump: I'd be 'honored' to meet Kim Jong Un under right circumstances", May 1st 2017, CNN

(7) "Russia backs China's "double suspension" proposal to resolve N. Korea issue", April 30th 2017, Mainichi Shimbun

(8) "China says North Korea sending delegation to new Silk Road summit", May 9th 2017, Reuters