【日米首脳会談と中東、北朝鮮、南シナ海について】

2年前の訪米の際、安倍首相は、首相として初めてアメリカ連邦議会で演説を行うという厚遇を受けました。その際、安倍首相は、演説の中で、夏までに安保法案を成立させると約束、その後、国会で安保法案を強行採決しました。

今回も、安倍首相は、トランプ大統領との首脳会談に際し、異常なまでの厚遇を受けました。今後、アメリカが、日本に対し、後方支援、あるいは集団的自衛権の行使について、具体的行動を求めてくる可能性は高いと思われます。アメリカが要求すれば、安倍政権は、それを受け入れるでしょう。

三つの地域について、その可能性が考えられると思います。

まず第一に、中東地域における後方支援が考えられます。トランプ政権は、石油・ガス産業の利害を代弁しており、中東地域が不安定化した場合、アメリカ軍を支援するため、日本の陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊が、兵站・補給任務に派遣される可能性があります。

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第二に、日本が、日本へ飛来する弾道ミサイルを迎撃するだけでなく、北朝鮮からアメリカへ向けて発射された弾道ミサイルも迎撃すると宣言することが考えられます。集団的自衛権が根拠となります。

アメリカは、イラク戦争・アフガニスタン戦争で、数兆ドルの戦費を使い、現在、深刻な財政危機にあります。アメリカ国民の間には厭戦気分が広がり、地上軍の海外派兵は難しい状態です。このため、現在、アメリカの国家安全保障政策は、敵国とアメリカの同盟国とを戦わせる戦略(いわゆる「オフショア・バランシング(OFFSHORE BALANCING)戦略」)に移行しつつあります。

もし仮に、日本が、北朝鮮からアメリカへ向けて発射された弾道ミサイルも迎撃すると宣言した場合、日本の安全保障環境は大きく変わることになります。迎撃を嫌う北朝鮮は、弾道ミサイルをアメリカへ向けて発射する際、同時に日本への攻撃を準備することになるでしょう。予め原発などの施設に対し、テロ攻撃を行うかも知れません。

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また、逆に、日本も、予想される北朝鮮の攻撃を防ぐため、北朝鮮の基地に対する先制攻撃を準備するようになるでしょう。北朝鮮と日本が対峙し、いつでも戦争が起こり得る、一触即発の状態が恒常化することになります。

日本国内では、平和運動や反対運動が起こると思われますが、仮に共謀罪法案が成立すれば、平和運動や反対運動は弾圧されるでしょう。

第三に、南シナ海におけるアメリカ海軍と日本の海上自衛隊との共同パトロールが考えられかも知れません。

ただし、アメリカは、オバマ大統領の下、4回の航行の自由作戦を実施したのち、航行の自由作戦を行っておらず、4回目の航行の自由作戦では、アメリカ海軍艦艇は、中国の人工島の12海里内にも入りませんでした。

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他方、1月下旬、フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国に対し、フィリピン南部海域およびマラッカ海峡における海賊対策のため、共同で海上パトロールを実施することを要請しました。フィリピンは、すでにマレーシア、インドネシアと海賊対策で協力しているため、南シナ海において、中国と東南アジア諸国による合同パトロールが実現する可能性があります。中国は、人工島を各国パトロール船の補給基地として使うことも検討しています。

このような状況を受け、アメリカのマティス国防長官は、2月上旬、日本を訪問した際、南シナ海の問題については、外交努力が優先されるべきとコメントしました。さらに、稲田防衛大臣は、日本が航行の自由作戦に参加することはないと発言しました。

中東、北朝鮮、南シナ海の問題は、いずれも、軍事力ではなく、外交によって解決することが可能です。

民進党を始めとする野党は、(1) 中国との良好な外交関係を回復すること、(2) 東アジアの平和を維持するため、北東アジア非核兵器地帯の設置と、台中関係の平和的推移を実現すること、(3) 中東地域安定のための外交的枠組みを構築すること、(4) 各国・各地域と連携しつつ、持続的成長につながる再生可能エネルギー産業や電気・水素自動車関連産業を成長の柱とすること、(5) 拡大する中国消費市場の実需に基づき景気拡大を実現すること、を主張すべきです。

総選挙があれば、与党は必ず議席を減らします。一刻も早く総選挙を実施して政権を交代すべきです。平和主義と民主主義に立脚した新しい政権を樹立すべきです。


参照資料:
(1) "The Case for Offshore Balancing ー A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue

(2) "Philippines' Duterte asks China to patrol piracy-plagued waters", Reuters, January 31st 2017

(3) "Beijing should assume leadership role in controlling piracy in Asian waterways", The Global Times, February 3rd 2017

(4) "Mattis: ‘Exhaust All ... Diplomatic Efforts’ in South China Sea", VOA News, February 4th 2017

(5) 「南シナ海、米作戦に参加せず=稲田防衛相」、時事通信、2017年2月5日