【尖閣諸島をめぐる日中軍事衝突の可能性について】

安倍政権が発足して以来、特定秘密保護法成立、集団的自衛権容認の閣議決定、安保法制成立、憲法改正へと、急速に保守化・右傾化の流れが進んでいます。

安倍政権は、安倍首相の祖父が満州国政府の高官、副総裁の高村正彦の父親が特高課長、谷垣禎一前幹事長の義父が中国におけるアヘン売買の秘密工作を行っていた陸軍中将というように、戦前の軍国主義・中国侵略の流れを汲む政治家によって構成されています。

中国政府は、日本国民のみなさんが、自主的に、投票と民主主義的プロセスを通じて、保守化・右傾化の流れを変え、平和主義へと回帰することを期待していたと思います。

しかしながら、7月10日の参議院選挙は、改憲勢力が3分の2を超えるという結果に終わりました。

私が懸念するのは、参議院選挙の結果を見て、中国政府は、日本国民が自主的に平和主義に戻ることはない、と結論付けたのではないか、ということです。であるとすれば、中国は、日本に対し、対決的姿勢を強める可能性があります。

参議院選挙と東京都知事選挙のあと、尖閣諸島周辺に、中国の公船や漁船が多数現れています。

元々、尖閣諸島については、日中間で、領土問題を棚上げするという了解があり、何十年間もの間、紛争はありませんでした。しかしながら、2012年の日本政府による尖閣諸島国有化と棚上げ論放棄以降、尖閣諸島をめぐる日中間の対立が顕在化しています。


ちなみに、2016年に行われた、アメリカの最も有力なシンクタンクであるランド研究所のアナリストが参加したシュミレーションでは、仮に尖閣諸島をめぐり、日中間で軍事衝突が起こった場合、5日間で、中国軍が自衛隊を圧倒し、アメリカ軍は紛争のエスカレーションを避け、戦闘から退避するという展開が予想されています。以下、ご紹介させて下さい。[1]

シュミレーションのシナリオは、次の通りです。

1日目
日本の民族主義活動家集団が尖閣諸島に上陸し、尖閣諸島は、日本の不可侵の領土であると宣言。日本政府は、集団との関連を否定。

中国政府は、これを敵対的行動と認定、尖閣諸島へ武装警備艇と軍艦を派遣。中国海兵隊が尖閣諸島に上陸し、14名の日本人活動家を拘束、中国へ連行し、訴追すると発表。

2日目
日本政府は、自衛艦とF-15戦闘機を尖閣諸島へ派遣するとともに、アメリカ政府に対し、日米安全保障条約に基づく、対処行動を要請。
これに応え、アメリカ政府は、"日本本土"の防衛を実施するとともに、日本海近海に攻撃型潜水艦を展開。他方、アメリカの航空母艦は、弾道ミサイル・巡航ミサイルの攻撃を避けるため、西太平洋へ退避。

3日目
中国の警備艇が日本の漁船に接触、日本の漁船が沈没。日本の巡視艇が放水銃で反撃し、自衛隊の航空機が低空飛行で威圧。
中国のフリゲート艦が、自衛隊機に対し機銃掃射。これに反応し、自衛艦が中国軍艦へ発砲。
中国側が航空機と対艦ミサイルで反撃。数分のうちに、2隻の自衛艦が撃沈され、数百名の死者。
日本政府は、アメリカ政府に対し、支援を要請。これに応え、アメリカ軍は、攻撃型潜水艦を使い、中国の駆逐艦2隻を撃沈。

4日目
中国が、アメリカ・カリフォルニア州の電力網とNASDAQに対し、サイバー攻撃を実施。
一方、中国の弾道ミサイル・巡航ミサイルの攻撃により、日本の自衛艦に甚大な損害が生じる。

5日目
中国のミサイル攻撃により、海上自衛隊の戦力の20%が消滅。さらに、中国は、日本の経済中枢を攻撃。
より多くの中国軍艦を攻撃するようにとの日本政府の要請を、アメリカ政府は拒否。代わりに、アメリカ軍は、自衛隊の尖閣諸島海域からの撤収を援護。
中国政府は、勝利を宣言。


このシナリオで、注目すべきは、アメリカは、尖閣諸島をめぐる戦闘を自衛隊に任せ、アメリカ軍は、あくまでも"日本本土"を守る行動に専念するということです。これは最新の日米ガイドラインでも確認されており、アメリカは、尖閣諸島を守るために行動しません。

また、エアシーバトル・ドクトリンにおいて示され、このシュミレーションでも確認されましたが、紛争の際、アメリカの航空母艦は、中国の弾道ミサイル・巡航ミサイルの攻撃を避けるため、西太平洋へ移動、弾道ミサイル・巡航ミサイルの射程範囲の外へ退避します。[2]

このため、もしアメリカが戦闘に参加するとすれば、攻撃型潜水艦による攻撃になると予想されます。静粛性に優れたアメリカの攻撃型潜水艦は、ほぼリスク・フリーで攻撃出来ると考えられているからです。ただし、中国との紛争がエスカレートすることを避けるため、アメリカの攻撃型潜水艦による攻撃も、限定的なものになると予想されます。


現在、中国人民解放軍は、中国国民に対し、海域における人民戦争に備えよと呼びかけており、習近平政権は、軍および党内の強硬派を抑えきれない可能性があります。[3]

すでにロシアは、シリア戦線において、巡航ミサイルの威力を見せつけました。また、ヨルダン国境に近い、アメリカとイギリスの特殊部隊の基地を空爆しました。[4]

中国も、日本海で、中国本土に配備済みの1000発を超える弾道ミサイル・巡航ミサイルの威力を見せつける機会を待っている可能性があります。[5]

現在、アメリカは、大統領選挙を経て、政権移行期にあり、大規模な軍事行動を取りにくい状況にあります。アメリカ大統領選挙前後に、中国が尖閣諸島の実行支配に乗り出してくる危険性があるという指摘もあります。

上記のシュミレーションにもあるように、日中双方の軍艦が尖閣諸島海域に集結した場合、偶発的に戦闘が開始される危険性がきわめて高くなります。

手遅れにならないうちに、尖閣諸島の領土問題を棚上げし、日中間の外交関係を正常な状態に戻す必要があると思います。


参照資料:
(1) "How FP Stumbled Into a War With China — and Lost", Foreign Policy, January 15th 2016

(2) "AirSea Battle", Center for Strategic and Budgetary Assessments, 2010
(中国との紛争の際の、在日アメリカ軍の退避行動に関しては、本レポート53ページの「Withstanding the initial Attack」以降に詳述されています。)

(3) "China must prepare for ‘people’s war at sea,’ defense chief says", The Japan Times, August 3rd 2016

(4) "Russia Bombed Base in Syria Used by U.S.", The Wall Street Journal, July 21st 2016

(5) "The US-China Military Scorecard", RAND Corporation, 2015
(中国の弾道ミサイル・巡航ミサイルの配備状況については、本レポート51ページの図3.1が参考になります。)