【アメリカ大統領予備選挙と格差拡大について】

現在、所用でアメリカに滞在しております。ニューヨークに数日間滞在したのち、ワシントンDCへ移動する予定です。

これまで滞在中に接する機会のあった、アメリカ大統領選挙に関する報道や人々のコメントに関し、感じた印象をお伝えさせて下さい。

アメリカに到着した4月26日は、5つの州で大統領予備選挙が行われました。いわゆるスーパー・チューズデイのひとつです。

共和党の予備選挙では、ドナルド・トランプ候補が、5つの州全てで勝利しました。しかも、各州で、ほぼ6割の票を獲得するという圧勝でした。共和党の対立候補者テッド・クルーズ氏は、10%台の票しか獲得出来ませんでしたから、ほぼ3対1あるいは、4対1の完全勝利です。

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その日の夜、CNNの番組を見ると、看板番組の「Anderson Cooper 360」と「The Situation Room」とにまたがって、大統領予備選挙の報道が何時間にもわたって行われていました。

内容を見ると、総じて、トランプ氏に対し好意的で、トランプ氏に対する批判はほとんどありませんでした。投票結果を受けてのトランプ氏の自信たっぷりの演説の動画が繰り返し繰り返し放映される一方、対立候補クルーズ氏の動画は、全く放映されませんでした。

番組には、CNNの政治コメンテーターが、7人~8人出演していましたが、トランプ氏に対し、明確な批判を言うコメンテーターは、一人もいませんでした。むしろ、この勝利を受けて、トランプ氏は演説でこういうことを言うだろうとか、いやむしろこういうことを言うだろう、というように、視聴者のトランプ氏に対する関心を高めるようなコメントが多かったです。

番組後半では、対立候補のクルーズ氏が、元ヒューレット・パッカードCEO(最高経営責任者)のカーリー・フィオリーナ氏を副大統領候補に指名したことが伝えられましたが、そこでも、クルーズ氏の動画は放映されませんでした。

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さらに、番組の合間に、トランプ氏側の政治コマーシャルが何回も放送されました。トランプ氏が番組スポンサーの一人でもあるわけです。

この番組の内容を見ると、トランプ氏が予備選で勝利を続ける背景が分かるような気がしました。一言で言うと、トランプ氏は視聴率が取れる候補者だということです。トランプ氏は、テレビ番組の司会もしていたので、分かりやすい、短い文章でコメントすることが得意です。また、どういう過激なコメントをすれば視聴者に受けるか、ニュースが取り上げるかも良く知っています。一方、テレビ局の側も、視聴率を高めるためにトランプ氏の動画やコメントを伝えます。その結果、有権者もトランプ氏の情報に接する機会が増え、予備選でトランプ氏に投票することになります。


これに対し、民主党の大統領予備選挙では、本命のヒラリー・クリントン候補が予想以上に苦戦しています。26日のスーパー・チューズデイ前に行われた演説では、明らかに焦りの表情でした。ただ、26日の予備選挙で多くの州を獲得したため安心したのか、そのあと行われた演説では、自信と力強さが戻っていました。

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対立候補のバーニー・サンダース氏は、26日の予備選挙後に、仮に民主党の大統領候補になれなくとも、民主党の政策に影響を与えられれば満足だ、と発言。若干、ポジションをシフトしたと報じられました。

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私は、個人的に、共和党予備選挙におけるトランプ氏の躍進も、民主党予備選挙におけるヒラリー・クリントン氏の苦戦も、同じコインの裏表だと思っています。底流には、格差の拡大によるアメリカ国民の不満が存在しています。

民主党予備選候補者のサンダース氏は、長年、富の集中と格差拡大の問題について発言し続けてきました。それが若い世代を中心とする有権者に受け、高い支持を獲得、クリントン氏に対し互角に近い善戦を行っています。

また、共和党予備選候補者のトランプ氏について、裕福な方やIT産業の方など、いろいろなみなさんとお話をしましたが、総じて言えることは、アメリカ国民は、トランプ氏がCRAZYだということを十分分かっているということです。誰に聞いても、みなさん、トランプ氏はCRAZYだ、という答えが返ってきます。それでも、トランプ氏が予備選で高い得票を得ているのは、アメリカ国民が現状に不満や怒りを感じ、その不満や怒りを表現するために、過激発言のトランプ氏を利用していると考えることが出来ると思います。

最終的には、ファースト・レディー、上院議員、国務長官を経験・歴任した民主党のヒラリー・クリントン氏が大統領になると思われますが、いずれにせよ、次のアメリカ大統領は、格差是正や所得再分配のため、思い切った政策を打ち出すことが必要になると思われます。