【統合幕僚長解任および防衛大臣辞任の必要性について】

民主主義の下、政治と軍の関係は、文民統制の原則によって規定されます。

民主主義の下、国家安全保障に関する問題は、選挙で選ばれた国民の代表(政治家)が、外交・軍事・経済・財政等々を総合的に考慮した上で、決定を行い、目的を設定します。

一方、軍人は、政治家に対し軍事に関して助言を行い、そして、政治家が設定した目的を実現するために、その専門的知識と技術を適用します。

政治家が、国家安全保障について決定を行うのは、必ずしも彼らが軍人より優秀であるという理由に基づくものではなく、政治家は国民の代表であり、したがって、国民に対し政治的責任を負うからです。国家安全保障に関し、最終的決定権を持つのは国民です。国民は、政治家の行った決定あるいは目的設定に不満がある場合、選挙を通じ、政治家を取り換えることが出来ます。

武器・兵器を有する軍が、政治的判断を行い、政治的発言を行うと、それが威嚇的効果を持ち、民主主義的な政治プロセスが破壊され、国民の権利と自由が失われることにつながります。そのため、民主主義の下、軍は、政治的中立を保ち、政治から切り離される必要があります。

今回の河野統合幕僚長の行動が、報道されている通りだとすれば、解任に値します。河野統合幕僚長は、明らかに軍事に関する専門的知識の範囲を逸脱し、政治的発言・政治的行動を行っているからです。

安全保障に関する立法、および、その成立見通しは、まさに政治的判断を要する政治的問題です。

また、予算に関する事項も、政治的判断を要する政治的問題です。

さらに、オスプレイなど装備に関する発言にも問題があります。軍人は、政治家が配備決定した装備を前提とし、政治家が設定した目的を達成するため、これを運用する立場にあります。どのような装備を配備するかは政治家が判断し、決定します。

統合幕僚長は、これらの事項について尋ねられても、それは防衛大臣あるいは防衛副大臣の所管事項であると答え、発言を控える義務があります。

今後、自衛隊の統合幕僚長が各国を訪問する際は、必ず防衛大臣あるいは防衛副大臣に随行する形で行われるべきです。防衛大臣あるいは防衛副大臣が国家安全保障に関する発言を行い、統合幕僚長は、あくまでも防衛大臣あるいは防衛副大臣を補佐する立場で、補足的に発言すべきです。

そして、自衛隊とアメリカ軍を始めとする各国軍隊との情報交換は、あくまでも軍事に関する専門的・技術的内容に限定されるべきです。

今回、本来あるべき文民統制を怠った中谷防衛大臣も、責任を取って辞任すべきです。

野党は、違憲の安保法案を推進し、文民統制を怠った安倍内閣に対し、内閣不信任案を提出すべきです。

また、文民統制の原則を無視し、統合幕僚長に政治分野の見解を求めたアメリカ軍およびアメリカ政府に対し、日本政府は、外交ルートを通じ、正式に抗議を行うべきです。


参照資料:
(1) 「河野統合幕僚長の主な訪米時発言」、2015年9月3日、時事通信

(2) 「安保法案『統幕長が成立見通し』」、2015年9月2日、ロイター

(3) An Essay on Civilian Control of the Military, By Richard Kohn, March 1997