【野党が国民のみなさんに選択肢を示す必要性について ー その4】

小選挙区制では、浮動票の行方により、選挙ごとに、各党の議席数が大きく振れます。このため、次の総選挙で、与党が大きく議席数を減らす可能性があると思います。野党が、有効な対立軸を立てることが出来るか、国民のみなさんに選択肢を示せるかどうか、にかかっていると思います。

ちなみに、報道によると、与党に不安・不満を感じるが、受け皿となる野党がないとする有権者の方が多いようです。しかしながら、民主主義の下、政治を主導するのは、政治家ではなく、国民のみなさんです。気に入ったメニューが提供されるまでじっと待つのでなく、政党・政治家に対し、国民のみなさんが積極的に提言・批判・助言を加え、自分たちが望むような方向に政党・政治家を導き、また、選挙のあとも、政党・政治家を不断に監視・監督し、仮に政党・政治家が力不足で失敗すれば、これを助け、補正することが大切です。

以下、各争点ごとに、対立軸・選択肢を検討させて下さい。

1. 安全保障・憲法
安倍首相は、来年の通常国会で、集団的自衛権関連法案を説明出来ない状態だと思います。安倍首相は、靖国神社参拝、河野談話検証、秘密保護法制定、などに表れているように、あまりにも民族主義的・非民主主義的であるため、国民の不安を招き、日韓関係も破綻し、アメリカは、アジアにおける安全保障政策の絵が描けない状態です。このため、仮に与党が総選挙で議席数を大きく減らした場合、与党執行部の責任論が浮上、安倍首相から石破茂氏へ総理を取り換える事態もあるかも知れません。その上で、一部野党を取り込み、集団的自衛権関連法案の制定、憲法改正を進めるかも知れません。

ちなみに、11月4日のアメリカ中間選挙では、共和党が上下両院で多数を占めましたが、これに先立つ9月、CHENEY元副大統領が共和党議員の集会に出席し、共和党内に拡がりつつある孤立主義に釘を刺し、軍事力の強化とイスラム国掃討に言及したそうです。日本に対し自衛隊派遣の要請が来るかも知れません。[1]

また、今月、急遽、アメリカの国防長官に任命されたASHTON CARTER氏は、BUSH政権当時、北朝鮮に対する先制的・限定的空爆を進言しました。朝鮮半島有事が起こるかも知れません。[2][3]

このような状況の下、野党は、現在のように、ただ受動的に与党に反対するというだけでは不十分だと思います。国民にアピールする代替案が必要です。国民のみなさんは、自ら安全保障政策を判断し、決定したいと思っています。そのため、国民のみなさんの声がより安全保障政策に反映されるよう、現行憲法をより民主化するという能動的な対抗軸を立てるべきだと思います。

なお、現行憲法の条文を、9条も含め、全て維持しつつ、情報開示など、新たに民主的な文民統制の規定を加えるという憲法改正試案を作成いたしましたので、ご参照いただけましたら幸いです。今夏、ハーバード大学の教授・講師のみなさんの指導の下、作成した論文の文末資料として添付したものです。下記URLで、ご参照いただけます。

オリジナルの英語版の論文は、こちらでご参照いただけます。

論文の日本語訳は、こちらでご参照いただけます。

もし、総選挙の結果、現在の与党政権が安定多数の議席を獲得すれば、次期通常国会末に、集団的自衛権に関する法案が提出され、十分な議論・説明がないまま、強行採決されるでしょう。昨年7月の集団的自衛権に関する閣議決定が維持され、曖昧な行使要件が維持されます。そして、法整備が整えば、集団的自衛権は、すぐに発動されるでしょう。秘密保護法によって、情報開示も制限されます。

集団的自衛権に関しては、これまでイメージ的に、周辺国の軍事力の拡大がしばしば根拠とされていますが、実は、日本自体の防衛は、従来の個別的自衛権でカバーされています。これに対して、集団的自衛権の発動とは、日本本土から離れた海外の様々な地域に自衛隊を派遣して、武力行使することを意味します。周辺国の軍事力拡大に対する恐れが、いつの間にか、日本が海外における武力行使に向かうことに利用されているわけです。この論理のすり替えに多くの日本人のみなさんは気付いていません。残念ながら、日本国民のみなさんは、自衛隊が実際に海外で武力行使する現実を見るまで、集団的自衛権の本当の意味を理解出来ないのかも知れません。海外における武力の行使は、様々なリスクをもたらすだけでなく、甚大な財政負担となって、国家財政を破綻させることは、過去の各国の事例が示す通りです。それでなくても、日本の国家財政は、すでに危機的状況です。不十分・不正確な議論によって、国家安全保障政策を決定することは、必ず将来の大きな禍根につながります。

与党政権は、中東やアフリカで武力を行使することを通じ、日本の周辺諸国を威嚇・牽制したいのかも知れません。あるいは、朝鮮半島有事を想定し、米軍との連携を強化したいのかも知れません。しかし、武力と威嚇に頼る行動は、相手側の報復とエスカレーションを生み、必ず想定外の結果を招くことになるでしょう。日本は、先の大戦で、それを学んだはずです。

現在、与党政権は、周辺諸国との対決姿勢を強めることを安全保障政策の基本としていますが、それが本当に日本および東アジアの平和と安定につながるのか、慎重な吟味が必要です。紛争になった際のリスクとコストがきわめて高いからです。朝鮮半島有事の際は、日本が戦場になる可能性があります。相手側の報復が長期に及ぶ可能性があります。通商、資本市場、金融市場などへの悪影響も計り知れません。

野党は、集団的自衛権発動にともなうリスクとコスト、および、周辺国との紛争にともなうリスクとコストを、詳細かつ具体的に分析し、政府に提示するとともに、国民に伝える必要があります。最悪の場合、一般市民を含む多数の人命損失、そして、莫大な経済的損失が生じることが予想されます。

ほとんど全ての国際問題は、外交によって解決します。野党は、外交による安全保障の確保を最大限追求すべきです。イスラム国を含む、中東の紛争も、武力では解決しません。政治解決のみが唯一の解決方法です。北朝鮮とは6カ国協議を再開すべきです。中国との関係悪化も、外交で解決可能です。

2. 外交
APECにおける日中首脳会談前に発表された、日中合意文書は、典型的な官僚作文であり、日中それぞれが自国に都合良く解釈し、国内向けに説明するための、表面的な、単なるつじつま合わせにしか過ぎませんでした。尖閣問題も、靖国参拝問題も、日中間の問題は全く解決していません。

大切なことは、政治が大局を見て、大きな決断をすることだと思います。2、3年先のことを考えるのでなく、20年先、50年先の世界を見透すことが必要だと思います。

20年先、50年先には、中国とアメリカがスーパーパワーとなっていることが予想されます。同時に、情報化の進展と分散型エネルギーの普及を通じ、各国中央政府の権力が弱まり、地方政府の力が強まっていることが予想されます。日本の高齢社会化・人口減少も一層進んでいるでしょう。

そのような状況を前提とした場合、日本の外交方針は、その時その時で、中国寄りになったり、アメリカ寄りになったりするのではなく、「米中が21世紀の建設的・協力的な二国間関係を形成・維持するにあたり、これを一貫して側面から支援する」ということに重点を置くべきだと思います。

これを実現するためには、アメリカの国益、中国の国益を、細部に至るまで、正確に理解する必要があります。そして、その理解に基づき、日本から、双方の国益が充たされる建設的な提案を行ない、日本の出来る範囲でひとつひとつ着実に実行して行くことが必要だと思います。

日本が行なう提案の中には、北朝鮮の国際社会への参加や朝鮮半島の統一、アジアの安全保障実現へ向けての米中の軍事的・外交的協力、北東アジア非核兵器地帯の実現、地球温暖化対策における技術的支援、再生可能エネルギー普及へ向けてのAPECや発展途上国における米中日の協力推進、よりオープンで民主主義的な統治の実現、等々が含まれると思います。

3. エネルギー政策
野党は、これまで通り、脱原発を主張すべきだと思います。また、石油・天然ガスは、価格の振れが非常に激しいです。シェールオイル・シェールガスの供給過剰により、現在、一時的に価格は低迷していますが、多数の業者が淘汰されたのち、価格高騰の時代が来ることが予想されます。

このような状況の下、野党は、再生可能エネルギーの普及を加速させるため、再生可能エネルギー法を改正し、電力会社に、再生可能エネルギー電力の優先的買い入れ、および、電力系統の拡充を義務付けるべきだと思います。先に九州電力等が実施した、再生可能エネルギープロジェクトに対する系統接続保留は、逆にスマートグリッドを実用化する、ビジネスチャンスだと思います。各電機メーカーが、スマートグリッド技術を蓄積することで、発展途上国へのインフラ輸出にもつながります。

各県・各市町村は、再生可能エネルギーの普及に前向きです。地方の景気浮揚・雇用拡大につながるからです。野党が再生可能エネルギー普及促進を主張することは、地方政府・地方議会との連携を強め、来年の統一地方選挙を有利に戦うことにつながります。[4][5]

4. 沖縄基地問題
11月16日に実施された沖縄県知事選挙では、普天間基地の辺野古移設反対を公約とする翁長雄志氏が勝利し、沖縄県民のみなさんの意思が明確となりました。与党政権は、前沖縄県知事の行なった埋め立て承認を根拠に、辺野古移設を強行する姿勢ですが、仮に強制代執行に及べば、沖縄県民のさらに強硬な反対を呼び、工事の行き詰まりや他の在沖縄米軍基地の運用にも支障が出る事態となるでしょう。

県民のみなさんの理解がなければ、基地の安定的な運用は不可能です。沖縄県知事選挙の結果を踏まえた、普天間代替案の再検討が必要だと思います。

また、軍事的観点から言っても、在沖縄基地は、巡航ミサイルによる攻撃に対し脆弱です。安全保障環境は急速に変化しています。紛争時に本当に辺野古基地が機能するのか、再検討が必要です。

5. 消費税増税
5%から8%への消費税増税が景気に与えた影響は深刻でした。10%への消費税増税の決定の前に、徹底した行政改革および議員定数削減を実施すべきだと思います。


参照資料:
(1) "Cheney Urges House G.O.P. to Abandon Isolationism", September 9th 2014, The New York Times

(2) "Current Top Pentagon Official Urged Bombing North Korea…When He Was on the Sidelines" by Mark Thompson, Time, April 3rd 2013

(3) "The Case for a Preemptive Strike on North Korea's Missiles" by Ashton B. Carter and William J. Perry, Time, July 8th 2006

(4)「関東地方知事会、再生エネ普及で要望へ インフラ整備など」日本経済新聞、2014年10月23日

(5)「『空押さえ』解消を 県が再生エネ買い取り中断で緊急提言へ」福島民報、2014年10月28日


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。

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