【集団的自衛権行使の新三要件に関する閣議決定撤回の必要性について】

7月1日の閣議決定で定められた集団的自衛権行使に関する下記新三要件は、ひとつひとつ厳しい言葉は使われていますが、幅がありすぎて曖昧です。

(1) 我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、
(2) これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、
(3) 必要最小限度の実力を行使すること

実際、衆議院予算委員会における審議で、野党委員が運用を質(ただ)してみると、首相は、新三要件を充たす場合として、ホルムズ海峡が機雷封鎖され、日本が経済的打撃を受ける場合も入る、アメリカとの同盟関係が毀損する場合も入る、と答弁しました。

しかしながら、たとえホルムズ海峡が封鎖されても、サウジアラビアから紅海へ至るパイプラインなど、ホルムズ海峡を迂回した石油の供給ルートが存在します。また、備蓄した石油を使用している間に、代替輸入先の確保や省エネなどの対策を施すことが可能です。

また、同盟関係の毀損は、きわめて主観的な概念です。米国連邦議会が同盟国日本の姿勢に懸念を示す委員会決議を行なっただけで、政府は、同盟関係の毀損の恐れありと判断するかも知れません。

しかも、首相は、個別の事情を見て、総合的に判断する、と何度も答弁しました。言い換えると、その時になってみないと分からない、ということかも知れません。非常に不安定です。15日の参議院予算委員会における審議では、南シナ海で紛争が発生した場合に、自衛隊を派遣する可能性も言及されました。

現在のような不十分な情報開示の下では、たとえいかに、文言上、限定的に集団的自衛権の要件を定めても、規範力がきわめて弱いと思います。その後の運用が、恣意的に行なわれる危険性がきわめて高いと思います。

閣議決定された集団的自衛権の新三要件は、抽象的で限定になっていません。具体的に事例に則した上で、非常に絞り込んだ形で集団的自衛権を認めるかどうかを、国会で検証していかなくてはいけないと思います。

抽象的な要件やイメージに基づいて議論するのでなく、具体的な事例に則し、実際の数字に基づき、現実のリスクおよびコスト(THE RISKS AND COSTS)を、包括的かつ率直に分析し、議論する必要があります。抽象的な要件や単純化されたイメージでは、現実のリスクやコストが見えなくなってしまうからです。

以上の事情に鑑み、新三要件に関する7月1日の閣議決定は、撤回されるべきだと思います。

そして、このような抽象的要件を定め、自衛隊の海外派兵を、事実上内閣の恣意的裁量に委ねようとする現政権は、国家安全保障に関し、政権担当能力がないと言わなければならないと思います。

野党は、国家安全保障会議(NSC)の四大臣会議を構成する、総理大臣、外務大臣、防衛大臣、官房長官に対する不信任決議案の提出を検討すべきだと思います。


参照資料:

「安倍首相、南シナ海派遣は総合的に判断=武力「必要最小」、状況で変化―参院予算委」、2014年7月15日、時事通信


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。