【国家安全保障政策に関する、与党政権の政権担当能力の欠如について】

1. 集団的自衛権の容認に関し、公明党が、事例についての党の立場の説明を止め、抽象的な要件についてのみ説明していることは、非常に問題があると思います。

おそらく、公明党は、党内向けには、機雷除去の事例について、実際に行なわれることはない、公明党は反対の立場であると説明しているのかも知れません。自民党が示した3要件が、抽象的であるため、いかようにも説明が出来るからです。

一方、自民党は、自らが示した3要件の下で、機雷除去を含む、8つの事例全てが実行可能と説明しているようです。自民党の石破幹事長は、自民党が示した3つの要件の下で、集団的自衛権に関する8つの事例全てに対処出来るという認識を示しています。

しかしながら、国家安全保障の問題について、そのような曖昧で、玉虫色の説明・解釈を行なうことは、絶対にあってはいけないことです。周辺各国だけでなく、同盟国にも誤解を呼びます。自衛隊の部隊運用にも混乱を招きます。

公明党は、地方組織・地方議員で成り立っている政党であると言われています。地方組織・地方議員からの厳しい批判を受け、最終的に、執行部が、公明党本来の平和の党としての立場へ回帰することを期待したいと思います。

2. 上記の事実が示すように、現在のような不十分な情報開示の下では、たとえいかに、文言上、限定的に集団的自衛権の要件を定めても、規範力がきわめて弱いと思います。その後の運用が、恣意的に行なわれる危険性がきわめて高いと思います。

与党で議論されている集団的自衛権の要件は、抽象的で限定になっていません。具体的に事例に則した上で、非常に絞り込んだ形でそれを認めるかどうかを、国会で検証していかなくてはいけないと思います。

抽象的な要件やイメージに基づいて議論するのでなく、具体的な事例に則し、実際の数字に基づき、現実のリスクおよびコスト(THE RISKS AND COSTS)を、包括的かつ率直に分析し、議論する必要があります。抽象的な要件や単純化されたイメージでは、現実のリスクやコストが見えなくなってしまうからです。

3. 一方、国連の集団安全保障に基づく武力行使(多国籍軍への参加)について、当初、首相は、5月15日の記者会見で、これを明確に否定しました。ところが、先週6月20日、与党間協議で、自民党側から、突然、国連の集団安全保障に基づく武力行使も容認すべきだとの主張がされました。これに対し、公明党が難色を示したため、自民党は、すぐに主張を引っ込めましたが、報道によると、なんと、その後6月27日、政府は、日本に対する武力攻撃が発生し、現行の「自衛権発動の3要件」を満たせば、自衛隊が国連の集団安全保障に基づく武力行使に参加できるとの答弁書を正式に閣議決定したそうです。

この事実が示すように、現在の与党政権の国家安全保障政策は、二転三転し、非常に場当たり的な印象を受けます。東アジアの安全保障環境やグローバルなパワーバランスに基づいて、理詰めで、客観的に必要性を議論するのでなく、とにかく主張するだけ主張して、もし認められるものがあれば、それを実行しようという姿勢のようです。非常に不安定です。

4. 集団的自衛権に関する、これまでの首相の記者会見や集中審議、そして、与党間協議で明らかとなったことは、現行法制の下でも、民族主義的な政権が、その気になれば、いかに情報を開示せず、いかに他党の声に配慮せず、いかに国民の意思を無視して、防衛政策を押し進めることが出来るか、ということでした。

もし仮に、現政権下で集団的自衛権が容認されれば、その後の運用も、全く同様に、情報を開示せず、他党の声に配慮せず、国民の意思を無視して行なわれるでしょう。

以上のような与党政権の姿勢に照らしてみた場合、現在の政権には、国家安全保障政策に関する政権担当能力がないと言わざるを得ないと思います。

このような政府の姿勢が続けば、日本の国家安全保障はガタガタになります。周辺各国との関係を損なうだけでなく、同盟国の安全保障も損ないます。また、自衛隊にも混乱を招きます。

5. 外交政策を大切にし、憲法が定める民主主義と基本的人権保護を実現しつつ、国家安全保障政策を進めて行くことが重要だと思います。

野党は、単に集団的自衛権の限定的容認を認めるか否かという狭い議論にとどまるのでなく、「外交を優先した国家安全保障政策の推進」と「情報開示をともなう民主的文民統制の確立」という、より高い次元からの主張を行なって行く必要があると思います。

そうすることで、野党は、与党政権を、政策的にも、理念的にも凌駕するだけでなく、今後の野党連携において、与党に対する政策的主導権を発揮することにもつながります。

そして、何よりも、それが、東アジアの平和と国民の生命・権利・自由を守ることにつながります。


参照資料:

(1) 「武力行使の“新3要件”、石破氏『全てに対処できる』」、2014年6月14日、TBS系(JNN)配信

(2)「集団的自衛権: 公明、地方から異論 慎重論や連立離脱も」、2014年6月28日、毎日新聞

(3)「首相会見から逸脱 集団安保で機雷掃海 多国籍軍入り可能に」、2014年6月21日、東京新聞

(4)「公明、『集団安保』提案に反発=与党協議の新たな火種に」、2014年6月20日、時事通信

(5)「政府: 集団安保、答弁書で容認…日本へ攻撃時」、2014年6月27日、毎日新聞

以上


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。