【朝鮮半島有事の際の邦人輸送中の艦船防護について ー 集団的自衛権と海上警備行動】

1. 5月28日に衆議院予算委員会において、そして、29日に参議院外交防衛委員会において、集団的自衛権(COLLECTIVE SELF DEFENSE)に関する集中審議が行なわれました。審議の過程で、首相の記者会見だけでは見えてこなかった、様々な重要な点が明らかになりました。

2. 先に4月17日付の弊ブログ記事「JAPAN PARTIES DEBATE ON COLLECTIVE SELF DEFENSE」でも、お伝えさせていただきましたように、日本の国民のみなさん、とくに若い世代のみなさんは、国家安全保障(NATIONAL SECURITY)の議論に慣れていません。そのため、集団的自衛権に関する国会議論においては、国家安全保障の目的は何か、そして、その目的を実現する手段は何か、という観点から、国民のみなさんに分かりやすく議論を進めていく必要があると思います。

「平和を維持し、国民の生命・権利・自由を守る」という国家安全保障の目的を実現するため、合理的な手段を的確に選択し、行使することが必要となります。

3. 首相は、5月15日の記者会見の中で、朝鮮半島有事の際の邦人輸送の米艦防護の事例を挙げ、日本人を守るためには、集団的自衛権の容認が必要であると説明しました。

これに対し、今回、衆議院予算委員会での集中審議の中で、委員の一人から、集団的自衛権の行使ではなく、むしろ、防衛出動以前の、海上警備行動(SEABORNE POLICING ACTION)と類似の概念で、そういった船に乗っている日本人について、自衛隊が警護できるような規定を、自衛隊法の中に置くべきであるとの提案がありました。非常に素晴らしい提案だと思います。

目的は、艦船で避難する日本人を守ることです。

この点、集団的自衛権を根拠にして邦人輸送中の艦船を防護するとすれば、同盟関係にあるアメリカの艦船を守るだけになってしまいます。

一方、海上警備行動を援用して艦船を防護するとすれば、邦人輸送中の、あらゆる国籍の艦船を守ることが出来ます。


I. 目的
「朝鮮半島有事の際、艦船により避難する日本人を守ること」


II. 手段

【手段A】集団的自衛権を根拠にした邦人輸送中の艦船防護

・防護する艦船が、同盟関係にあるアメリカの艦船に限定される。

・集団的自衛権を発動し、相手側に対する武力行使の意思決定がされているため、相手側の先制攻撃を受けるリスクが大きい。


【手段B】海上警備行動の援用による邦人輸送中の艦船防護

・防護する艦船がアメリカの艦船に限定されず、日本人を輸送しているあらゆる国の艦船を防護することが出来る。

・防衛出動以前の海上警備行動であり、相手側に対する武力行使が決定されていないため、相手側の攻撃を受けるリスクが小さい。


海上警備行動の援用による艦船防護であれば、より多くの日本人を、より少ないリスクで、守ることが出来ます。

海上警備行動の援用による艦船防護の方が、目的を達成するための、より優れた手段であるということが言えると思います。

4. 今回の集中審議で明らかになったように、集団的自衛権に基づく軍事的行動の効果・リスク・影響の分析・検討は、首相が選任した私的諮問機関あるいは内閣だけで行なえる仕事ではありません。

国会における、委員会審議、公聴会審議、専門家による意見陳述、等々の民主主義的プロセスを通じ、国民のみなさんの前で、オープンな議論を積み重ね、様々な立場・観点から議論をたたかわせ、国民のみなさんの批判・知見を得て、「平和を維持し、国民の生命・権利・自由を守る」という国家安全保障の目的を実現するための、現実的で、合理的な国家安全保障政策を形成して行く必要があります。

防衛政策の決定・実施にあたっては国民のみなさんの理解・支持が不可欠です。

5. 今後も、さらに、衆議院および参議院において、集団的自衛権について、時間をかけ、徹底的に議論する必要があると思います。集団的自衛権の問題を継続的に議論する特別委員会の設置が必要であると思います。


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。