【国家安全保障の目的を実現する上での外交的手段の重要性について、および、憲法解釈による集団的自衛権容認に関する、総選挙による国民の意思確認の必要性について】
1. 国家安全保障に関する、今国会の論議で欠けているのは、中国との対立を解決し、平和を維持するために、日本は外交的手段を十分尽くしているのか、という議論であり、そして、「平和を維持し、国民の生命・権利・自由を守る」という国家安全保障(NATIONAL SECURITY)の目的を実現するための手段(外交、諜報、軍事、等々)のうち、まず外交的手段による問題の解決が追求されるべきであるところ、3月下旬の民主党議員団による訪中に引き続き、5月4日から6日にかけて、日中友好議連に所属する国会議員による訪中が行なわれました。
しかしながら、報道によると、今回の日中友好議連の訪中においては、日本側から尖閣諸島問題の棚上げ論への回帰の提案はなく、中国側、日本側、それぞれが自らの立場を主張することに終始したと伝えられています。たいへんに残念です。とくに日中友好議連会長の発言は、現政権の意向をそのまま反映するものであったようです。
2. ただ、外交面では、3月下旬の民主党議員団の訪中以降、東アジアの安全保障環境をめぐって、きわめて大きな前進がありました。
3月下旬の民主党議員団による訪中の際、民主党と中国側との間では、危機管理メカニズムの構築に向けて努力するとの合意がありましたが、報道によると、4月22日に中国山東省青島で開催された、西太平洋海軍シンポジウムにおいて、日米中など21カ国の海軍高官は、海上で他国艦艇と予期せず遭遇した場合の行動を定めた「海上衝突回避規範(CUES: THE CODE FOR UNPLANNED ENCOUNTERS AT SEA)」に合意した、と伝えられています。海上における不測の事態の発生を防ぐための、きわめて重要な多国間合意だと思います。
政府間の交渉が困難な状況の下、今後も、野党を含む議員交流を通じ、空を含む、日中二国間の危機管理メカニズムの確立へ向け、中国との交流を進めて行くことが必要と思われます。
3. 一方、現政権は、今国会閉会後、憲法解釈変更による集団的自衛権容認を閣議決定し、十分な国会論議を経ずに、秋の臨時国会において、自衛隊法など関連法の改正を目指しているようです。
集団的自衛権の容認は、海外での武力行使につながり、戦後日本の方針の大転換になります。そして、一旦、国家安全保障の枠組みを定めると、それは、今後数十年間の日本の安全保障政策を規定する根本的な枠組みとなります。
そのため、集団的自衛権に関しては、時間をかけ、国会内外で、十分かつ徹底的な国民的議論を行なう必要があると思います。
4. 現政権は、2012年12月の総選挙において、主に経済再生・景気回復を求める国民の意思に基づき成立した政権です。にもかかわらず、現政権は、集団的自衛権の容認を目指し、与党間協議を進めるとともに、これが整わない場合、野党との連立組み替えによる数合わせも検討しているようです。国民の意思から遊離した政権運営と言わざるを得ないと思います。
このため、私は、現在、政府が進めようとしている、憲法解釈による集団的自衛権容認に関しては、その重要性に鑑み、国民的議論を経た上で、総選挙において、主権者である国民の意思を問うべきであると思っています。
具体的には、総選挙において、(1) 将来的に、集団的自衛権容認へ向け、憲法改正を目指すべきか否か、(2) 仮に、急迫の事態が発生し、憲法改正手続が間に合わない場合、憲法解釈変更により、集団的自衛権の限定的容認を認めるべきか否か、という点に関し、各党がその方針を明確にした上で、国民に意思を問うべきであると思われます。
民主主義の下、立法者並びに政府に対し、主権を有するのは、国民です。
5. なお、今後、集団的自衛権に関する国民的議論を進めるにあたっては、法律構成に関する議論だけでなく、実態面として、国家安全保障の目的である「平和を維持し、国民の生命・権利・自由を守る」ため、軍事的に日米の協働を必要とする、差し迫った、切迫した状況がはたして存在するのか、という議論が必要になると思います。
周辺国に対する、日本およびアメリカの、東アジアにおけるバランス・オブ・パワー(BALANCE OF POWER)が、今後どう推移するかについての、冷静で、客観的な議論が必要です。
そして、どのような論点について議論を行なうべきか、に関しては、アメリカの統合参謀本部議長を務め、その後、国務長官を務めた、コリン・パウエル(COLIN POWELL)が定式化した、有名なパウエル・ドクトリンが、ひとつの参考になるかも知れません。
コリン・パウエルは、ベトナム戦争の苦い経験に基づき、アメリカが軍事的行動を検討する際の要件として、パウエル・ドクトリンをまとめました。同要件は、より一般的に、防衛政策を議論・検討する際の指針としても、有効と思われますので、ご参考まで、ご紹介させて下さい。
「The Powell Doctrine (パウエル・ドクトリンの8要件)」
The Powell Doctrine states that a list of questions all have to be answered affirmatively before military action is taken by the United States:
(国家が軍事的行動を行なう際は、以下の全ての要件を充たすことが、必要である。)
(1) Is a vital national security interest threatened? (きわめて重大な国家安全保障上の利益が脅かされているか?。)
(2) Do we have a clear attainable objective? (明確かつ達成可能な目的が定められているか?。)
(3) Have the risks and costs been fully and frankly analyzed? (軍事的行動にともなう、リスクおよびコストは、十分かつ率直に分析されたか?。)
(4) Have all other non-violent policy means been fully exhausted? (他の全ての非軍事的政策手段は、徹底的に追求されたか?。)
(5) Is there a plausible exit strategy to avoid endless entanglement? (際限のない軍事的関与を避けるための、実行可能な出口戦略は存在するか?。)
(6) Have the consequences of our action been fully considered? (軍事的行動がもたらす結果・影響は、十分に検討されたか?。)
(7) Is the action supported by the American people? (軍事的行動は、国民の支持を得ているか?。)
(8) Do we have genuine broad international support? (軍事的行動は、国際社会の、広範かつ真の支持を得ているか?。)
6. 十分な国民的議論を経ずに、そして、国民の意思から遊離した状態で、国家安全保障政策を強引かつ拙速に進めると、政策の実行途上で、必ず、ほころびが出て、破綻します。
そのような事態が発生すれば、日本の国家安全保障を大きく損なうだけでなく、同盟国アメリカの安全保障政策をも損ないます。
引き続き、国会内外で、国家安全保障に関する包括的議論を進めるとともに、憲法解釈による集団的自衛権容認に関しては、総選挙において、国民の意思を問うことが必要です。
参照資料:
(1) "Pacific accord on maritime code could help prevent conflicts", Reuters, April 22, 2014
(2) "Pact to reduce sea conflicts", China Daily USA, April 23, 2014
(3) 「遭遇艦船へのレーダー照射禁止、西太平洋海軍シンポ 」日本経済新聞 2014年4月22日
(4) "U.S. Forces: Challenges Ahead", Colin L. Powell, Foreign Affairs, Winter 1992/93
(5) "Powell Doctrine is Set to Sway Presidents", Michael Lind, New America Foundation, November 7, 2006
(6) "Powell Doctrine", Wikipedia as of May 18, 2014
註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
1. 国家安全保障に関する、今国会の論議で欠けているのは、中国との対立を解決し、平和を維持するために、日本は外交的手段を十分尽くしているのか、という議論であり、そして、「平和を維持し、国民の生命・権利・自由を守る」という国家安全保障(NATIONAL SECURITY)の目的を実現するための手段(外交、諜報、軍事、等々)のうち、まず外交的手段による問題の解決が追求されるべきであるところ、3月下旬の民主党議員団による訪中に引き続き、5月4日から6日にかけて、日中友好議連に所属する国会議員による訪中が行なわれました。
しかしながら、報道によると、今回の日中友好議連の訪中においては、日本側から尖閣諸島問題の棚上げ論への回帰の提案はなく、中国側、日本側、それぞれが自らの立場を主張することに終始したと伝えられています。たいへんに残念です。とくに日中友好議連会長の発言は、現政権の意向をそのまま反映するものであったようです。
2. ただ、外交面では、3月下旬の民主党議員団の訪中以降、東アジアの安全保障環境をめぐって、きわめて大きな前進がありました。
3月下旬の民主党議員団による訪中の際、民主党と中国側との間では、危機管理メカニズムの構築に向けて努力するとの合意がありましたが、報道によると、4月22日に中国山東省青島で開催された、西太平洋海軍シンポジウムにおいて、日米中など21カ国の海軍高官は、海上で他国艦艇と予期せず遭遇した場合の行動を定めた「海上衝突回避規範(CUES: THE CODE FOR UNPLANNED ENCOUNTERS AT SEA)」に合意した、と伝えられています。海上における不測の事態の発生を防ぐための、きわめて重要な多国間合意だと思います。
政府間の交渉が困難な状況の下、今後も、野党を含む議員交流を通じ、空を含む、日中二国間の危機管理メカニズムの確立へ向け、中国との交流を進めて行くことが必要と思われます。
3. 一方、現政権は、今国会閉会後、憲法解釈変更による集団的自衛権容認を閣議決定し、十分な国会論議を経ずに、秋の臨時国会において、自衛隊法など関連法の改正を目指しているようです。
集団的自衛権の容認は、海外での武力行使につながり、戦後日本の方針の大転換になります。そして、一旦、国家安全保障の枠組みを定めると、それは、今後数十年間の日本の安全保障政策を規定する根本的な枠組みとなります。
そのため、集団的自衛権に関しては、時間をかけ、国会内外で、十分かつ徹底的な国民的議論を行なう必要があると思います。
4. 現政権は、2012年12月の総選挙において、主に経済再生・景気回復を求める国民の意思に基づき成立した政権です。にもかかわらず、現政権は、集団的自衛権の容認を目指し、与党間協議を進めるとともに、これが整わない場合、野党との連立組み替えによる数合わせも検討しているようです。国民の意思から遊離した政権運営と言わざるを得ないと思います。
このため、私は、現在、政府が進めようとしている、憲法解釈による集団的自衛権容認に関しては、その重要性に鑑み、国民的議論を経た上で、総選挙において、主権者である国民の意思を問うべきであると思っています。
具体的には、総選挙において、(1) 将来的に、集団的自衛権容認へ向け、憲法改正を目指すべきか否か、(2) 仮に、急迫の事態が発生し、憲法改正手続が間に合わない場合、憲法解釈変更により、集団的自衛権の限定的容認を認めるべきか否か、という点に関し、各党がその方針を明確にした上で、国民に意思を問うべきであると思われます。
民主主義の下、立法者並びに政府に対し、主権を有するのは、国民です。
5. なお、今後、集団的自衛権に関する国民的議論を進めるにあたっては、法律構成に関する議論だけでなく、実態面として、国家安全保障の目的である「平和を維持し、国民の生命・権利・自由を守る」ため、軍事的に日米の協働を必要とする、差し迫った、切迫した状況がはたして存在するのか、という議論が必要になると思います。
周辺国に対する、日本およびアメリカの、東アジアにおけるバランス・オブ・パワー(BALANCE OF POWER)が、今後どう推移するかについての、冷静で、客観的な議論が必要です。
そして、どのような論点について議論を行なうべきか、に関しては、アメリカの統合参謀本部議長を務め、その後、国務長官を務めた、コリン・パウエル(COLIN POWELL)が定式化した、有名なパウエル・ドクトリンが、ひとつの参考になるかも知れません。
コリン・パウエルは、ベトナム戦争の苦い経験に基づき、アメリカが軍事的行動を検討する際の要件として、パウエル・ドクトリンをまとめました。同要件は、より一般的に、防衛政策を議論・検討する際の指針としても、有効と思われますので、ご参考まで、ご紹介させて下さい。
「The Powell Doctrine (パウエル・ドクトリンの8要件)」
The Powell Doctrine states that a list of questions all have to be answered affirmatively before military action is taken by the United States:
(国家が軍事的行動を行なう際は、以下の全ての要件を充たすことが、必要である。)
(1) Is a vital national security interest threatened? (きわめて重大な国家安全保障上の利益が脅かされているか?。)
(2) Do we have a clear attainable objective? (明確かつ達成可能な目的が定められているか?。)
(3) Have the risks and costs been fully and frankly analyzed? (軍事的行動にともなう、リスクおよびコストは、十分かつ率直に分析されたか?。)
(4) Have all other non-violent policy means been fully exhausted? (他の全ての非軍事的政策手段は、徹底的に追求されたか?。)
(5) Is there a plausible exit strategy to avoid endless entanglement? (際限のない軍事的関与を避けるための、実行可能な出口戦略は存在するか?。)
(6) Have the consequences of our action been fully considered? (軍事的行動がもたらす結果・影響は、十分に検討されたか?。)
(7) Is the action supported by the American people? (軍事的行動は、国民の支持を得ているか?。)
(8) Do we have genuine broad international support? (軍事的行動は、国際社会の、広範かつ真の支持を得ているか?。)
6. 十分な国民的議論を経ずに、そして、国民の意思から遊離した状態で、国家安全保障政策を強引かつ拙速に進めると、政策の実行途上で、必ず、ほころびが出て、破綻します。
そのような事態が発生すれば、日本の国家安全保障を大きく損なうだけでなく、同盟国アメリカの安全保障政策をも損ないます。
引き続き、国会内外で、国家安全保障に関する包括的議論を進めるとともに、憲法解釈による集団的自衛権容認に関しては、総選挙において、国民の意思を問うことが必要です。
参照資料:
(1) "Pacific accord on maritime code could help prevent conflicts", Reuters, April 22, 2014
(2) "Pact to reduce sea conflicts", China Daily USA, April 23, 2014
(3) 「遭遇艦船へのレーダー照射禁止、西太平洋海軍シンポ 」日本経済新聞 2014年4月22日
(4) "U.S. Forces: Challenges Ahead", Colin L. Powell, Foreign Affairs, Winter 1992/93
(5) "Powell Doctrine is Set to Sway Presidents", Michael Lind, New America Foundation, November 7, 2006
(6) "Powell Doctrine", Wikipedia as of May 18, 2014
註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。