第96回 「不退転の決意」
11月5日、国内初の男子プロバスケットリーグ「bjリーグ」が、東京、仙台、大阪で開幕した。
東京の有明コロシアム会場では、試合中DJが音楽を流し、MCはマイクを離さず、タイムアウトにはチアリーダーが登場し、観客と一体化したアメリカのNBAを彷彿させる華やかな開幕であった。
今から5年前、「ファンを喜ばせるバスケがしたい」と、元全日本監督から相談を受けた。
日本にプロのバスケットリーグを創りたいとの夢溢れる事業構想の話に、心動かされた。市場は500万人のバスケ愛好者人口を有し、世界では4億5千万人いるといわれており、アメリカのNBAを頂点に50ヶ国の国ですでにプロリーグが運営されている。
日本では、プロ化されることなくここまできただけに、様々な障害が予想され、難易度の高い事業構想だ。
新たな事業を成功に導くには、市場を始め様々な要素が求められる。
そして、その成功要因は、何よりもその事業開発を牽引する「人材(起業家)」にかかっている。
私はインキュベーションに取り組む際、信頼できる起業家(アントレプレナー)がいないかぎり決断はしない。
多くの企業で、企業内新規事業が成功しない要因として、暗黙の「社命」のような形で事業推進者に押し付けた結果、その人材にも、その家族にとっても、そしてその企業にとって決して良い結果をもたらさない。
新規事業に取り組むということは、そのリーダーに「不退転の決意」が求められ、とりあえず取り組んでみて、小さな困難に直面しただけで、駄目でしたでは済まされない。
己の人生と命を賭ける、「覚悟」と「気概」がなければ、新事業開発は成功しない。
企業において、よく「新規事業計画」と言う言葉が使われる。新しい事業とは計画通りいかないものであり、何が起こるか解からない事件との遭遇の連続が、新規事業開発である。
だから何を信じて、投資を含め、支援するかの決断は、起業人に賭けることが最大の要素となる。
バスケプロリーグを立ち上げる前のある日、元全日本監督と、二人でじっくり話す機会があった。
「私は、全てを失ってもやりたい」と静かな語り口で、決意に満ちた言葉を聴いた。
道は拓け、プロリーグはできると感じた瞬間であった。
その後、日本協会JBLから、離れての立ち上げとなり、様々な問題解決の連続であったが、11月5日 東京、仙台、大阪で日本初のリーグが、華々しく開幕した。
新規事業の成功の大きな要素は、誰がやるか、そして、そこに誰が集うかにある。
社会の役に立つ事業であれば、夢は叶う。
これを機に、日本のスポーツエンターティメントビジネスの幕開けになればと願っている。