料理研究家が日曜日の夜にのみ営業する、居酒屋「華ちゃん」。
今夜も開店時間となりました。
今夜のお客さまは、名古屋市近郊の街でビストロ(洋風居酒屋)を経営する山上さんご夫妻です。
華ちゃん☆☆
お寒い中を、ようこそお越しくださいました。ありがとうございます。
まずは、「タラの白子ポン酢」から召し上がってくださいませ。鮮度の良い白子をサッと湯引きし、自家製のポン酢しょうゆを添えました。
「娘たちも連れて来てやりたかったわ」と、残念
そうなお顔です。
〜、華ちゃんは続けて、セリとマグロの薬味和えをおすすめします。
山上さん夫 ☆☆☆
セリが、うまい季節になってきましたね!!!
こうしてボイル(茹でる)して、アッシェしたジンジャー(みじん切りした生姜)と、ポワロー(ネギ)で和えた中国風のような和え物は、季節を感じさせてくれます。
華ちゃん居酒屋に来ると、色々なアイデアがもらえるので、本当にありがたいです。
僕も早速明日には、セリとマグロのサラダを作ってみます!
こうして全く異なる食の世界を体験させてもらえることは、とてもうれしいです。
あらあら、私は何もしていませんわ。
山上さんが、まるでスポンジのように何もかも吸収なさる能力の持ち主なんですよ。
セリを見て、僕はサラダにする! なんて、私は全く考えもしませんでしたもの。笑笑
華ちゃん☆☆
山上さんがお気に入りの、ユリ根の和風ポタージュです。
フレンチのオーナーシェフに、このようなものをお出しして、毎回気恥ずかしい限りです。
梅形の生麩を薄切りにして、添えました。
ユリ根をマッシュして(裏ごし)、カツオ出汁で煮たのですよね。
うまいですね〜🎵
これならば、年齢の高いお年寄りにも喜んでもらえる!と、僕がゴボウやレンコンで真似したものです。
〜山上さん夫婦は、かつては小さなお子さん2人を育てながら、ビストロを経営されていました。
店舗兼住まいの小さなレストランは、お子さんを育てながらの日々は過ごしやすい反面、子どもの泣き声がするとお客さまらからは嫌がられ、ご夫妻には苦労も多々ありました。
山上さん夫 ☆☆☆
華ちゃんがうちのビストロに初めて来てくれたのは、長女がまだ小学生の頃でした。
その日、娘は体の具合が悪く、グズグズと泣きながら母親にまとわりついて離れず、僕は「いい加減に泣き止みなさい!」と、子どもを怒ったのです。
その風景を見ていた華ちゃんが素早く麻美(長女)を抱き寄せ、「一緒にママのお手伝いをしましょうね」というやいなや、娘の手を引いて客さまの席に向かって歩きはじめました。
僕も妻も呆気に取られていると、各席のお客さまに「いらっしゃいませ。お水をお持ちしましょうか?」と声をかけたり、玄関のドアの前に立って麻美と共に、「ようこそ」などと言いながら、お客さまを出迎えたりしてくれました。
華ちゃん☆☆
そうでしたねぇ〜! 麻美ちゃんと夕美ちゃんがその後も2人でお客さまにご挨拶をすることが続くと、それがすっかり店の評判となりました。
髪に可愛いカチューシャをつけ、姉妹が手を繋いで席回りすると、特にお年寄り夫婦の来店が増えたのでしたね。
かつてのニュータウンはオールドタウンとも悪評され、高齢者が増え始めた頃でした。
お年寄りたちからは、洋食は食べたくないとビストロは敬遠されていた頃です。
そんな折だったこともあり、山上さんが味付けにカツオ出汁を使ったスープや箸で食べられる少量ずつのお料理を盛り込んだ洋風小皿料理を出したところ、マスコミの取材が急増しました。
シメの小さな和風ローストビーフ丼が変形の織部の器に盛られ、特に人気となりました。
家庭の匂いがするからダメだというお客様が去り、家族の暖かい雰囲気を好むお年寄り世代にヒットしましたね。
蟹クリームコロッケも召し上がってくださいませね。
ウスターソースにとろみをつけてソースにしたもので、山上さんのビストロでも参考にして頂いているものです。
バターをたっぷり使ったソースはクドイと言う世代が増え、コーンスターチでとろみをつけたシンプルなソースが受けたのでした。
山上さん 妻 ☆☆☆
子ども達が学校から帰ってから宿題や早い夕飯を済ませた後に、店のお客さまの席周りをすると、おひとり暮らしのお年寄りや高齢のご夫婦からは、「まるで孫に会えたようだ」と喜んで頂きました。
中には、涙を流す人もありました。
うれしかったです。お客さまにご迷惑をおかけしないようにと、子どもを隠すように育てていた頃でしたから。
子ども達は席を回ってご挨拶をする中で、お客さまに喜んで頂けることに使命感を感じたり、両親と同じ空間にいる安堵を感じて素直に育ちました。
華ちゃんのおかげです。ありがとうございます。
華ちゃん☆☆
さあさあ、手作りのお漬物で、炊きたてのごはんを召し上がってくださいませ。
菊芋のたまり漬けと、大根の皮のハリハリ漬けです。熱々のほうじ茶でお茶漬けもなさってね。
人は洋食を食べた後には、なんだかお茶が飲みたいものです。パンではなく、ごはんが食べたいという人も多いです。
これからもご苦労はあることかと思いますが、考え、工夫し、助け合ってお過ごし下さいませねと華ちゃんが語りかけると、おふたりは顔を見合わせながら、静かにうなづきます。
華ちゃんは家ネコの「イチゴちゃん」を抱えて、ご夫妻を玄関まで見送ります。
美しい満月が冬空に輝く夜です。
〜このお話はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません〜




