料理研究家が、日曜日の夜にのみ営業する、居酒屋「華ちゃん」。
今夜も開店時間となりました。
今夜のお客さまは、茜さん。
華ちゃんが指導する、「食のスペシャリスト」クラスの生徒さんです。
40歳代の前半くらいに、なっておられるでしょうか。ニコニコ顔で玄関から入って来られました。
薄物のセーターから、お腹がはみ出しそうなぽっちゃり体型です。
まずはほうれん草と黄菊、シメジのおひたしからどうぞ。
茜さん「あ〜! この料理は今月の料理教室で習ったものですね。すだちの香りが爽やかなので、すぐに主人に作ってあげました。
美味しい美味しいと、大喜びしてくれました。
華ちゃん先生のおかげで、主人をくつろいだ気持ちにさせることができ、感謝しています」と笑顔で話す茜さんです。
熱々の土瓶蒸しは、いかがでしょうか?
今夜は何だか冷えますもの。
主人は仕事上、いつも苦難を抱えていて、本当に気の毒です」。
〜茜さんのご主人は弁護士さんです。まだ30代なのに、大きな事務所を構えて活躍されています。
茜さんの方が、7歳年上とのこと。
茜さんのご主人が扱う仕事は主に民事ですが、金銭トラブル、相続問題、離婚、交通事故など多方面にわたるので、まさに心身消耗状態で帰宅される由。
茜さんが作る料理が唯一の楽しみだと、聞いたことがあります〜
華ちゃん「今夜は台風が近づいているので、早く召し上がっていただけるように、点心盆に盛りました。
栗ご飯、鯛のゴマだれ、ユリ根の梅肉など、17種類の盛り合わせです」。
その当時は、主人は大学の先輩が開業していた事務所のイソ弁(いそうろう弁護士)でした。
まだまだ見習いも同然の頃でした。
弁護士って、本当に大変な仕事なんですよ。
何しろ、お客さま(依頼人)は、何らかのトラブルを抱えておいでになるのですから。
事務所の中は、常にマイナスの空気が流れているというような雰囲気でした。
私はただの事務員だったので、章雄さんの目に止まっているとは全く気付きませんでした。
ある雨の日、章雄さんがズブ濡れで事務所に帰って来た折に、私が熱いお茶を差し上げたのがきっかけで食事に誘われました。
まさか、私のようなチビ、デブ、ブスを相手にしてくれるなんて考えてもいませんでした。
〜茜さんはチビでふっくらとした体型ですが、ブスではありません〜
章雄さん「茜さんは、ぼんやりしているところが良い。
ぼ〜っとしているから、こちらもあまり気遣いしなくて済む。
ブスだから良いんだ。美人は自分のことを鼻にかけているから、こちらが気遣いしてやらなくてはならないので疲れる。
その点、茜さんはぼんやりとしているが、温かい。疲れている時に、ぼや〜んとお茶を持って来てくれる。最高だ!!!
ふっくらしているから、気持ちが楽になる。世の中の女性は、どうしてあんなにも痩せたがるのだろう? ギスギスした感じがして僕は嫌いだ」。
華ちゃん「お食事の最後に、たい焼きはいかが?有名店のものです。
もっちりとした食感が、何とも後を引きます」。
あ〜美味しい!! と、半分召し上がったあとに、章雄さんに残りの半分を持ち帰ろうとする茜さん。
神経を研ぎ澄ませて仕事をされるご主人を、温かく支える茜さん。
世の中には様々な愛の形がありますが、 茜さんと章雄さんが美味しい料理を食べながら、健康であって欲しいと願う雨の夜です。
〜このお話はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません〜





