料理研究家が、日曜日の夜にのみ営業する、居酒屋「華ちゃん」。

今夜も開店時間となりました。

今夜のお客さまは、繭子さん。名古屋市内で美容院やエステサロンを経営する、トータル ビューティアーティストです。

その磨きがかかった美しさは、近寄り難いものがあります。50歳を過ぎているとのことですが、年齢を全く感じさせない「謎の美女」です。

まずは、地豆の塩茹でからどうぞ。

今が旬の生の落花生を、塩茹でしたものです。


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繭子さん「わあ〜! 生のピーナッツというものを初めて食べましたが、何とも美味しいものですね」。

もう少し食べたいですと、2皿目を召し上がります。

華ちゃん「地タコをどうぞ。華ちゃん居酒屋では、卸し生姜と粗塩で食べて頂く形です。黄菊の花びらを添えました」。


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繭子さん「手作りのおいしいものを食べると、ホントに気持ちが明るくなりますね〜〜! 

華ちゃん居酒屋は、心のカウンセラーだと聞いて来ました。なかなか予約が取れないところを、ご無理を申しました。

今夜は、私の悩みを聞いて頂きたいのです」。

華ちゃん「人は悩みや苦しみが多いものですが、誰かに話をすることで心が軽くなったり、話をしている内に自分の意思が固まったりするものです。

繭子さんの幸せに通じることであれば、華ちゃんは全力で応援致しますわ」。

<ツルムラサキのおかかまぶし>をお出しして、繭子さんのお話に耳を傾けます。


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繭子さん「私どもの業界は、なかなか人が集まらないのです。

離職率も、ハンパなく高いです。

とにかく、意識の低い人が多い。面接日を指定しても、連絡もないまま来ないなどごくフツー。

スニーカーで面接に来る。出したお茶を勧める前に手をつける。靴を揃えず、脱ぎ捨てて上がってくる。

もうそれはそれは、呆れかえるほどです」。

延々と続く愚痴に、華ちゃんは相槌をうったり、黙って聞き役に徹したり。

合間合間に、下ごしらえしておいた料理を出したり。

何とも美しい食べ方、食べっぷりの良さ。笑笑

本カワハギの煮付けです。



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華ちゃんは、伊勢海老をグリルします。




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伊勢海老のスープ仕立てです。

その昔、華ちゃんが通いつめた志摩観光ホテルの、あの伝説の料理長の味を真似てみたのですが、遥か足元にも及びません。


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繭子さん「本来、私は美容家としての職人技術を磨きたかったのですが、いつの間に実業家となってしまいました。

店を作る度に、人を集めなければならず、いつも人集めに奔走しています。

業界の求人紙に募集をかけると、ホントに驚くようなことばかり。

最近は週休2日を盾にして、応募者の呆れかえるような発言が多いのです。

先日の面接者は、「正社員で勤務したいです。でも、土日は休みたいです」って。

私たちの業界は、土日が掻き入れ時です。

それでも我慢して、「土日を休みたい理由を聞かせてください」と言ったら、「趣味の柔道のレッスン日だからです」って。

もう呆れかえりました。

「どうぞどうぞ! 趣味を優先してください。私どもは、仕事をしてくださる人が欲しいのです」と、お帰り頂きましたわ。

〜海の幸フランス料理を広めた、かのシェフの口癖〜

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「僕は仕事が楽しくて仕方ない。会社は休め休めと僕に言うが、休暇なんてないほうが良いんだ」〜

繭子さん「先日面接した19歳は、<彼と住んでいるのでご飯を作らないといけないから、夜は5時に帰りたい>ですって。

平日は5時からが、繁忙期ですのに」。

深いため息と共に、うっすらと涙も滲みます。

華ちゃんは、ちょうど届いたばかりのカニ寿司をお出しします。

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ミョウガの味噌漬けは、華ちゃん居酒屋の名物です。


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華ちゃん「本当に! 最近の若い人たちを見ていると、悲しくなります。

仕事は相手の都合に合わせるべきだとは、思っていないですね。

華ちゃんたちが料理の修行時代は人よりも長く勤務し、少しでもたくさんのことを学びたいと思ったものですが。

アッ! それを言うと、違法残業とか、過労死とか言われてしまいます。

修行しないので、腕の良い職人が育たないと言う悪循環もありますね〜」。

繭子さん「余りの心労で、先日私は倒れました。

その折に夫に、私はもうこのまま立ち直れないかも知れないと言ったのです。

私の夫は、いわゆる髪結いの亭主で、あまり役立たずなのですが」。

華ちゃん「デザートの栗の渋皮煮と、黄金桃をご用意しておきました。

どうぞ元気を出してくださいませ」。



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華ちゃん「ところで、その折にご主人はなんて仰ったのですか?」。

繭子さん「夫は私に向かって、大丈夫! 大丈夫!!!って、言うものですから、

ちっとも大丈夫じゃないわ!! あなたは所詮、髪結いの亭主でしょ! 
私がこのまま退院出来なかったら、店はどうなるのよ〜って、怒ったの。

その時、夫は<大丈夫だっ!!! 必ず僕が最後まで君の面倒を見る!!!>って言ってくれたのです。

まあ〜〜!  最高の幸せですね〜って華ちゃんが言えば、

繭子さん「はい! 本当に〜〜♫」。

お手伝いの美代ちゃんが、「バカバカしくて、聞いていられませんっ! 」。

華ちゃんも、「本当に〜〜、聞いていられません!!!!」笑笑

居酒屋「華ちゃん」の夜は、賑やかに更けていきます。

〜このお話はフィクションであり、実在の人物及び団体とは、一切関係ありません〜