料理研究家が、日曜日の夜にのみ営業する、居酒屋「華ちゃん」。

今夜も開店時間となりました。

今夜のお客さまは、高校教師の久美子さん。

お久しぶりの来店です。

まずは、<松茸の土瓶蒸し>からどうぞ。



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まあ〜〜!!  もう松茸が出ているのですね。何て贅沢な!!!と、大喜びしてくださる久美子さんです。

華ちゃん「久美子さんからご予約頂いたので、昨日は早朝から市場に出かけて買い物をし、今日は朝からせっせと準備しましたのよ。


真夏日が続いていますが、市場には初秋の便りが、あれこれと届いておりましたわ。

今夜は、ゆっくりなさってくださいませね。

お母さまへのお供えにも、松茸をご用意しております。お母さまがお好きだった、松茸ごはんを炊いてあげてくださいな」。


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久美子さん「母は厳格な人でした。

朝起きたらまずは仏壇の花を替え、読経を済ませた後には、正座をして新聞を読みました。

私がまだ幼い頃に父が亡くなり、生活は困窮していたはずなのに、決して弱音を吐かずに清く生きた人でした。

華ちゃん「お母さまがお元気だった頃には、華ちゃん居酒屋に何度か、ご一緒に来てくださいましたものね。

あの頃を思い出しながら、こんな料理を作ってみましたわ。

お母さまは、まさにひまわりの大輪のように美しい女性でしたから」。



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食べてしまうのが勿体ないわと言いつつ、作り方を聞く久美子さんに、華ちゃんは丁寧に、レシピを伝授します。

久美子さん「母が亡くなってから、もう3年になりますが、未だに母を思い出して不意に泣けることがあります。

私が40代になり、生活にゆとりが出て来た頃、新車を買って母と叔母を温泉に連れて行ったことがあります。

母も叔母も、それはそれは大喜びでした。

温泉で肌がツルツルになっただの、旅館の料理が格別な美味しさだったのと、何度も2人で喜びあったと、後に聞きました。

華ちゃん「今夜はお客さまも少ないので、冷房が効き過ぎますね。

熱々の手作り飛竜頭を作ってみました。

たっぷりの卸し大根と共に、さあ召し上がってください。一味唐辛子を効かせました」。


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華ちゃん「昔から、孝行したい時には親は亡しと言いますが、久美子さんはご立派ですね〜〜。

お母さまや叔母さままで、あちこちと連れ歩かれたと聞きました。

そうそう、大相撲名古屋場所にもお連れになったのですよね。

テレビ中継で、お二人が並んで観戦されているのを何度も見ましたわ。

名古屋場所は夏休みなので、親孝行が出来たのですね」。

華ちゃんは、久美子さんの夏バテ予防に、野菜と肉のパエリアを作りました。

さあさあ、たっぷり召し上がってください」。



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久美子さん「母が口ぐせのように言った言葉が、あります。
 
それは、<年寄りは安く済む>と言う言葉でした。

たとえば温泉に連れて行ってもらうと、毎晩お風呂に入る度に、あの滑らかな温泉を思い出して幸せな気持ちになれる。

久美子に連れて行ってもらったおかげで、知り合い達からは、相撲を見に連れて行ってもらったのだね。テレビで見たよ。

親孝行な娘さんを持って、幸せだね〜〜!
と、何度も褒められた。

年寄りは小さな思い出があれば、何度でも思い出しては幸せになれるものなんだよ。

年寄りは安いものだ」。

久美子さん「母の苦労を思えば、私の親孝行など大したことではありません。

母が周りの方々に、何度も何度も旅の話や相撲観戦の思い出話をしたと後に聞いた時には、母のためにそれなりのお金を出したことは、とても良かったと思います。

母のためにはたくさんのお金を使いましたが、悔いはありません」。


華ちゃん「デザートにクッキーを焼きましたの。お子さんに持ち帰ってあげてくださいませ。

ザクザクとした歯ざわりが楽しいです」。



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久美子さん「苦労をし続けたので、母は長い間、腎臓を患っていました。


たった2週間の入院で、呆気なくあの世に旅立ちましたが、臨終のまさにその時、母は不意にしっかりと目を開き、

<ありがとう。幸せだったわ>と、はっきりと言ったのです。

母が臨終の間際に「幸せだった」と言ってくれた言葉を思い出し、今でも心が休まります」。

華ちゃん「雷干しを作って、漬物にしましたの。

カリカリとした食感が楽しいです。



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久美子さんには、冷やしそうめんと一緒に、雷干しをお勧めします。

遠くで打ち上げられる花火の音が、かすかに聞こえ、久美子さんと華ちゃんは、亡きお母さまを思い出しながら、感慨にふけります。

〜このお話はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません〜