料理研究家が日曜日の夜にのみ経営する、居酒屋「華ちゃん」。

今夜も開店時間を迎えました。

今夜のお客さまは、幼なじみの千秋ちゃん。

お会いするのは、何年ぶりでしょうか。

先付けには、「ほうれん草と黄菊のスダチ浸し」を用意しておきました。カニの身も入れましたの。

今夜は満席なので、たっぷりと用意しています。

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すぐに盛り付けしますね。

華ちゃんお得意の、黒酢の酢豚もご用意しましたよ。

千秋ちゃん☆    「これこれ!  この店の名物なんですってね」。


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「 とっても美味しいわ!!!
名物になるのも納得よ」。

そして、カウンター越しに千秋ちゃんが、思い出話を次々と。

千秋ちゃん☆   「 華ちゃんもご承知の通り、私は早くに父を亡くしました。

私は生後100日でした。

2つ違いの姉がいますが、母は25歳という若さで未亡人になり、様々な苦難がありました」。

何度か聞いたお話ですが、華ちゃんは、そうなんですねぇ〜と、初めて聞いたように、うなづきます。

豚肉とナスの甜麺醤炒めも、どうぞ。

これも、最近のお得意料理よ。

華ちゃんは、中華料理も得意なの。


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千秋ちゃんは、パクパクと食べます。
本当においしそうに食べてくださるので、作り手もうれしいものです。



千秋ちゃん☆  「名古屋の中心地で代々続く薬問屋の跡継ぎだった父は薬剤師で、母は田舎の農家の娘でした。

ある意味、身分違いの母が良家に嫁ぐという玉の輿に乗れたのも、戦後の食糧難が関係しているのかもしれません。

父と母が結婚したのが、昭和22年のことですから、街中では、まだまだ米が充分には買えず、田舎の農家から嫁を迎えることで、米という食糧を確保したかったのではないでしょうか?」


華ちゃん☆  「お得意のホタテシュウマイもどうぞ」。



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千秋ちゃんのお話は、止まりません。


私の母は、義母からは事あるごとに「田舎者の嫁」と蔑まれましたが、田舎から大量に届く米は、母の自慢のひとつでもあったようです。

しかし、父が流行り病でアッという間にこの世を去って、私たちの不幸は始まりました」。

華ちゃん☆  「確かに、お米はいつの時代も貴重品ですものねぇ〜。

今夜は、中華おこわですよ」。


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デザートはミルクプリンよ。鯉の形に仕上げました。

少し寒くなる季節ですから、身体を温めるデザートにしました。

白キクラゲのジンジャーシロップは、後味が良いし、身体が温まります。

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父が亡くなり、私たち姉妹と母は、追われるように名古屋の地を離れ、母の実家に戻されたのです。

母の実家は農家で、私たちは母の実家の大きな田舎屋の一角に小家を建ててもらい、祖母や母の兄夫婦に見守られながら、慎ましくも幸せな日々を過ごしました。

何しろ、婚家は薬問屋で大勢の薬を調合する職人さんやらお手伝いさんらがいて、田舎者の母には耐えられないほどの苦痛もあったようですから。

しかし穏やかな田舎の生活も、長くは続かなかったのです。

30歳にもならない母が、いつまでもひとり身でいられるはずはなく、母は、道ならぬ恋をしてしまったのです。

そこで私と姉は、結束してある行動を起こしました。

いえいえ、母の恋人から虐待などを受けたわけではありません。

華ちゃん☆  「もっとデザートを召し上がってね」。

新りんごのアップルパイ、イチジクのアイスクリームもどうぞ。


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夜も更けてまいりましたね。

この続きは、来週またお聞かせくださいませねと、千秋ちゃんを見送ります。 

〜来週に続く〜


〜このお話は、フィクションであり、実在の人物及び団体とは、一切関係ありません〜